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夢の次世代電池「全固体電池」はいつ登場するのか。その技術課題と各社の動向

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今回は、固体電池についてご紹介します。

 

現在の電池、バッテリーはいずれも液体を使っています。そのため、電池を長い期間入れっぱなしにしておくと、茶色い液が漏れ出す「液漏れ」が起こったりします。電池は、正極と負極の間をイオンが行き来をすることによって電力を生み出すので、イオンが動きやすい液体がどうしても必要になるのです。

ここから液体を廃して、すべて固体にしてしまおうというのが固体電池です。固体電池の最大のメリットは容量で、現在よく使われているリチウムイオンバッテリーの数十倍の容量が理論的には実現可能です。電気自動車(BEV=Battery Energy Vehicle)で航続距離が現在500kmであったら、1000km以上は確実で、そこまでの必要があるかどうかはわかりませんが、1回の充電で1万km以上を走ることもできるようになります。

 

2つ目のメリットが、バッテリー寿命が大きく伸びることです。現在のリチウムイオンバッテリーは1000から2000回の充電、放電ができますが、これが1万回以上になります。毎日満充電から完全放電までというヘビーな使い方をしても27年以上使える計算です。

これは自動車など多くの機器の耐用年数を超えています。つまり、スマートフォンや自動車を買ったら、バッテリー交換することは考える必要がなくなります。

 

3つ目のメリットが安全性です。バッテリーは損傷を受けると発火をしてしまいます。これは正極と負極を分けている隔膜が破れることによりショートが起こり、一気に大量のエネルギーが放出されるからです。固体電池では損傷を受けても、その部分は破損しますが、ショートが起こることはありません。そのため、安全性も非常に高いのです。

 

さらに、寒さに強いというメリットもあります。現在の電解液を使ったリチウムイオンバッテリーは、-20度になると電解液の粘度が高くなってきます。するとイオンが移動しにくくなり、電力を供給しづらくなり、充電にも時間がかかるようになります。これを避けるためにバッテリーを温めて利用、充電をしなければなりません。固体電池では寒くなっても電解質は変化しませんから、出力が落ちるなどということも起こりません。

 

まったく「夢の電池」ですが、このようなメリットの前提条件は「ほんとうにつくることができたら」というものです。もちろん、すでに可能性はじゅうぶんに見えてきていて、実際に製造に成功した企業もあります。それは日本のTDKです。TDKは従来品の100倍のエネルギー密度を持つ全固体電池の開発に成功しました(https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20240617_01.html)。

▲TDKはすでに固体電池を開発している。スマートウォッチなどに使用する小型のものだが、IoT機器などに利用されるようになると、世の中が変わるインパクトを持っている。TDK公式サイトより引用。

 

ただし、非常に小さく、自動車などに使うものではなく、腕時計やイヤホン、補聴器などでの使用を考えたものです。実は、TDKは2017年にすでに全固体電池「CeraCharge」を開発していて、充放電可能な全固体電池としては世界初のことになります。今回の発表は、このCeraChargeのエネルギー密度を100倍に高めることに成功をしたという内容です。

腕時計やイヤホンなどでは、充電の間隔が大きく伸びますし、期待をされるのはIoT機器です。いちいち電源に繋がなくても、長時間センサー類を動作させることができ、広がりによっては世の中が大きく変わるポテンシャルを持った製品です。

 

しかし、より大型の電池、スマートフォンやPCに使う、さらにはBEVに搭載するほどの大型電池になると、各社開発は進めていますが、まだまだほんとうにつくれるのかどうかよくわからないところがあります。開発に成功しても、現状のリチウムイオンバッテリーと性能があまり変わらないという可能性もじゅうぶんにあります。

その理由は、まだまだたくさんの技術課題があり、それが解決できていないからです。そこで、今回は、固体電池がどんなものであるかをご紹介し、さらにどのような課題があり、各社はどのように解決しようとしているのかをご紹介します。

 

「固体電池が登場するまで、BEVは時期尚早」というのは、日本でよく聞くフレーズです。確かに固体電池搭載のBEVであれば、充電を心配することもなく、バッテリー交換も気にすることなく、発火の心配をすることもなくなります。しかし、固体電池はある日突然登場して、世の中ががらりと変わるというわけではありません。

いきなり固体電池が登場するのではなく、現在のバッテリーの液体部分を減らし、ゼリー状にしていくことで、半固体電池→準固体電池→全固体電池と進んでいきます。

▲電解質の液体部分の割合によって、半固体、凖固体、全固体と呼び名が変わる。半固体電池はすでにスマートフォンなどにも使われ始めている。

 

この進化はすでに始まっています。例えば、vivoのスマホS20シリーズに搭載されているバッテリーは半固体電池になっています。つまり、突然、固体電池なるものが登場をして、「今までのスマホは毎日充電が必要でしたが、これからは月に1回でじゅうぶんです」となるのではなく、スマホのバッテリー容量はじわじわとあがり始めているのです。

この点で、iPhoneは遅れをとり、中国市場で苦しい戦いを強いられています。

iPhoneは2007年に発売されて以来、世界のスマートフォンをリードしてきました。しかし、今、バッテリー周りでは中国スマホに負け始めています。iPhoneシリーズの中で最大のバッテリー容量を持つバッテリー搭載しているiPhone 16 Pro Maxでも4685mAhしかありません。

しかし、今年発売された中国スマホの旗艦機種では6000mAh前後での競争をしています。2年程度の遅れです。

▲各社旗艦機種スマートフォンに搭載されているバッテリー容量の推移。中国メーカーはすでに6000mAhをめぐる競争をしているが、iPhoneは最大の16 Pro Maxでも4685mAhにとどまっている。

 

また、急速充電になるとさらに遅れぶりが大きくなります。

▲各社旗艦機種スマートフォンの急速充電の電力の推移。中国メーカーは80Wから90Wをめぐる競争をしているが、iPhoneは30Wにとどまっている。

 

iPhoneの急速充電は30W前後で、0%から50%まで30分かかります。しかし、中国スマホの旗艦機種では80Wから90Wの競争をしており、0%から50%までの充電で15分を切るようになっています。

もちろん、バッテリー容量をあげたり、超急速充電を使うと、バッテリーには負担になり、バッテリー寿命は短くなります。そのため、やみくもにバッテリー容量を上げたり、充電時間を短くしていくことは最適解ではないかもしれません。

しかし、中国では、決済から公共交通、本人確認、商品の注文まで、生活のほとんどのことをスマホで行うようになっています。そのような社会では、バッテリー切れの不安がある機種は避けられるのです。

iPhoneは素晴らしいスマホですが、中国では他社製品と比較をされ、他社スマホを選ばれてしまうことが多くなっています。

そのため、2024年Q3の中国市場でのシェアはこうなっています。

▲2024年Q3の中国市場でのスマホシェア。iPhoneが最も売れなくなる時期だとは言え、第6位のメーカーにまで沈んでいる。Counterpointのデータより作成。

 

Q3は7月から9月であり、iPhoneの新機種発売は9月であるため、アップルのシェアが最も低くなる時期ではあります。しかし、それでも第6位のメーカーになってしまったというのはショックを感じる人もいるかもしれません。もはやiPhoneは特別なスマホではなくなり、比較をされ選ばれなければならない立場になっています。

中国のバッテリーは日々進化をしており、中国以外のメーカーは遅れを取り始めています。中国ではすでに固体電池に向けた進化が始まっているのです。

そこで、今回は、固体電池の仕組み、用途などをご紹介し、技術課題がどこにあり、各社どのように突破をしようとしているのか、そして、今、どのあたりまで進んでいるのかをご紹介します。

 

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