トランプ氏が就任してから、各国が立て続けにアメリカとの首脳会談を行っていますね。
一番最初はイギリスのメイ首相でした。
その後はドイツのメルケル首相、ロシアのプーチン大統領、フランスのオランド大統領が電話会談を行っています。
日本の安倍首相も電話会談を行いました。
2月10日にはワシントンでの首脳会談も予定しています。
ここで、1つ疑問が。
首脳会談を行うとき、各国の代表の肩書がそれぞれ違います。
主に、”首相“と”大統領“に分かれますが、この違いって一体何でしょうか。
また、両方が存在する国もありますが、その場合どちらが首脳会談に出席するのでしょうか。
各国のトップについても徹底比較してみました。
あの国のトップって誰だっけと気になったら、こちらを見てもらえれば一目瞭然です。
首相と大統領の違いについて
最初に、それぞれの役割について説明します。
■大統領について
大統領とは、共和制国家(共和制…王制ではない国)の国家元首です。
国家元首とは、国を代表する最も偉い人を指します。
大統領がいる国では、国王やその他の国家元首は存在しません。
また、一般的に、大統領は国民投票によって選ばれます。
■首相について
首相とは、行政機関のトップの大臣、つまり行政のリーダーを指します。
行政とは、国によって若干立ち位置が変わるのですが、主に三権分立(立法、司法、行政)の内、立法と司法を除いたものを指し、法律に従って政務を行うところです。
首相はあくまで、行政のリーダーを指す言葉なので、国によって首相の呼び名はバラバラです。
日本で言えば、内閣が行政機関にあたるので、内閣総理大臣が首相の正式名称です。
首相は、国民が直接選ぶのではなく、議会が投票した人が選ばれます。
多くは与党の党首が、首相に任命されます。
首相は政府の最高責任者であり、その国のトップではありません。
ですので、首相の権限は国によって様々です。
この両者を並べてみると、違いが少しずつ見えてきますが、一番の違いは「国家元首」であるかどうかです。
そして、その違いはその国に「王制」が存在するかどうかで変わってきます。
例えば日本は、かつてより君主制であるため、「天皇」が国家元首であると言われています。
君主とは世襲によって位につく統治者の事を指します。
つまり、「天皇」が国のトップであり、「首相」が行政のトップであるという事になります。
首脳会談は政府の最高責任者が行う会議の事を指しますので、日本の場合は天皇ではなく首相が首脳会談を行います。
ちなみに、大統領と首相が国によって異なるその理由は、その国がどのような歴史を辿ってきたかによって変わります。
元々君主がいた国は、君主を廃止する代わりに大統領が元首となり、君主が存在する国は、その君主を補佐するために首相となったという感じです。
ですが、先ほども言った通り、国によって大統領や首相の立ち位置は異なります。
次に国ごとの国家の制度について見てみましょう。
各国の国家体制について
1.アメリカ(アメリカ合衆国)
- 国家元首:アメリカ合衆国大統領(現:ドナルド・トランプ第45代アメリカ合衆国大統領)
- 政治制度:連邦共和制
⇒連邦制・・・各州ごとに主権の一部があり、各州の地方政府がこれを統治。そして連邦政府(中央政府)は外交政策などを行う制度
⇒共和制・・・主権は国民であり、君主がいなくて国家元首がいる制度
ドナルド・トランプ大統領
まずはアメリカ合衆国。
何を隠そう、大統領(President)という言葉が初めて生まれたのはアメリカです。
初代大統領は、もちろんジョージ・ワシントンですね。
アメリカの大統領は、行政権を唯一保持しています。
つまり、アメリカの行政は大統領1人に全て任されています。
また、軍の最高司令官としての側面も持っています。
軍に関わる全ての権限を持っています。(ただし宣戦布告時は議会の承認が必要です)
こう見ると、アメリカ大統領は絶対的な権限をもっているように見えますが、実際はそんなことはありません。
大統領は議会(立法)とは独立した機関ですので、法律案や予算案を提出することができません。
一応拒否権を持ってはいるのですが、これも議会両院で再可決されれば、大統領の署名がなくても法律は成立します。
