希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップについてディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、SEEDAらを擁するヒップホップ・クルー、SCARSのファースト・アルバム『THE ALBUM』。本作のA&Rを務めた佐藤将氏をゲストにお迎えしました!
●今月の名盤:SCARS 『THE ALBUM』 Pヴァイン(2006)
ラッパーとしてA-THUG、SEEDA、BES、bay4k、MANNY、STICKYが、トラックメイカーとしてI-DeA、Sacが名を連ねるクルー=SCARSのファースト・アルバム。USのヒップホップに即したラップ・スタイルで、ストリート状況を見事に描出してみせた。(bounce.com編集部)
ブロンクス 今回取り上げるのはSCARSの『THE ALBUM』なんですけど、このCDのA&Rを務めていた佐藤将さんがたまたま通りかかったので、遊びに来ていただきました!
佐藤 いやいや、今日は参加するつもりないから。
ブロンクス 逃がさないっすよ(笑)。いま改めて聴き返してみると、SEEDA君とBES君はもちろんヤバいんだけど、トニー君(A-THUG)とSTICKY君も歌詞でハンパないこと言ってるよね。
上野 セカンドで初めて、同じクルーなのにディスが入ってるって言われてたけど、実はこっちの方がエグいかも(笑)。
ブロンクス 思ったことは全部言っちゃう。まず初っ端の“IN DRO”からして……。
上野 “ばっくれ”の〈意外に近くにいたもんだな、仲間のフリしてばっくれ~〉とかも。
ブロンクス 危ないな~(笑)。これ出たのって2006年の夏頃だっけ? 上ちょ(サイプレス上野)の初SCARS体験はいつだったの?
上野 その前の年の冬、渋谷DUOでやった渋谷CAMPのアニヴァーサリー・イヴェントでSCARSを観て。すげえな、ハンパねえって。
ブロンクス ああ、あったねえ。あの頃、局地的にCAMPってクラブが盛り上がってたんだよね。
上野 そうそう。マル君(ハレイワ)がやってたイヴェント〈FAST〉にみんな出てた。SCARS、SD JUNKSTA……。
ブロンクス COMA-CHI、六歌仙、カルデラビスタ、あとTARO(SOUL)や上ちょたちも出てたし、NIGHT CAMP CLICKもいた。
上野 CAMPはマジで狭いクラブだったからなあ。そこにいるやつの半分は出演者みたいな(笑)。
ブロンクス 相当ユルかったよね。全然予定にないのに、SD JUNKSTAとSCARSが一緒にライヴしちゃったり。
上野 飛び入りみたいな感じで“HOMIE HOMIE”とかよくやってましたよね。RAMB CAMPがCAMPで何故かリリパやって、人が入りすぎて酸欠状態になったり。
ブロンクス その頃はDJ ISSO『SEEDA'S 27 SEEDS』(2005年10月リリース)が出た頃かな。
佐藤 その前、2005年の夏にSEEDAの『GREEN』が出てるでしょ。で、2006年の1月にI-DeA君のセカンド『Da FRONT and BACK』が出てる。その辺で結構SCARSが盛り上がってきて。
ブロンクス そうだ。で、2006年の2月に〈CONCRETE GREEN〉シリーズが始まって、9月にSCARSのこのアルバムが出て、12月にSEEDA君の『花と雨』がリリースされる。
上野 SCARSは〈CONCRETE GREEN〉が出た当初から、すごい話題になってましたよね。
佐藤 そこでSCARSはすごい話し合って、I-DeA君が制作指揮を取ってアルバムを出すことになったんだよ。
ブロンクス レコーディングでI-DeA君のダメ出しがすごかったって話は聞きますね。
佐藤 うん、妥協せず、そういう厳しいなかで作ってた。
ブロンクス そういや、あの頃から〈I-DeA塾〉ってみんな言い出した気がする。中目黒の、ラッパーが集まりすぎると座れないようなスタジオで。俺も『CONCRETE GREEN 1』の時に初めて行ったんだけど、みんな立ってる。で、目を疑う様な凄まじい状態でレコーディングしてて。あれは衝撃を受けたな。「ここ本当に日本か?」って思った。キー君(NORIKIYO)は「俺は門下生だ」って言ってたよ。
上野 凄まじいっすね。でも渋谷DUOで観た頃は、SCARSにいまみたいな追い風は全然なかったっすよね。
佐藤 そのときがたぶん、SCARSが全員揃ってやる2回目のライヴだったんだよ。1回目が確か、クソ寒い代々木公園でやったイヴェント〈HARVEST〉。
上野 ああ~出てた出てた!
佐藤 あのときSCARSはケツから3番目に出てたのね。最後がSD JUNKSTAでその前が降神。トリに近いとこだけど、まだ誰も知らないわけ。で、古川(耕)さんがいたから「SCARS、どうです?」って訊いたら「いや、俺はあんまり」って。
一同 (爆笑)。
佐藤 で、ブロンクスにも訊いたら「いや~すげえいいっすよ。俺らもこういうことをやりたいと思ってるんすよ」って言ってたんだ。その俺らってのがSD JUNKSTAなわけで。それをすごい覚えてる。
ブロンクス そうかあ。確かに好きだったのは間違いない。
佐藤 で、2回目のそのライヴのときにも古川さんがいて。「最近は結構好き」って(笑)。その時はもう軽く話題になってた。
上野 そこが分岐点だ(笑)。
ブロンクス でも確かに、それまでの「BLAST」の価値観だと、SEEDA君単体ならいいけどSCARSは……って雰囲気はあったかもしれない。ラップが好きなやつは好きだけどっていう。でも、予想を上回るストリートの支持を得て、年末の〈BLAST AWARD〉で『THE ALBUM』はいきなり総合2位に入ったんですよね。それまでは俺が投票するやつは毎年全然ランキングに入んなかったのが、そこで初めて俺の意見が総合チャートに反映された気がした。
上野 あれはびっくりしましたねえ。
ブロンクス 実際、かなり売れてたしね。アルバム発売前だったけど「実話ナックルズ」に特集されたのもデカイでしょ。
上野 そうっすよね。あと〈CONCRETE GREEN〉が出たときすごい衝撃を受けて、働いてたレコ屋でずっとかけてたんですよ。そしたら、レコード掘りまくってるキッズみたいな客が「あれ、これトニー君じゃねえ?」とか言ってて(笑)。相当売れましたよ、あれは。
佐藤 『CONCRETE GREEN 1』は最初SEEDAとDJ ISSOも流通とか、捌き方がわからない感じで。あれはむしろ後から売れてったんだと思う。
ブロンクス 『CONCRETE GREEN 2』はいきなりトニー君のインタヴューが入ってるというミックスCDの常識を打ち破る構成で(笑)。あれは大爆笑したな。こんなストレートにもの言っていいんだ、みたいな。でもあそこですでにSCARSはちょっと別格だぞって雰囲気が出てたよね。『THE ALBUM』が出る直前で、アルバムの宣伝みたいな感じで。
上野 〈CONCRETE GREEN〉の1が出て2が出て、SCARSが出て……。
佐藤 そのすぐ後にSWANKY SWIPEが出た。まあSWANKY SWIPE自体は、SCARSじゃないけど。
ブロンクス BES君と言えば“One Day”の衝撃がすごかったですよね。あれ聴いた時、SD JUNKSTAのみんなも「BES君ヤバすぎる」って言ってて。あれはエポック・メイキングな曲だった。
佐藤 で、ほぼ無修正のヴァージョン(“評決のとき”)がSWANKY SWIPEのアルバムに入ったんだ。