Case study 事例紹介
企業自体の価値や哲学が伝えられるテレビの活用法
嘘なくリアルを見せる番組が今の視聴者には刺さる
「種から植えるTV」(テレビ東京)
この事例の担当者
※所属・役職は取材時点の情報
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工藤里紗
テレビ東京 制作局
『生理CAMP』『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん 無修正』『シナぷしゅ』『昼めし旅~あなたのご飯見せてください~』など幅広いジャンルのヒット番組を多数手がける。
パートナー企業・自治体ご担当者さま
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久森匡子
カゴメ株式会社
マーケティング本部 広告部宣伝グループ 課長2001年カゴメ株式会社入社後、営業、商品企画、宣伝、海外、新事業などの部門で、一貫してマーケティング業務に従事。現在は、商品や企業のブランディングに携わると共に、全社のファンベースドマーケティングの推進を担う。
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畑中翔太
dea /BABEL LABEL 企画・プロデューサー
2008年博報堂入社後、博報堂ケトルに参加。2021年dea inc.を設立。
手段とアプローチを選ばないプランニングで「人と社会を動かす」広告キャンペーンを数多く手掛ける。「絶メシ」の生みの親。現在では、ドラマや番組などのコンテンツ領域における企画・プロデュース・脚本も務め、「絶メシロード」「量産型リコ」「お耳に合いましたら。」などを手がける。
目次
- 広告制作で携わっていた畑中氏がテレビ東京での番組制作をカゴメに提案。
- 従来のTVCMや広告だけでは届かないところに企業の価値や哲学を伝えたかった。
- ものづくりの裏側やストーリー性まで見せられるコミュニケーションをしたいと考えていた。
- 商品ではなく、農業のリアルをそのまま伝える内容でカゴメの思いを伝えた。
- 家族で見やすい時間帯に番組内容をマッチさせつつ他局との差別化に成功。
- 収穫野菜を通販番組で販売するなど、状況に合わせた柔軟な番組制作と横展開を実現。
- 社内や取引先の大人はもちろん、子どもからも好評。
- 番組の流れを受けて長尺のTVCMを流すことで、伝えたいことをわかりやすく発信。
- 一般の人を活かす制作が合理的でなおかつ視聴者のニーズにマッチ。
経緯
TVCMや広告だけでは届かないところに、企業自体の存在や価値を届けるために
畑中:
カゴメさんと私が広告の仕事をしていたのが今回のきっかけです。「TVCMや広告だけでは届かないところにアクションできないか」みたいな話からスタートしました。商品を作るために関わっている農家さんや畑にも、カゴメさんが体現する「ブランドの根幹」を伝えられないかと話が出たんです。畑の食材でフルコースを作る特別番組「畑そのまんまレストランにする。in 高崎」をテレビ東京さんと作った経験が私にはありました。あのような企画はカゴメさんにマッチすると思い、テレビ東京さんとの取り組みを提案したんです。実際に話が進んだときにも「畑や大地と触れ合って、野菜を一緒に作る」というカゴメの根源をぶらさないと決めたぐらいで、ほかに具体的な要望や制約はありませんでした。そこで納得し合っていれば、どのようなおもしろさになってもいいと思っていた感じです。
久森:
直近数年間のコミュニケーション活動では、商品のTVCMなどの広告活動をメインに行なってきました。しかし、出稿量が多くはないせいもあり、効果が単発に終わってしまいブランド価値の蓄積にはつながっていなかったんです。また商品の広告がメインだったので、カゴメという会社の価値を伝えられていませんでした。そのため定期的な調査でも、カゴメのブランド価値が低下している点が判明していたんです。逆にイメージが向上しているのは、環境問題など社会課題の解決に取組み、それを積極的に発信している企業が多かったです。またそのような取り組みに共感して生活者が消費に至る傾向が強まっていることも明らかになってきました。そこでカゴメが大切にしている価値やものづくりの背景などを伝え、そこに共感しファンになってもらって企業の成長につなげていくことが課題化されたんです。
工藤:
番組を作っていると、「この商品を推したい」みたいなリクエストをもらい、「それは難しいです」との押し問答が起きる場合があります。特別番組ももちろんですが、レギュラー番組を作るのはより難しいんです。今回は、カゴメさんとご一緒する番組でありながら、演出的にもレギュラーとして続ける意味でもマストがないのがよかったと思います。より根本的なところの、「野菜の基本情報や農作物の育ち方をフィーチャーしてくれたらいい」と畑中さんを介していってもらえたので、自由で考えやすかったです。
また「種から植えるTV」は、大事なところを押さえているだけなんです。畑一面を丸ごと収穫したり苗を植えたりするのにどのぐらいの時間や労力がかかるのかをリアルに見せているだけ。手作業の映像だけでなく、農家さんが実際に使っている機械や、虫や雑草を取るなどの補足的な作業もありのまま見せています。「リアルをそのまま見せればいい」がキーワードで、どのようにリアルを番組に盛り込むかを考えています。
取り組み
予想もしなかった一社提供。いい枠で見せる努力と、“たまたま”を活かす柔軟な制作
畑中:
収穫体験を取り扱うテレビやイベントは多くありますが、農業は収穫だけではありません。収穫以外が長くて大変なんです。しかし大変な部分まで見せる番組は今までなかったのではないでしょうか。「いいところはもちろん、裏側も含めてすべて体験する・学ぶ」をコンセプトに作ったのが「種から植えるTV」です。そのため制作する上で、「嘘をつかない」を大事にしてきました。収録中でも無言な時間が多く、「本当に大丈夫ですか?」とゲストが心配するぐらい。ただ、それがリアルな農作業なんです。黙々と作業する時間が非常に長い。“汗をかいている感”が今の視聴者には受けるし、テレビ東京さんに合っていると思うんです。
久森:
「畑は第一の工場」を、ものづくりの哲学としてカゴメは掲げています。フィールドパーソンと呼ばれる社員が全国の契約農家さんを巡回し、商品の原料となるトマトなどの栽培指導を行うなど、畑を第一に考えながら商品を届けてきました。また畑から暮らしに至るまでの一連の流れの中で野菜に関するさまざまな知見をもち、健康価値を研究して伝えたり提供したりできるのもカゴメならではの価値なんです。あとは長期間・継続的にお客さまに伝えることで、カゴメの価値に共感しファンになってもらうコミュニケーションが必要だったんです。その点を畑中さんに話したら今回の提案をもらいました。
提案されたときは、驚きましたね。一社提供の番組を持とうと考えもしませんでしたから。過去に提供番組をもっていた経験が会社としてはあったのですが、担当者ももういません。「一社提供番組にはファンがつく」ともれ聞いていたぐらいで、『そのようなやり方があるんだな』が提案されたときの素直な感想です。
工藤:
「種から植えるTV」の放送は、家族で見てもらえる放送枠を最初から検討していました。社内調整のかいがあり、いい放送枠に決まったと思います。ちょうどホッとする日時ですよね。食も絡みますから、ゆっくり食事をする時間に安心して見られます。さらに大人向けも多い他局と対照的で、いい枠にいい番組が入りました。
ただ制作は“たまたま”が多いです。多くの野菜の発育状況を話し合いながら柔軟に番組制作をしています。収穫した野菜をテレビ東京のお取り寄せグルメ通販番組「虎ノ門市場」で販売し、売り上げの一部を子ども食堂に寄付したのも「採ったはいいが、スタッフでも分け切れない……じゃあ売ってみよう!」「その売り上げも、せっかくなら寄付しよう!」と流れで決まったんです。SDGsやフードロスのキーワードを使うようになったのも偶然といえます。農家さんに食事を作ってもらうシーンで皮や茎などを使う場面が多々ありますが、フードロスを意識するようお願いしているわけでもありません。SDGsやフードロスの訴求は、あくまで結果です。ほかもいい結果にたまたまでつながるといいなと思っています。
反響・効果
「野菜づくりの苦労」に込めたカゴメの哲学が、取引先や子どもまで幅広い層に響く
久森:
「嘘をつかない・体験を見せる」のとおりの番組になっていて、社内でも話題です。アンジャッシュ・児嶋一哉さんの人柄で和ませながらも、ポイントが押さえられていると感じています。感想で多く挙がってくるのは、「苦労の末に野菜ができている」点です。出演者さんのコメントからも、カゴメが大切にしているものづくりの哲学や「畑からの価値」が伝えられていると感じています。
社外の評判も幅広く、取引先の特に上層部の皆さんに評判がいいと聞いています。あとはお子さん受けのよさもあるんですよね。野菜がどのように育ち、収穫され、加工されて商品になるかまでを、この番組を見てくれている3歳ぐらいのお子さんがすべて語れたという話を聞いて『そこまで理解できたの!?』と驚いた経験があるんです。ほかにも「あの番組、次はいつやるの?早く見たい!」といってくれたお子さんもいました。農家さんはもちろん、コロナ禍で家庭菜園を始めた人が固定視聴者になっている点も感じています。
