
21歳のころとてもつらかった時期があって、「新世紀エヴァンゲリオン」を見て勇気づけられたんです。あの子たちがあんなにきびしい試練を乗り越えられるんだったら自分だってできると思ったんです。今でも落ち込んだときは「エヴァンゲリオン」を見ると励まされます。
シルビアに出会ったのはまったくの偶然でした。数週間前に、エスカスのとなり町のサンタアナにある病院で診察を受けたあと、支払いをしているときのことです。となりに立っている若い女性が、会計係におしゃべりしているのがとぎれとぎれに聞こえてきました。自分は以前日本語教室に通っていた、そして今は日本のアニメをたくさん見ているおかげで、日本語を聞けばだいたいわかる、といった内容でした。
何よりも、彼女の熱中した様子にひかれて、「私、日本人です」と声をかけました。すると、その女性は一瞬絶句し、 目を丸くして私の顔に見入ったあと、「ウレシイデス!」と叫んだのです。そこから会話がはじまって、彼女の名前がシルビア・ス二ガ(Silvia Zúñiga)であること、日本のアニメが大好きなこと、そして日本料理をつくることに夢中になっていることなどを知りました。
「エヴァンゲリオン」に救われる
私は今38歳ですけど、私のように80年代、90年代に子供時代をすごしたコスタリカ人はみんなテレビで日本のアニメを見て育ってます。「トランスフォーマー」とか「アルプスの少女ハイジ」とか「うる星やつら」とか。私は6歳のときに宮崎駿の「もののけ姫」を見てすっかり魅了されました。
でも私を救ってくれたのは「新世紀エヴァンゲリオン」です。巨大な人造人間「エヴァンゲリオン」のパイロットとなった14歳の少年少女たちと、未来の東京を襲う「使徒」との戦いを描くアニメシリーズです。私は実は、生まれたときから下垂体腺に問題があって、そのためにずっとうつ病に悩まされてきました。21歳のころとてもつらかった時期があって、「エヴァンゲリオン」を見て勇気づけられたんです。普通だったら元気の出るようなス―トーリーではないんですけど、あの子たちがあんなにきびしい試練を乗り越えられるんだったら自分だってできると思ったんです。今でも落ち込んだときは「エヴァンゲリオン」を見ると励まされます。
このアニメを見て日本にとても興味をもつようになって、いろいろ調べていくうちに、引きこもり現象について知りました。こういうふうにはなりたくないと思ったんです。それで今はなるべくものごとを楽観的に考えるようにしています。
日本に惹かれるいちばんの理由は、独自の文化をたもっているということです。第二次大戦後、アメリカが日本から伝統文化をうばおうとしましたが、日本は屈しませんでした。映画にしても、文学にしてもマンガにしても独自の文化がしっかり反映されています。これには本当に脱帽します。
以前日本大使館で日本語教室に通っていたんですけど、仕事とかち合うようになってやめてしまいました。でも日本語でアニメをたくさんみているうちに、80パーセントから90パーセントぐらいは字幕なしでわかるようになったんです。
コスタリカにはアニメファンの大きなコミュニティーがあります。ここではオタクというのは軽蔑的なことばではないんです。「日本文化が大好きでもっと学びたいひと」という意味でつかってます。
日本食への情熱
とにかく日本の食べ物が大好きです!最初に日本食を食べたのは、14歳のときに、おばあさんのお誕生日にTin Jo(ティン・ホ、サンホセにあるアジア料理のレストラン)に行ったときでした。その後「いちばん」という日本料理屋さんによく行くようになりました。今はもうなくなってしまいましたけど、日本人がやっていて、ほかのレストランでは食べられないような家庭料理をだしていました。たとえば年にいちど日本から材料をとりよせて、鯛のかぶと煮をだしたり。
昔のボーイフレンドが、日本で一年間お料理を勉強したことがあって、彼が日本料理をおしえてくれたんです。それから自分でつくるようになって、だいたいうまくできたと思ったら、彼に試食してもらっていました。
今は、サンフランシスコに住んでいる日本人女性が書いている、Just One Cookbook (一冊だけのクックブック)という英語のウェブサイトでレシピを探します。このところたこ焼きと餅アイスクリームに凝っているんです。中国系のスーパーで、もち粉は手に入るんですけど、皮がちょうどいい歯ごたえになるように作るのがむずかしくて。大きな香料グラインダーと木製のきねをつかったらどうかなと思っているんですけど。
メロンパンとカレーライスはよく作ります。ふたつともいやされる食べ物ですよね。なぜと訊かれてもはっきりわからないんですけど。たとえばオムライスとかトンカツもよくつくるんですけどメロンパンとカレーライスのあの同じあたたかみがないんですよね。

女性差別のかべ
日本にはまだ行ったことがありません。実は、もう5年前から、今年の4月に行く計画をたてていたんですけどダメになってしまったんです。当時サンホセのマイクロソフト事務所でサポートエンジニアとして仕事をしていたのですが、去年の8月に解雇されてしまいました。理由は、原理主義クリスチャンの男性の上司にとって、私が聖書のいうような女らしさに欠けていたからなんです。つまりジェンダー差別です。
上司にそう言われて、彼の上司に訴えると、「いや、彼は君のことを娘のように思っているんだよ」といいます。それで人事部長に話したら、「我々には何もできない」というんです。とうとう本部の人事部に訴えたら、4時間後に解雇通知書が届いたんです。正式な理由は単に「雇用主の希望により」ということでした。
4月に日本行きを計画したのは、私の誕生日が4月の末で、桜をみながら誕生祝いをしたかったからなんです。出発予定日にはあまり悲しくて本気で手首を切りたくなったほどです。今でも思い出すと涙が出てきます。
仕事の成績がよくないから、ということならまだわかりますけど、女らしくないからなんて!
