Case study 事例紹介
報道の正確さとゲームのおもしろさを融合!
遊びながら経済を学べる新感覚ボードゲームを制作
テレビ東京
この事例の担当者
※所属・役職は取材時点の情報
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工藤里紗
テレビ東京 制作局
『生理CAMP』『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん 無修正』『シナぷしゅ』『昼めし旅~あなたのご飯見せてください~』など幅広いジャンルのヒット番組を多数手がける。
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豊島晋作
テレビ東京 報道局
2011年から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のディレクター、同年10月からマーケットキャスターを担当し、2016年にはテレビ東京ロンドン支局長に。2019年7月、本社に帰任し、Webサイト『テレ東NEWS』(現『テレ東BIZ』)を担当。2021年3月より、『Newsモーニングサテライト』で解説キャスターとして出演している。
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板川侑右
テレビ東京 制作局
制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て、『勇者ああああ〜ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組〜』『マヂカルクリエイターズ』の演出・プロデューサーを務める。
パートナー企業・自治体ご担当者さま
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塩屋純一
tanQ株式会社
代表取締役
※取材当時の情報です
目次
- コンテンツ統括局が発足し、テレビ番組発ではない新規事業の企画募集がテレビ東京内で行われる。
- お金について学べる本を自身の子どもが読んでいるところをプロデューサーが目にして企画が生まれた。
- ゲーム制作の知見とスピード感が期待できるtanQに相談して企画がスタートした。
- ゲームや経済に知見があるスタッフをテレビ東京社内でもアサインした。
- 現実社会における金融商品の特徴をゲームの仕組みにも採用した。
- ゲームとしての不足をtanQに調整してもらい、おもしろさを担保した。
- 経済×ゲームというコンセプトを賞賛する声が多数寄せられた。
- パイロット版をプレイした人からデザインのよさを評価する声も挙がった。
- ゲーム内のコンテンツにアナウンサーやキャスターを起用し、テレビ東京の強みを活かした。
経緯
子どもが読んでいた本をヒントに、経済や投資を楽しく学べるゲームの企画が生まれた
『遊ぶように経済を学べたら──』という思いから、経済や投資を勉強できるノンフィクションボードゲーム『マネーモンスター』が誕生しました。探究型学習の通信教育・教材開発・教室運営を行うtanQと、テレビ東京が共同開発したゲームです。
工藤:
少し前、「コンテンツ統括局」という部署がテレビ東京にでき、テレビ番組発ではない新規事業の企画募集がありました。何か斬新な案がないかと悩んでいたとき、当時8歳の息子がお金について学ぶ本を読んでいるのを見て、『経済や投資について子どもが楽しく学習できるボードゲームがあればいいかも』と、今回の企画を思いついたんです。そしてすぐに、以前から知っており、ベンチャーでスピード感が期待できるtanQさんに連絡をしました。
またテレビ東京の看板を背負って制作・発売するにあたり、経済に対する設定が“雰囲気”ではよくないだろうと考えました。私だけではわからない部分が多いため、ゲームに詳しい板川さんと経済に詳しい豊島さんにも参加してもらったのです。そのほかいろいろな部署が関わり、社内横断のプロジェクトとして進行しました。
塩屋:
連絡から、すぐに意気投合しましたね。(取材時点から)2年ほど前の話になります。これまでいくつかのゲームを制作してきたものの、経済に関するものは私たちも初めてでした。これからの時代に絶対必要で、『いつかはやってみたい』と思っていた分野です。
それがテレビ東京さんの力を借りてできるなんて素晴らしいと、本プロジェクトには全社を挙げて取り組みました。
取り組み
専門家が集まり、経済のロジックとゲームのおもしろさを両立させた
『マネーモンスター』は、わかりにくい経済ニュースや金融用語を学べる「遊べる教科書」です。ニャホンカブ(日本株)・シンコッコカブ(新興国株)・コクサイ(国債)・フドウラゴン(不動産)の四つのマネーモンスター「マネモン」から一つを選んでゲームを行います。サイコロを振って駒を進め、最初にゴールにたどり着いたプレイヤーがお宝(キャピタルゲインカード)をゲットできる仕組みです。コクサイ(国債)は不景気に強く、シンコッコカブ(新興国株)はハイリスク・ハイリターンなど、現実社会における金融商品の特徴をゲームにおける資産価値の増減の仕組みにも採用しました。サイコロの出目によってマネモンの進み方が変化し、資産価値が増えるとレベルもアップします。ただしレバレッジがかかると大きな値動きを起こすため、景気の動向をうまく見定めないとゴールにたどり着けません。
塩屋:
本当は、2021年の頭にリリースしたかったんです。ただゲームは、何度もプレイしなければ矛盾点などの穴が見つかりません。バグを発見する作業に加え、そもそものルールの組み立てが進まず、予定より半年くらい遅れてしまいました。
豊島:
ボール紙で作ったパイロット版を、僕たちがプレイしたのが今年(2021年)の夏でしたね。子どもに経済を正しく理解してもらう一方で、楽しくなければいけません。両方のバランスを取るのは大変な作業でした。不動産や株が現実的にどのような値動きをするかなど、ルールの基本線に金融知識を織り込んでいく“正しさ担当”が僕の役割です。しかし正しさに偏り過ぎると、内容が堅苦しくなってしまいます。“株は、景気がいいと値上がりし、不景気だと値下がりする”というロジックをかみ砕いて伝えつつ、極端で刺激のあるイベントが起こらないとおもしろみがありません。そこでパンデミック(世界的大流行)・バブル崩壊・定額給付金など、実際に起きている経済事件を逆転の要素としてゲームに取り入れたんです。時間をかけてブラッシュアップを重ねた結果、おもしろさが飛躍的に増したと思っています。
板川:
ゲームのルールをどれだけおもしろくできるかに僕は注力しました。ただおもしろさを追求すると、『これ、経済に関係ないな…』と本来のコンセプトから外れる瞬間が何度もあったんです。ゲーム性とリアル性の両立は本当に難しいと感じました。ボードゲームを多くプレイするので、ルールを聞いた時点でいくつかの勝ちパターンが僕はわかります。穴を見つけられはするけど、埋める方法がわからないんです。だから調整するtanQさんは大変だったと思います。
反響・効果
「待っていました!」との好評が多数!ゲームのアップデートやアニメ化などポテンシャルはまだまだある
塩屋:
探究・知育型通信教育「tanQuest(タンキュークエスト)」の会員にパイロット版を試してもらったところ、ルールは見直しが必要だったものの、デザインはいい評価を得られました。何よりも経済×ゲームという掛け算に「待っていました!」「ぜひ、これを使って家族で経済を楽しく勉強したい」という声が多数あったのがよかったです。発売後は、「子どもたちが延々とこのゲームをしている」と、購入された学童保育施設の経営者からうれしい話を聞きました。『マネーモンスター』にハマる子どもたちが、ゆくゆくは経済の世界で活躍していく…そのような想像が膨らみます。
むしろまだまだポテンシャルがあると思っているんですよね。キャラクターデザインにも力を入れているので、ゆくゆくはアニメ化の話などが出てくればいいなと思っています。キャラクターは現在、日本株や不動産などをベースにした4種だけですが、米国株や暗号通貨など、これからの経済状況に合わせて増やしていくのもありですよね。キャラクターもどんどんアップデートさせていければと思います。
工藤:
ゲーム内では、資産価値が増えるとレベルアップしてキャラクターが進化します。この辺りもまだまだ深掘りできそうです。また『マネーモンスター』という名前も、わかりやすくていいですよね。今後もさまざまな手法を使って知名度を高めていきたいと考えています。まずは知ってもらうことが大切ですから。
豊島:
アセットモンスター・資産モンスター・株モンスターなど、いろいろな案が出てきた中で、『マネーモンスター』というストレートな言葉がみんなストンと腑に落ちて決まりました。「お金にきちんと向き合おう」というスタンスがタイトルで表せていますよね。
解説動画にテレ東アナウンサーが出演!ゲームからテレビへの誘引効果で番組も協力的に
『マネーモンスター』では、カードに入ったQRコードをスマートフォンでスキャンすると、テレビ東京のアナウンサーやキャスターたちがゲームに登場したニュースを動画で解説してくれます。
工藤:
たとえば大江麻理子キャスターと田中瞳アナウンサーが会話するシーンがあるなど、テレビ東京のアナウンサーやキャスターがキャラクターの声をあてているのは、私たちから見ても新鮮でした。中でも片渕茜アナウンサーは、プロレベルに上手で驚きました。「このキャラクターにはどのような背景があるんですか?」と、ナレーションを入れる前に質問をもらったのも予想外でした。とにかくプロ意識がすごかったです。
豊島:
「ゲームで出てきたアナウンサーやキャスターが出ているから見てみよう」というテレビへの入り方もいいですよね。動画の制作は、私が作った原稿とプリセット分の映像を工藤さんがいる制作局に渡し、子どもを引きつけるようなテロップをつけてもらいました。「番組のPRにもつながる」と、人気のアナウンサーやキャスターを抱える各番組にも理解してもらえてよかったです。一人につき30分ほど動画の撮影にも協力してもらいました。
テレ東と だからできること
フラットな関係のメンバーが各々の得意分野を活かし、エンターテイメントと報道を掛け合わせた
工藤:
ビジネスにおいては、スモールスタートできるのがテレビ東京の特長です。「まずはやってみよう!」という勢いだけでなく、失敗してももう一回チャレンジできる点もテレビ東京らしさかなと感じています。人数が少なくコミュニケーションがすぐに取れ、部署をまたいでいろいろな展開ができる点もテレビ東京の強みです。
今回は、部署を越えてみんながフラットにわいわいとアイデアを出し合えたのが財産でした。全員がお互いをリスペクトし合い、それぞれの強みを活かしながら新しいものを生み出していく過程は純粋に楽しかったです。今後の新規事業を進めるヒントにもなりました。『Newsモーニングサテライト』や『WBS(ワールドビジネスサテライト)』など、テレビ東京の経済番組は中高年の視聴者が圧倒的に多いです。「経済や未来について考えるのって楽しいね」と、次世代に考えてもらうためのきっかけに『マネーモンスター』がなってほしいと思います。
豊島:
音声と映像を使って何かを制作する力は非常に高いテレビ局だと思います。中でも正確な情報を形にし、世の中をコンテンツ化するのが僕たち報道局の役目です。今回のプロジェクトに関わってみて、一見難しい内容でも子どもたちにわかりやすく伝えられる術があるとわかりました。エンターテイメントと報道を上手に融合できるのはテレビ東京ならではの強みだと思います。
また「経済で遊ぶ」というフィールドは、僕個人の新しい学びにもつながったと感じています。子どもたちを楽しませる方法をtanQさんは熟知されているので、うちの局のほかのコンテンツとも親和性がありそうです。「選挙ボードゲーム」なんかも実現できたらおもしろいかもしれません。
板川:
「君がいっているなら間違いないだろう」と、わりと認めてもらえるところがテレビ東京のいいところです。お笑いやゲームなど、好きなことを存分に追求できるおおらかさがあります。得意分野を活かしてお金を稼いでいく先輩たちの背中を見て育ったし、自分も後輩たちにそのような姿を見せていきたいです。
またゲーム・アニメ・漫画の話をするのが僕は好きなので、今回のようなプロジェクトが継続できるようにプランを出し続けたいです。難しいビジネスの話は工藤さんのような大人に任せて、アイデア出しに徹しようかなと思っています(笑)。『テレ東って、おもしろいことばかり考えている会社だな』と世間に思ってもらえればそれだけで満足です。