SNSで多くのフォロワーを抱え、影響力の高い情報を発信する「インフルエンサー」に、自社の商品やサービスを紹介してもらう広告宣伝の手法「インフルエンサーマーケティング」が注目を浴びている。この分野に詳しく、コンサルティングも手掛けるLIDDELLの福田晃一CEOが解説する。

 Instagram(インスタグラム)やTwitter(ツイッター)、Facebook(フェイスブック)などのSNSで多くのフォロワーを抱え、発信した情報がユーザーや社会に影響を与える人を「インフルエンサー(influencer)」と呼ぶ。このインフルエンサーに、自社の商品やサービスをSNS上で紹介してもらう広告宣伝の手法「インフルエンサーマーケティング」が勢いを増している。

 インフルエンサーマーケティングの国内大手企業「LIDDELL(リデル)」には、現在、約2万人のインフルエンサーが所属する。同社の取引先には資生堂、花王、コーセー、ディオール、ロレアルなどの化粧品会社のほか、ポケモン、サンリオ、バンダイなどのエンターテインメント系企業や、三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった金融機関など、幅広い分野の大手企業の名前が並ぶ。

 大企業も広報・販売促進として積極的に取り入れるインフルエンサーマーケティングが、これまでのマーケティングと異なる点とは何か。既存のマーケティングでは得られなかった、独自の強みや魅力とは何か。日本でのインフルエンサーマーケティングのパイオニアの一人である、LIDDELLの福田晃一CEO(最高経営責任者)が、インフルエンサーマーケティングの強みや弱み、将来像、費用などを解説する。

インフルエンサーの影響力を活用したインフルエンサーマーケティングに、多くの企業が注目している(写真: Diego Cervo / Shutterstock)
インフルエンサーの影響力を活用したインフルエンサーマーケティングに、多くの企業が注目している(写真: Diego Cervo / Shutterstock)
INDEX
  • インフルエンサー、インフルエンサーマーケティングとは何か
  • 既存のマーケティングとインフルエンサーマーケティングの違い
  • インフルエンサーマーケティングの歴史
  • インフルエンサーマーケティングの強みと弱み
  • インフルエンサーマーケティングの将来像
  • インフルエンサーマーケティングを導入方法・事例
  • インフルエンサーマーケティングの費用・相場

インフルエンサー、インフルエンサーマーケティングとは何か

 インフルエンサーマーケティングとは、SNSに多くのフォロワーを持つ「インフルエンサー」の影響力を活用して、企業や自治体が広報・販売促進活動を行うことだ。

●インフルエンサー(influencer)とは
 「インフルエンサー」とは、もともとは「インフルエンス(influence)」すなわち「影響力」を持つ人を指すが、インフルエンサーマーケティングにおけるインフルエンサーは、InstagramやTwitter、FacebookなどSNS上で影響力を持つ人を意味する。動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」で活動する「ユーチューバー」、Instagramで活躍する「インスタグラマー」の中でも、大きな影響力を持つ人は「インフルエンサー」と呼ばれる。

 インフルエンサーマーケティングのインフルエンサーは、厳密にはSNSを主な活動の場としていることが条件となる。従ってSNSで何十万というフォロワーを抱え、その発言に大きな影響力があったとしても、タレントやスポーツ選手のように、SNS以外の場を中心に活躍している人物は、ここではインフルエンサーとみなさない。

●インフルエンサーマーケティングとは
 インフルエンサーマーケティングとは、インフルエンサーによる体験(先行)事例を周知させ、模倣したいと思うフォロワーたちと関係を構築して、商品やサービスの広報・販売促進などのマーケティングにつなげていく手法である。

 従来のSNSは投稿したら「いいね!」をもらえるなど、他人との「つながり」や「交流」を生み出す場として捉えられてきた。しかしマーケティング視点で見れば、SNSが持つ最大の強みは「体験情報の集積場所」であることだ。

 たとえばマスメディアが「これはおいしい!」「この映画、全米が泣きました!」と伝えても、受け手は宣伝文句ととらえてしまう。しかしSNS上で個人が、「この店はおいしかった」「この映画、まじで泣けた」と発言した場合、それは個人の純粋な体験情報として認識され、フォロワーからより信頼性や信ぴょう性の高い情報として受け入れられる。

 そのためフォロワーから信頼を寄せられているインフルエンサーが、SNSで投稿した商品やサービスに対する評価は、マスメディアの広報・広告よりも大きな影響力を持ち、宣伝効果を上げることになる。このインフルエンサーの影響力を、企業の広告宣伝に活用するのがインフルエンサーマーケティングである。

既存のマーケティングとインフルエンサーマーケティングの違い

 多くのフォロワーを有するインフルエンサーは、固定読者のいる雑誌やインターネット媒体のような“メディア運営者”に近い存在といえる。現在は数万のフォロワーを持つインフルエンサーも珍しくなく、彼らは数万部発行の雑誌に匹敵する訴求力を持つ編集長ともいえる。

