『サウスパーク』「Pandemic Special」感想

 コロナに人種差別に山火事、...etc!まだ年末を迎えてすらいないのにもう2020はネタがてんこ盛りだが、そんな地獄絵図な今年の状況に合わせたのか、『サウスーパーク』が番組史上初の1時間スペシャル「Pandemic Special」を放送!その内容は果たして…?

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 2020年、10月。サウスパークの通りから人影が消え、商店は閉業に追い込まれ、人々はマスクの着け方で喧嘩をしていた。御多分に洩れず、サウスパークにもCOVID-19の猛威に見舞われていたが、この状況を楽しんでいた住人が2人。1人はコロナ禍のステイホームで大麻需要が増えたことで、テグリディ農園の利益が400%まで上がったランディで、記念銘柄の大麻パンデミックスペシャル」を売り出す。*1

 

 もう1人は3月から一切学校に行かなくても良い自由を謳歌していたカートマンで、彼はこの特番「Pandemic Special」のオープニング曲「ソーシャル・ディスタンシング」を高らかに歌い上げるのであった。

 

 オンライン授業もネットの回線が悪いふりをしてサボり、歯も磨かずシャワーも浴びず、1日スマホを弄って好き勝手暮らすカートマン。お母さんが「エリック、宿題はしなくていいの?シャワーも浴びないと…」と心配しても「ああ、オイラたちの世代が命の危機に瀕しているって言うのに、シャワーなんて些細な問題だな〜、ああ、学校に行けなくて残念だな〜、カイルに会いたいな〜、ヘヘヘ」と知らん顔をするが、「でも坊や、学校はもうすぐ再開するのよ?」と聞いて唖然。「カートマンの命は重要じゃないってか!(Carman's life doesn't matter!)」と大激怒。

 

 さて、テグリディ農園が大繁盛してランディは上機嫌。シャロンは相変わらず自分本位な夫に怒っていて、兄のジンボがコロナにかかって重症なことを告げると、マーシュは「ジンボは元々デブでアル中だっただろ?俺が言いたいのは『チャイナ』なんかにビジネスを足止めさせちゃいけないってことだよ。俺は去年中国に行ってミッキーと遊んだ*2けど、あんな場所でウィルスが生まれるのは当然だろ」とまるでトランプみたいなことを言って呆れさせる。

 

 ところが、その後家族でテレビを見ていると、ニュースで科学者達がCOVIDの原因を探り当てたと報道が。科学者が言うには「武漢のとあるコウモリから人間に何故か病気が感染ったのが原因」と聞いたランディの脳に昨年での中国の思い出がフラッシュバックする。大麻でラリってミッキーとハメを外していたランディは、武漢でミッキーにそそのかされてコウモリとファックしていた。そう、世界を一変させたCOVID-19パンデミックを始めたのは、何を隠そうランディだったのだ!

 

 ディズニー社の経済的大打撃に対応していて激務のミッキーの元に、焦ったランディから電話がかかる。「なんだよ、俺様はクソ忙しいんだよ!ハハッ!」「ランディだけど、あの、去年コウモリを犯したの覚えてる?」「俺様は数え切れないくらいコウモリを犯してるよ!ハハッ!」「俺は去年の一回きりで、そのあと具合が悪くなったのを覚えてるんだ…」「テメェ、この野郎!テメェが全ての元凶か!」「あんたがコウモリとヤレって言ったんだろ!とにかく、なんとしてでもこの事実を隠さないと、シャロンに殺されちゃうよ!」と、ランディとミッキーは事態の隠蔽を図る

 

 一方で、ステイホームの日常に飽き飽きしていたスタンは久々に学校に行けると聞いて大喜び。しかし、依然ウイルスが猛威を振るっている中での学校登校に親たちは心配しており、Zoomによるリモート保護者会でマッケイ先生がどのように再開させるか説明をする。何か言うたびにマスク論争で保護者達が喧嘩し始めるので中々会議が進まないが、そもそも先生達が学校に戻りたくない、という問題をどうするのか議題に上がる。「その点に関しては心配しないでください、最近仕事を失った人たちがいて、その人達を教員と雇いました、んけ〜い」

 

 その先生とは、全米に広がった黒人への暴力問題により財務解体された警察官達であった。署長が「これが我々にとっての最後の就職チャンスかもしれないので、不必要な死は避けること!」と呼びかけると、警官達は不満そう。そうした調子なので、赴任1日目から学校内で射撃事件を起こし、やっぱり黒人少年トークンが腕を撃たれてしまう。

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 トークンは病院へ運ばれるが、警察達は「コロナが無ければ我々が教員になることもなかったし、コロナのせいでトークンが病院に入院した。つまり、コロナ関連の病人が出た!今すぐ隔離だ!」とウルトラC級の論理で生徒達を二週間学校に閉じ込める。警察が暴力で子供達を支配し、まるで『ゼイリブ』のようなディストピアが学校に広がる(実際に『ゼイリブ』のテーマ曲が流れる)。バターズはコロナ前にテディベアショップ「Build-A-Bear」に行くことを楽しみにしていたのに、今や半年以上経っても自粛を強制される生活に狂って暴れ出し、警察に連行される。バターズの精神状態を見かねたスタンはカイルとカートマンと共に、バターズを「Build-A-Bear」に連れ出す計画を立てる。

 

 一方で、自分が始めたかもしれないパンデミックに対し、罪悪感に苛まされるランディ。テレビを点けると再びニュースがやっていて、コロナのワクチンを開発するには原因となったウイルスをつきとめる必要があると言う。科学者が『最近我々は、原因は武漢のコウモリでないことをつきとめました』と言うのを聞き、ランディが喜んだのもつかの間、「…コウモリではなく、センザンコウが原因です」再びランディの脳裏に記憶がフラッシュバック。そう、ランディはミッキーと一緒にセンザンコウ武漢で犯していたのだ。