また、大統領は「一般教書」というもので、法律を作るよう促すことは出来ますが、議会に対して解散権ももっていませんし、逆に不信任案を受けることもありません。
つまり、アメリカの大統領は、外部に対しては強い力を持っているが、内政に関しては無力であるといえます。
アメリカにおいて絶対的な存在という気がしましたが、意外と弱点も多いんですね。
2.イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
- 国家元首(君主):イギリス連邦王国女王(現:エリザベス2世)
- 首相:連合王国内閣総理大臣(現:テリーザ・メイ首相)
- 政治制度:議員内閣制、立憲君主制
⇒議員内閣制・・・議会で選出された首相によって内閣が組織され、議会の信任に基づいて内閣が存在する制度
⇒立憲君主制・・・君主の権力が憲法によって規制される君主制
エリザベス2世
メイ首相
イギリスの政治は、単一国家と立憲君主制から成り立っています。
単一国家とは、中央政府よって統一された国家の事を指します。
「日本」の「都道府県」のように、地方に行政機関を設けることが多いですが、地域の強い権力をもつ連邦制とちがい、単一国家は中央政府の権力が強いのが特徴です。
イギリスの国家君主は、イギリス連邦王国の国王です。
1700年ごろから今に渡るまで、国王や女王が国を治めてきました。
しかし、イギリスの憲法に「国王は君臨すれども統治せず(The King reigns, but does not govern)」という言葉があります。
つまり国王は実質的な政治権力を保持しないという事です。
日本と非常によく似た制度ですね。
3.ドイツ(ドイツ連邦共和国)
- 国家元首:連邦大統領(現:ヨアヒム・ガウク第11代連邦大統領)
- 首相:連邦首相(現:アンゲラ・ドロテア・メルケル首相)
- 政治制度:議会制共和国(連邦制及び議員内閣制)
ヨアヒム・ガウク大統領
メルケル首相
ドイツって首相のイメージが強かったのですが、大統領もいたんですね。
これは、大統領に儀礼的な権能のみが与えられており、首相が行政府の長として行政権を執行しているからです。
だから政治の場では、メルケル首相をよく見るんですね。
このような制度を取っている理由に、かつて大統領の権限が非常に強かった際に、ナチスにその権限を奪われ、政局が混乱したという時代背景があります。
ですので、現在も「中立的な権力」として、首相の任命や、条約の締結などの仕事を行っています。
4.フランス(フランス共和国)
- 国家元首:共和国大統領(現:フランソワ・オランド第24代フランス大統領)
- 首相:共和国首相(現:ベルナール・カズヌーヴ首相)
- 政治制度:半大統領制
オランド大統領
ベルナール・カズヌーヴ首相
フランスは「半大統領制」で政治を執り行っています。
半大統領制とは、「議員内閣制」と「大統領制」を組み合わせた政治体制です。
これは、議院内閣制の枠組みをとりながらも、より大きな権限を大統領に付与するというものです。
具体的には、議会の解散や、議会の承認なしに法律や条約などを国民投票にかける権限、大統領への弾劾裁判権がないなどがあります。
また、大統領は国民の投票によって選ばれます。
そして、大統領が首相を任命します。
大統領と首相、共に行政権を持ち、主に首相が内政を大統領が外交政策を担当します。
しかし、全体を見通しても大統領の方が権限は強いです。
なぜこのような制度を取っているかというと、かつてフランスは内閣がころころ変わり、政治が不安定でした。
そこで、1985年に第五共和国憲法(半大統領制)を採用するすることで、大統領の権限をより強くし、政治を安定させたというわけです。
こうやって見ると、アメリカの大統領よりずっと強い権力をフランスの大統領は保持しているんですね。
5.イタリア(イタリア共和国)
- 国家元首:共和国大統領(現:セルジョ・マッタレッラ第12代大統領)
- 首相:同国閣僚評議会議長(現:パオロ・ジェンティローニ・シルヴェーリ首相)
- 政治制度:単一国家、議会制共和国
セルジョ・マッタレッラ大統領
パオロ・シルヴェーリ首相
イタリアの行政は、首相を長とする内閣が統括しています。