 企業は商品やサービスを宣伝・販売促進するため、消費者に影響力のあるタレントやスポーツ選手といった著名人をCMなどに起用(キャスティング)する。しかしインフルエンサーマーケティングでは、企業や広告代理店はインフルエンサーを起用するのではなく、雑誌に広告を出稿するように、インフルエンサーとタイアップ契約を結ぶイメージである。

 既存のマーケティングとインフルエンサーマーケティングでは、目指すべきゴールも異なる。従来のマーケティングやプロモーションでは、商品を売るまで、つまり「消費者が商品を買ってくれた時点」がゴールとなる。

 インフルエンサーマーケティングの場合は、インフルエンサーがもたらす先行事例、体験事例にフォロワーが共感し、さらにはそのフォロワーのフォロワーたちへと共感が連鎖していく。つまりインフルエンサーマーケティングのゴールは、フォロワー(消費者)が商品を買う、あるいはサービスを利用して終わりではなく、購買した後に商品やサービスを体験し、それを共有し、共感を得ることがゴールとなる。

 具体的には、既存のマーケティングではマスメディアで宣伝した商品をターゲットに買わせたら終了となる。それに対しインフルエンサーマーケティングでは、インフルエンサーが紹介した商品をフォロワー(ターゲット)が買って、その商品を「おいしかったよ!」と自身のSNSで紹介し、そのフォロワーたちへと評判がさらに広がっていくところまでを効果の範囲として想定している。

 一方、マスメディアが得意な「大衆を一気に誘導する」というマーケティングには、あまり適さない。テレビや新聞などのマスメディアは、1回の番組放送や記事の掲載によって「あの商品が流行の先端だ!」「これを持っていないと時代遅れになる」というように、特定の方向に大衆を一気に動かす力がある。インフルエンサーマーケティングは、個人から個人への共感で成り立ち、その影響がロングテール式にじわじわと波及するため、時間をかけて大衆を巻き込みながら、ヒットやトレンドを生み出すことができる。

インフルエンサーマーケティングの歴史

 インフルエンサーマーケティングの基本を、SNSを舞台とした「個人による発信」とするなら、日本におけるその源流は、1999年にサービスが開始されたNTTドコモの「iモード」と考えられる。これにより、携帯電話ユーザーがキャリアメール(iモードメール)の送受信やウェブページの閲覧ができるようになり、個人としてインターネットの中で自立し始めたからだ。

 より実質的なインフルエンサーマーケティングが形成されていく過程は、SNSの進化と拡充の流れと重なる。2004年に米国でフェイスブックが創業し、2006年には同国でツイッターのサービスがスタート。日本では2008年、フェイスブックが日本語に対応し、同年ツイッターも日本語サービスを開始した。

 2010年、インスタグラムが登場し、2014年に日本語アカウントが開設された頃から、「SNSで影響力のある人」という意味合いで「インフルエンサー」という言葉が使われるようになった。それに伴い、インフルエンサーの影響力を活用したインフルエンサーマーケティングが急速に発達し、現在に至る。

インフルエンサーマーケティングの強みと弱み

●フォロワーからの信頼の高さが強み
 インフルエンサーマーケティングの最大の強みは、フォロワーにとって情報源としての「信頼度の高さ」である。

 マスメディアによる広報・宣伝活動は、企業などの送り手に有利な情報として消費者にとらえられてしまうこともある。一方インフルエンサーマーケティングで与えられた情報は、あくまでインフルエンサーの体験事例であるため、個人的であっても、商品に対する純粋な感想や正当な評価として受け取られやすい。フォロワーはインフルエンサーの価値観や世界観にどれだけ共感できるかで選んでいるため、情報に対する信頼も高くなる。

 その結果、インフルエンサーマーケティングで訴求した商品やサービスの価値や魅力に関する情報の信頼は厚くなり、購買や利用につながりやすくなる。

●KPIなど指標化が困難なことが弱み
 インフルエンサーマーケティングでは、これまでエンゲージメント率でKPIを測定するのが一般的だったが、より効果的な運用を目指すために用いる指標としては、やや不十分と言わざるを得なかった。現在LIDDELLでは、1投稿当たりの評価測定基準として、「影響の範囲の値」「承認の値」「発見の値」「参考の値」「印象の値」という5つの要素で構成される「共感指数」を開発し、インフルエンサーマーケティングの効果を指標化している。

インフルエンサーマーケティングの将来像

 インフルエンサーマーケティングでは今後、以下の動きに注目が集まる。

●インフルエンサーのバーティカル・メディア化
 店舗情報や料理レシピ、特定のスポーツや趣味に特化したメディアは「バーティカル・メディア」と呼ばれる。これらは指向性が強く、利用者の属性や興味の対象が限定的なため、通常よりも商品のターゲットを絞りやすいと考えられている。メディアに近い存在であるインフルエンサーは、その得意分野を専門家させることで、次第にバーティカル・メディア化していくと考えられている。

