最近、仕事のスケジュール管理で上司から注意を受けることが続いた。思い返せば幼い頃から不注意な行動が多い。整理整頓が苦手で、約束を失念することもしばしば。財布を忘れて旅に出たこともある。インターネットを見ていると、こんな言葉が目に留まった。「大人の発達障害」-。詳しく知りたいと思い、専門家や当事者らに話を聞いた。
長崎大病院地域連携児童思春期精神医学診療部の今村明教授によると、発達障害には、コミュニケーションに困難を抱える自閉スペクトラム症、不注意や衝動性が特徴の注意欠陥多動性障害(ADHD)などがある。ADHDについては、「欠陥」「障害」という言葉が不快感を生まないよう、最近は注意欠如多動症と呼ばれることも多い。発達障害は一人一人症状や程度が異なり、併存もあるという。
■職場で孤立
自閉スペクトラム症は他人の気持ちのくみ取りが難しいことが多く、ADHDは余計なことを言ってしまう傾向がある。子どものころは問題行動に気付かれにくくても、社会人になってそれが表面化し、これらが原因で、職場で孤立したり、意図せずパワーハラスメント行為をしたりする可能性もあるという。
自分はどうだろう-。試しに、同病院でも利用するチェックリストを使ってみた。「約束を忘れたこと」「課題を先延ばしにしたこと」「しゃべりすぎてしまうこと」などの頻度を尋ねる質問が18問。判定結果は「ADHDの可能性がある」。ただ、今村教授は「リストの結果が全てではない」と話す。診察では、リストを基に幼少期からの行動傾向について対話を通じて丁寧に掘り下げ、診断するという。
■10人に1人
発達障害の大人は10人に1人いるともいわれている。今年4月には、発達障害を含む精神障害が障害者雇用義務の対象に加わった。関係機関による啓発も増え、「大人の発達障害」への理解も少しずつ広がってきているが、症状が軽ければある程度社会に適応できることもあり、自分では特性に気が付かず診察を受ける人はごく一部だという。
発達障害のある人の就労には困難も多い。長崎大障がい学生支援室で学生の就労支援に取り組むピーター・バーニック助教は「障害に対する偏見や先入観はまだ強く、安心して自分の特性を開示できない当事者もいる」と指摘。「つまずきがある前提で、本人だけでなく周囲の人も相談しやすい明確な体制を企業側がつくることも重要だ」と力説する。
■特性生かす
長崎市内の男性(27)は、21歳の時にADHDと診断された。「小さい頃から失敗が多かったが、なぜ怒られるのか分からないこともあった。診断で理由が分かるとほっとした」と振り返る。現在は職場の同僚や家族に自分の特性を打ち明け、支えられながら仕事に打ち込む日々が続く。「特性を生かして仕事がうまくいくこともある」と充実感をにじませる。
今村教授によると、発達障害は強みを秘めている可能性もある。自閉スペクトラム症は独創性や専門性に優れ、反復動作や基本練習を苦にしない傾向がみられる。ADHDは時に強い集中力を発揮し、積極性や活発さが功を奏することもあるという。
長崎県発達障害者支援センター(諫早市永昌東町)は来所や電話での相談を受け付けているほか、ホームページには発達障害について相談できる県内の医療機関の一覧も掲載(大人の発達障害には対応していない医療機関もあるため、事前に当該機関に問い合わせが必要)。悩みがあれば、一度相談してみてはいかがだろう。