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 やっぱりCOVID-19の原因であることに変わりがなかったランディ。科学者達が原因となったセンザンコウを捕らえたと聞き、隠蔽すべく研究所に行ってセンザンコウを盗み出す。ただ1人真実を知るランディは、人から隠れるように怯えながら家で過ごしていたが、ある日小包で「お前は死んだ」と書かれた脅迫文と共に心臓が届く。その贈り主の正体はミッキーで、その理由を問うと「ワクチンのためにお前のDNAが必要なんだ、ハハッ!悪く思うな、これはビジネスなんだ、お前を殺してDNAを科学者に送ってワクチンを作ってもらう、ハハッ!」窮地に陥ったランディはしかし、あることを閃く。「ちょっと待ってくれ、ミッキー、時間をくれ!」

 

 その夜、ランディは病院に忍び込み、重症のジンボに自分の農園で育てた「パンデミックスペシャル」に自分のDNA、つまり精子をぶっかけて無理やりジンボに吸わせる。すると翌日、奇跡的にジンボの体調が回復し、病院から退院することになった。「これでパンデミックを止められる!」とランディは歓喜し、いまや町中の人間が吸っている「パンデミックスペシャル」に自分の精子をかけ続ける

 

 あまりの量の精液を絞り出し、生気もゲッソリ失いつつあるランディ。ところが、シャロンが言うにはジンボの様子がどこかおかしいと言う。病床に眠るジンボを伺うと、再び昏睡状態に陥り、顔にはランディそっくりのヒゲが生えていた。この症状はジンボだけでなく、「パンデミックスペシャル」を吸った町中の人間に見られ、正体不明のヒゲを生やした町民達が病院に殺到する。ランディは新しいパンデミックを引き起こしてしまったのだ。

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 ランディは自分が新たに引き起こしたパンデミックのさらなる隠蔽を図り、スタンの主導で子供達は学校を抜け出し、いまだに子供達にコロナが潜伏していると信じている町民達はパニックを起こす。警察は市長から許可を得て、没収されていた戦車や重火器を取り戻して意気揚々と子供達を探し、スタンとカイルとカートマンはバターズを連れて「Build-A-Bear」へと向かうが……。

 

 

 『サウスパーク』が放送を開始して以来、『無修正映画版』とシーズン11の「Imagination Land」三部作を1作にまとめたビデオ映画版を除き、長編のエピソードを放映したことがない。それだけにこの「Pandemic Special」はトレイとマットの力の入れようが実感できるエピソードだったが、逆に言うと2020年というカオス過ぎる1年を前に、トレイとマットが1時間特番を作らざるを得なかった、ということもできる。なお、このエピソードはあくまで「特番」というくくりで、シーズン24のプレミアではない模様。

 

 コロナにまつわる事象がありったけ盛り込まれているが、鑑賞中に自分が一番感じたのは「コロナ禍で狭くなってしまった人々の心」であった。これは自戒を込めて書くが、例えば僕なんかは緊急事態宣言中にマンションの外で人が歩いているのを見ては嫌な気持ちになったし、スーパーとかでちゃんとマスクをつけてなかったり、ソーシャル・ディスタンスを守っていない人がいるとイライラする。サウスパークの住民も、ちゃんとお互いにマスクを着けているかどうかを監視しあい、着けていない住人がいると他者の前で糾弾する。*3

 

 3月以前と以後で明確に世界はギスギスした世界に変わった。こうした「ギスギス」への苛立ちや、コロナ以前の世界に対する恋しさをうまくスタンに落とし込んでおり、彼が自分の行動動機を説明するクライマックスでは共感のあまり泣きそうになった。一方で、コロナ禍は家でゴロゴロすることが史上初めて推奨される異常事態でもあり、「ステイホーム最高!」と家でゴロゴロすることを楽しむカートマンの気持ちも理解できる。相変わらず多角的に物事を捉えることに抜群に長けた番組だ。

 

 2020年といえば、ブラック・ライブズ・マターも重大なテーマだが、こちらは警察が暴力的で描かれている以外はあまり深く描かなかったのが残念だ。しかし、BLMは近年の『サウスパーク』でも何回も主題になっているので、ネタの重複を避けたのではないだろうか。

 

 また、トランプが全くコロナに対応しない驚愕の理由も描かれていて、コロナはマイノリティに死者が多く、積極的に放っておくことで「メキシコ人をアメリカから根絶する」という公約を実現できる、というものだった。あまりのバカさ加減に笑ったが、現実のトランプもひょっとしたら実は同じことを考えているんじゃないか、と思わせるくらいにはリアリティがあるのが恐ろしい。そんなトランプは放映後にコロナに罹ったが、あと数週間早ければ番組内に盛り込めただろうに、トレイとマットは悔しがっているだろうなぁ。そんなトレイとマットが番組をとして伝えたいメッセージをトランプ(というかギャリソン先生)に言わせていたのが憎かった。「投票に行こう!」

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*1:もちろん、嫁のシャロンは呆れていて、「世界中が未曾有の危機にあるときに自分のスペシャルにしか興味がないなんて!」やや自虐めいたセリフを言うのが最高

*2:もちろん、S23E2の出来事を述べているが、ランディの乱暴な物言いにはトレイとマットの恨み節も重ねてそう。

*3:笑ってしまうのは、マスクをつけていない状態を劇中では「Chin diaper(顎オムツ)」と呼んでおり、こういうバカバカしいけど的を得ている単語を生み出させたらトレイとマットほどの天才はいない。

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