米空軍が運用する攻撃機「A-10サンダーボルト2」173機の主翼全体を新たに製造した新品に交換する作業が今夏完了した。今月中旬に米軍が発表した。試作機の初飛行から47年、実戦部隊への配備開始から42年という古い飛行機を使い続けるため、翼を丸ごと新品に交換するのは前代未聞だ。そこにはA-10の持つ「オンリー・ワンの能力」がある。
(岡田敏彦)
強くて遅いが
A-10は湾岸戦争(1991年)などで米陸軍や米海兵隊を空から援護してきた地上攻撃機。主翼と胴体下に爆弾やミサイルを懸架できるハードポイント(機外兵装搭載部)を11カ所備え、最大搭載量は7・3トンと第二次大戦時の爆撃機B-29(4・5~9トン)並。機首には戦車の上面装甲を貫通する口径30ミリのガトリング式機関砲を搭載している。これらの装備で味方陸兵の難敵となる敵戦車や防備の堅い陣地などを攻撃するのが役目だ。
一方で最高速度は706キロと、ジャンボジェット機(巡航速度で約900キロ)より遅く、第二次大戦時のレシプロ(プロペラ式)戦闘機のP-51マスタング(703キロ)と変わらない。音速を優に超えるジェット戦闘機が飛び交うなか、鈍足の攻撃機が21世紀にも生き残る理由は、地上攻撃に特化したことによる。
早すぎた「マルチロール」の後
米軍がA-10の開発要求を出したのは1967年3月6日。当時の米空軍の攻撃機はF-105やF-111といった空対空戦闘と攻撃を兼用するものだった。