首相は大統領が指名し、議会が承認することで決まります。
イタリアの大統領は、儀礼的な政府がほとんどですが、議会解散権や、首相任命、軍隊指揮権など、非常時のみ意味のある権利を保持しています。
行政は首相が主となって政務を行うため、首脳会談には、首相が出席します。
余談ですが、イタリアはかつて日本に負けず劣らず、首相の在任期間が短いことでも有名です。
6.オランダ
- 国家元首(君主):オランダ国王(現:ウィレム=アレクサンダー)
- 首相:オランダ王国首相(現:マルク・ルッテ第50代 オランダ王国首相)
- 政治制度:立憲君主制、議院内閣制
ウィレム=アレクサンダー国王
マルク・ルッテ首相
オランダは、”スターテン・ヘネラール“と呼ばれる議会によって政治が行われます。
スターテン・ヘネラールには第一院と第二院の二院制で構成されており、その第二院から内閣が組織されます。
内閣の長が首相となり、政府の行政や、法律制定の準備、法律の施行、外交など行政活動を幅広く行います。
オランダの君主は、儀礼的な任務のほか、首相や閣僚との話し合いの機会を設けています。
特に、内閣を組織する際には、連立政権の枠組みについて調査するインフォルマトゥール(情報提供者)と、連立協議を主導するフォルマトゥール(組閣担当者)を指名します。
この際に、フォルマトゥールが首相に就任することになります。
オランダ国王は、行政に対して強い権限を持っているわけではないですが、様々な面で行政に関わりをもっているんですね。
7.ロシア(ロシア連邦)
- 国家元首:ロシア連邦大統領(現:ウラジーミル・プーチン第4代大統領)
- 首相:ロシア連邦政府議長(現:ドミートリー・メドヴェージェフ第10代首相)
- 政治制度:連邦制
プーチン大統領
メドヴェージェフ首相
ロシアの国政は連邦制ですが、大統領が行政の強い権限を持っています。
首相や要職の指名・任命や、議会の承認を得ないで政令を発布する権限を持っています。
また、軍隊のトップの面も持っています。
首相はロシア連邦政府の長の役目にあたり、大統領のサポートという面が強いです。
すっごいどうでもいい余談ですが、ロシアの元首は頭がツルツルとフサフサが交互になるというジンクス(通称:つるふさの法則)があるようです(笑)
8.カナダ
- 国家元首(君主):イギリス連邦王国女王(現:エリザベス2世)
- 首相:連邦政府首長(現:ジャスティン・トルドー第29代首相)
- 政治制度:連邦立憲君主制、議院内閣制
ジャスティン・トルドー首相
カナダはイギリス連邦加盟国のため、国家元首はエリザベス女王2世となります。
しかし、1947年以降、君主の役割と責任の全てが国王から、総督に移管されました。
その結果、カナダ総督が女王の代理を務め、国家元首の職務を行います。
主な政務として、首相や最高裁判所長官就任の主催や、議会の収集などがあります。
また、軍の最高司令官という面もあります。
現在のカナダの総督は、デイヴィッド・ロイド・ジョンストンです。
デイヴィッド・ロイド・ジョンストン総督
対して、首相は行政、内閣のトップにあたります。
カナダは議員内閣制を取り入れてますので、あくまで政治上のトップは首相。
総督の権限はきわめて限定的といえます
ですので、カナダの首脳会談では首相が出席します。
ちなみに、カナダはかつて各州の合意のもと連邦が設立した経緯があるため、州に非常に大きな自治権が認められています。
イギリス連邦に属しながら、連邦と州との関係もある。
カナダの政治はなかなか複雑そうですね。
9.中国(中華人民共和国)
- 国家元首:中華人民共和国主席(現:習近平 第7代国家主席)
- 首相:国務院総理(現:李克強 第7代国務院総理)
- 政治制度:一党独裁制、社会主義共和国体制
⇒一党独裁制・・・特定の政党による独裁体制
⇒社会主義体制・・・個人主義や自由主義、資本主義に反対し、より平等で公平な社会を目指す体制
習近平 国家主席
李 克強 国務院総理
中国の国家元首は国家主席にあたります。
国家主席は、中国の議会「全国人民代表大会」によって選出されます。
しかし、中国は共産党の一党独裁制を取っていますので、共産党の党首がそのまま国家主席となります。