工藤:
レギュラー番組で継続し「知ってもらう」のが大事だと今回感じました。見逃し配信で見る人もいるものの、「この日時にやっている」との認知拡大が視聴率のパイを底上げしていきますので。2年目の今年は特に意識しています。
あとはテーマが農業のため、視聴者の年齢層が高めかと最初は思っていました。しかしお子さんが見ているとの反響があって、とてもうれしかったですね。お子さん向け・学校向けにほかにも何かできそうだと勝手に思っています。スーパーで並んでいる状態の野菜しか見ていないお子さんもなかにはいて、番組を見るだけでも多くの学びにつながっているんです。一瞬だけを切り取った美しい体験では伝えられない苦労や、時間をかけるからこそ伝えられるものもあると考えています。
番組の流れ+長尺TVCMで「カゴメ」を伝える。一般人の“本気”を活かすのがテレビ東京の得意技
久森:
一社提供のメリットとして、カゴメの施設や契約農家さんでロケをして紹介してもらえる点が挙げられます。商品の原料の収穫ロケなどを通してカゴメの取り組みを伝達できることに番組開始当初から期待をしていました。また長尺のTVCMを流せる点も大きいです。企業の思いやものづくりの哲学を伝えるには15秒では足りません。30秒・60秒は必要だと思っていたので理想の見せ方ができると感じています。番組の流れを受けてTVCMを見ていただくことで、カゴメの思いが伝わりやすくなっている点も魅力的です。
さらにテレビ東京の特長やおもしろさとして、一般の人にフォーカスしている点を私は感じてきました。昔放送していた「ASAYAN」が好きだったんです。一般の人が成長していく様子がおもしろくて。「種から植えるTV」に登場する農家さんも一般の人です。農家さんの苦労に共感してもらえ、野菜の魅力を伝えられる番組がテレビ東京さんとなら作れると私は思いました。リアルだからこその魅力がある番組に実際になってよかったと思っています。
工藤:
「ASAYAN」は“本気”がおもしろさのポイントでしたよね。本気な人たちは魅力的です。何かを作る・演じる・歌うときでも、本気だから伝わる部分があると私は思っています。私もディレクター時代は、カメラを持って一般の人に密着する仕事をしていました。経験を積んでいくなかで「キャラがない人はいない」と思うようになったんです。よく観察したり話を聞いたりすると、誰にもキャラクターがある。そしてキャラクターこそが人生であり、おもしろさにつながると思うようになりました。人に限らず、キャッチコピーで飾れないものでも、フォーカスすると何かが見えてくるんです。その見方をテレビ東京は大切にしているのかなと思います。
畑中:
テレビ東京のバラエティ番組のよさを考えると、「何も起こらなくてもいい」ぐらいの気概といいましょうか。ふんだんに盛り込もうとせず、“抜いて・抜いて”の連続なんです。たとえば音を入れずに、汗の音や作業中の声だけを使う場面が「種から植えるTV」にもあります。人にフォーカスして余計なものを抜いていく作り方をテレビ東京はするんです。その作り方を視聴者もわかって待っている気がしています。同じフォーマットで他局が作っても、まねできない部分です。くわえてビジネスの観点でも、抜いていく作り方は予算的に合理性が高いと感じています。
テレ東と だからできること
思いっきりのよさ・柔軟な横展開、さらに独特のファンを大事にできるのがテレビ東京の強み
工藤:
「種から植えるTV」がファームバラエティ1本で成立していることこそ、“テレビ東京だから”だと思います。農業のロケを私も多くやってきましたが、いろいろなコーナーのあくまで1個でしかない場合が多かったです。しかし「種から植えるTV」は、完全に農業だけ。農業だけにフォーカスする思いっきりのよさは他局にはないと思います。またグループ企業や他部署も含めて、社員同士の顔が見える点も特長です。「商品化して通販で売ってみよう」「収益を寄付してみよう」「ツアーを作ってみよう」と横展開が今回できたのも“テレビ東京だから”だと思っています。
実は「テレビ東京らしさ」を質問される機会がよくあって私も考えるんですが、てんでバラバラな会社なんですよね。ニュースやドラマだけでなく、アニメ・世界卓球・ファームバラエティまで幅広く、しかもそれぞれ特色が強くてバラバラなんです。それなのに「よく見ます」「好きです」と好意を抱いてもらえる。なぜかというと、テレビ東京独特のファンがいてそのファンのことを考えて大事にしているんですよね。カゴメさんもファンを大切にされている点は同じだと思います。まだ途中な部分もありますが、お互いのファンを大事にできる取り組みになっているのも“テレビ東京だから”です。