●インフルエンサーマーケティングで新市場開拓
 SNSの中でも特に共感が重視され、インフルエンサーマーケティングの主戦場となっている「インスタグラム」は、長らくフォローしたり、されたり、「いいね!」をしたり、コメントするだけの場だった。しかし2018年にショッピング機能が追加され、インスタグラムの投稿で商品を見たユーザーが、そのままECサイトに移動して、商品を購入できるようになった。

 インスタグラムの世界でお金が動き、ショッピングや売買といった取引が可能になった結果、SNSの世界に新たな「市場(マーケット)」が生まれた。コンシューマーに対する豊富な情報提供の実績と大きな訴求力を誇るインフルエンサー、およびその影響力を活用したインフルエンサーマーケティングが、今後、この新市場でビジネスをリードしていくことになるだろう。

インフルエンサーマーケティングの導入方法・事例

●導入方法について
 インフルエンサーマーケティングのサービスを提供する会社は、主に(1)インフルエンサープロダクション、(2)インフルエンサーキャスティング会社、(3)インフルエンサーマーケティング会社の3タイプある。

(1)インフルエンサープロダクション
InstagramやTwitterなどのSNSで活動するインフルエンサーのマネジメントやプロデュース、活動内容のサポートを行う。

(2)インフルエンサーキャスティング会社
インフルエンサープロダクションの業務に加え、企業や団体の希望するマーケティングに適したインフルエンサーをキャスティングする。

(3)インフルエンサーマーケティング会社
最適なインフルエンサーの選択と訴求力の高い起用法の提案、効果的なブランド設計、さまざまな角度からの効果測定など、実効性の高いインフルエンサーマーケティングの実現に必要なすべてのサービスが提供できる。

 インフルエンサーに広告タイアップを依頼するに当たり、上記3つのうちどの会社に頼むかは、自社の知識の深さによる。

 インフルエンサーマーケティングに関する知識や経験が豊富で、インフルエンサーの選定と活用、ブランディングまで自前で対応できるなら、後は「インフルエンサー」と契約すれば導入可能だ。その場合、「インフルエンサープロダクション」に依頼すれば、費用を低く抑えられる。

 知識や経験が浅いのならば、「インフルエンサーキャスティング会社」に依頼すれば、費用を比較的低く抑えられる。ただしインフルエンサーの活用やブランディングは自力で行う必要性がある。

 インフルエンサーマーケティングに対する知見をほとんど持っていない場合は、費用は高めになるが、インフルエンサーの選定から活用法、プランデイング、プロジェクトの進捗管理、成果の分析に至るまで、すべてサポートしてくれる「インフルエンサーマーケティング会社」に任せたほうが安心だ。

 なお、LIDDELLが手掛けた事例だけでも、冒頭で紹介した企業の他に、アウディ、アシックス、ドコモ、楽天、キリン、TBS、テレビ朝日、森ビルなど、1000を超える企業がインフルエンサーマーケティングを導入している。

インフルエンサーマーケティングの費用・相場

 導入費用は起用するインフルエンサーのフォロワー数や実績、プロジェクトの規模や展開期間、プロセスや実績の解析精度など、さまざまな条件によって大きく変わる。

 参考だが、一般的な広告代理店の場合、インフルエンサーのギャランティの目安は、1フォロワーに対して3円から8円くらい。1万フォロワーのインフルエンサーなら、1投稿当たり3万円から8万円くらいで取引されている。

 人気インフルエンサーになると、年収1000万円を超える者も多い。中国で3000万フォロワーを持つインフルエンサーがいたり、米国では1ポスト(投稿)5000万円の人気インフルエンサーもいるなど、海外のインフルエンサーマーケティング費用は桁外れの状況になっている。ちなみに日本の中小企業がインフルエンサーマーケティングを始める場合、ある程度の成果を得る目安として、その初期費用はミニマムで50万円くらいを設定するのが適当だろう。

解説・監修

福田 晃一(ふくだ・こういち)氏
LIDDELL 代表取締役 CEO
1979年高知県生まれ。読者モデルを活用したコミュニティマーケティングを展開し、芸能プロダクションとマーケティングによるハイブリッド企業・ツインプラネットを創業。人気タレントの輩出や多数のトレンドの創出、多彩な戦略で「ヒト売れ」なる消費トレンドを築き、2014年、インフルエンサーマーケティングのパイオニアとなるLIDDELLを設立。2万人のインフルエンサーが活躍するプラットフォーム「SPIRIT」をはじめとする、多様なC to Cマーケティングプラットフォームを事業化し、価値観のインフラへと成長するSNS時代に即したソーシャルオーソリティー事業を推進。著書に『買う理由は雰囲気が9割』(2017)、『影響力を数値化 ヒットを生み出す[共感マーケティング]のすすめ 』(2018) がある。

(写真/酒井康治)

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