童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

窓ぎわのトットちゃん

「窓ぎわのトットちゃん」を観てきた。


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元々、黒柳徹子という人がとても好きで、「徹子の部屋」も毎日録画をかけてチェックしている。
ここのところ映画館で盛んに予告編を流していたし、「徹子の部屋」でも関連のゲストが呼ばれていて、観に行ったほうが良いかなと思って行ってきた。
その判断は、間違っていなかった。
失礼ながら、予告編を見る限り、ちょっと苦手な雰囲気のある絵だなと思ってしまっていた。
ところがどっこい。
気がつけばぐいぐい引き込まれ、最終的には滂沱の涙を流す羽目になっていた。

 

原作は、言わずと知れた黒柳さんのベストセラー。
彼女の小学校時代の思い出をまとめた一冊である。
それを大胆にアニメ化した本作だが、内容を一旦置いておいても、まず、アニメーションとしての完成度が抜群だった。

日常シーンの細やかな人の動きや表情の変化に至るまで圧倒的な作り込みで、まさにそこにキャラクターが「生きている」と感じられるアニメーションだった。
さらに圧巻だったのは、空想シーン。
日常シーンとは打って変わって、自由に大胆にタッチを自在に変えて表現している。
電車の車窓で空想の旅をするトットちゃん、初めてのプールで水と戯れる泰明ちゃん、水溜りで歌う雨の商店街、アンクル・トムの悪夢。
どれか一つでも、お金を払って劇場で観る価値のある素晴らしさだった。
攻めた表現でありながら、NHKみんなの歌のような普遍的な美を含んでいて、なおかつストーリー上の必然性が保たれているので決して浮いたりしない。
監督の八鍬さんの絶妙なバランス感覚がなせる技なのだろう。
恥ずかしながら八鍬監督の作品は初めて拝見したのだけれど、劇場版ドラえもんの監督をされていたようで、そちらも観てみたくなった。

そして、まさにいま、この作品が映像化されることの意味みたいなものが良く理解できる作品だった。
徹子さん自身も、長い間この作品を映像化することは断ってきていたようだ。
昨年末の徹子の部屋のタモリさんゲスト回で、彼が今年2023年を「新しい戦前」と表現していたように、今多くの人が戦争の足音が近づいているのを感じて危惧している。
そのことが、非常に切迫感を持って描かれていたように思う。
「枠」に収まることができない子どもたちの「学び」という極めて現代的なテーマのようだけれど、その瑞々しい日常とは対照的に、冷たく恐ろしい戦争の訪れがくっきりと影を落としている。
天気予報を伝えるはずのラジオの緊急速報、急に変わってしまった駅員さん、段々質素になるお弁当。
個人的な体験と大きな社会の流れが、しっかりとリンクしていることが分かる作りになっていた。

社会運動や政治活動を冷笑する雰囲気が蔓延る昨今だからこそ、まさに子ども達や若い人達に観てもらいらい。
我々の日々の営みは、こんなにもあっさりと、多くの人が気付かないうちに、大きくて暴力的なものに踏み躙られてしまう。
だからこそ、僕たちは、自分達が権力を付託した政府を常に監視して、おかしいと感じた時には声を上げなければならない。
家に帰ってニュースをつけると、国民を無視して大企業に尻尾を振り、せっせと裏金作りに勤しんでいた政治家達の恥ずべき姿が報道されていた。
絶望的な気持ちになりながら、本作は、そんな今だからこそ必要とされる作品であろうと強く感じている。