国家主席の主な権限は、法律の公布、国務院総理(首相)の指名および要職の任免、戦争の宣告や、外交権などがあります。
また、国家主席は中国の実質的な国軍、中国人民解放軍のトップでもあります。
中国の内閣にあたる組織が国務院であり、そのトップが国務院総理(首相)です。
国務院総理は行政全般の指揮監督を行います。
最近は国際ニュースが取り挙げられること多いので、習近平国家主席の顔を見る機会が多いですが、中国の行政を担う李克強首相の権力も相当のものと言えそうですね。
10.韓国(大韓民国)
- 国家元首:大韓民国大統領(現:朴槿恵 第18代大統領 ※現在職務停止中)
- 首相:国務総理(現:黄教安 国務総理)
- 政治制度:共和制国家
朴槿恵 大統領
黄教安 国務総理
韓国の行政権は大韓民国政府にあり、その組織は直接選挙で選ばれた大統領が統率します。
大統領は、国会の同意のもと国務総理(首相)を任命します。
大統領の政務は、法律の拒否権や、国を代表しての外交、条約締結、国分の統帥、大統領令の発令などがあります。
対して、韓国の首相は国務総理と呼ばれ、行政のトップであるとともに、大統領の補佐を行います。
国務総理が行政のみのトップであるのに対し、大統領がその国の外交や軍事全ての責任者なので、その権力の違いは歴然ですね。
11.日本
- 国家元首(君主):天皇(現:今上天皇 第125代天皇)
- 首相:内閣総理大臣(現:安倍晋三 第96・97代内閣総理大臣)
- 政治制度:立憲君主制、議院内閣制
今上天皇
安部内閣総理大臣
日本は、天皇が国家君主となります。
現行憲法上では「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」とあり、政務に直接かかわる事はありません。
主な国事行為として、内閣総理大臣の任命や、憲法改正、法律、条約の公布、国会の召集、外国の大使の接受などがあります。
いずれにしても、内閣の助言と承認が必要です。
一方、行政のトップ(首相)は内閣総理大臣と呼ばれます。
これはおなじみですね。
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名されます。
指名選挙は、衆議院と参議院の両院で行われますが、仮に両院で指名者が異なった場合、最終的に衆議院の指名が国会議決となります。
つまり、衆議院の多数勢力(与党)の党首が首相に選ばれるという事ですね。
内閣総理大臣の権限は、他の国務大臣の任命や、議案の提出、閣議の主宰などがあります。
また、日本は軍を持ちませんが、内閣を代表するものとして、自衛隊の最高指揮監督権を持っています。
自国や他国の歴史を振り返れば新しい発見がみつかる。
以上、諸外国の国家制度についてまとめてみました。
どれ1つとして、同じ制度を採用している国はなく、国それぞれ特色があって面白いですね。
今年は、フランスの大統領選も控えていますので、また国の体制も変化していくことでしょう。
では最後に、世界中を見渡した時に、一番偉いのは誰になるのでしょうか。
一般的に、権威がある順に位を並べると、
皇帝(emperor)≧法王(Pope)>王様(king)>大統領(president)>首相(premier)となります。
これを現在の世界情勢に合わせてみると、
天皇陛下(emperor)≧ローマ法王(Pope)>各国の王様(king)>各国の大統領(president)>各国の首相(premier)となります。
そうなんです。
皇帝と呼ばれる人は、世界中見渡しても、天皇陛下しかいないんです。
そもそも皇帝とは帝国の君主を指します。
帝国とは、複数の国を統治、支配している国の事です。
複数の国にはそれぞれ国王が存在するので、皇帝は王の上位となります。
現在の天皇は複数の国をまとめているわけではありませんが、海外で天皇を英語で”emperor”と訳されます。
なぜでしょうか。
これは天皇が紀元前660年に即位し、日本中に存在していた国を1つにまとめ上げ、さらにその系譜が今に続いている、“世界最古の王室”だという敬意の表れから来ているではないかと推測します。
いずれにしても自国や他国の歴史を振り返ってみると、意外なことが知れて面白いですね。
ではまた。