コスタリカにはまだまだジェンダー差別が蔓延しています。とくに私のようにテクノロジーの分野で仕事をしているとよく直面します。以前アマゾンで仕事をしていたんですが、流産してしまって、長い間精神的に立ち直れないでいたら、一か月以内に復帰できなかったことを理由にくびになりました。
マイクロソフトを解雇されてから、ある会社に面接に行ったら、「結婚したことがありますか?子供はいますか?ボーイフレンドはいますか?」と聞くんです。全部「ノーです」と言ったら、「あなたの年で、結婚もしてなくて子供もいないような女性は責任感が十分ないと思われるのでやとえない」といわれました。
「子供はほしくないのではなくて、できないんです。もう三度流産してるんです」と応えたら相手は真っ青になってました。
マッキンゼーに行ったときは、「あなたは知識がありすぎる。半年後にまた来て、そのときは知識レベルを落としておくようにしてください」といわれたんです!まったくナンセンスでしょう。
今は小さな派遣会社からこの病院に派遣されていて、コンピューターやプリンターや電話に関連した技術的なサポートの仕事をしています。毎日ちがった問題が出てくるのでおもしろいです。
私はコスタリカ大学の、企業向け情報科学の学部で勉強したのですが、学部生52人のうち女性は5人だけでした。今はもっと大勢の女性がこの分野にはいってきてるんで、彼女たちが仕事をはじめるころにはもっと平等になっているかもしれません。
マンガカフェが夢
もし資金をあつめることができればマンガカフェを開きたいんです。まんがや雑誌やライトノベルをおいて、日本の家庭料理をだしたいと思ってます。大学の近くにそういうお店を開いて、ちょっと気分転換したいときに行って、一息入いれられる場所ににするのが夢です。
今の仕事ではお給料が低すぎてとても必要な資金がためられません。それに家から遠くて。バスを3本のりついで、行きは2時間、帰りは2時間半から3時間半ぐらいかかります。だからもっといい仕事をさがしているところです。
今の私の幸せは読書と料理と飼い猫といっしょにすごすことです。まんがやライトノベルだけでなく、いわゆる本格的な小説も読みます。私はマンガだって、ライトノベルだって本格的だと思うんですけどね。
猫は2匹いて、ユエと雪男といいます。ユエは中国語で月という意味です。雪男は「欲しいものを獲得する」という意味だと思ってこの漢字をつけたんですけどちがうんですね。
コスタリカと日本
コスタリカ人は日本人から学ぶことがたくさんあります。とくに責任感と時間をまもること。でも似ているところもあると思いますよ。たとえば親しみやすさ。日本のひとは私たちコスタリカ人より人と人とのあいだに距離をおきますけど。でもお客さんをもてなすときに、家族の一員のようにむかえて、なるべく快適に、気持ちよく過ごさせてあげたいと思うのは共通しているのではないでしょうか。
私が小さいときに、近所に日本人夫婦が住んでいました。とても礼儀正しい人たちだったという印象があります。ご主人がよくだっこしてくれて、奥さんとはおままごとをして遊びました。日本のひとはあの礼儀正しさのなかに大きな暖かさをもってるんです。私たちよりあらわしかたが控え目なだけです。
(インタビュー2019年10月1日)
何だか小説の世界に入り込んだようなストーリー展開ですね。ゲリオン是非読みたいです💪
そうですねー。最初にメロンパンとかの話をしたので、ハッピーで軽いインタビューになるかと思ったら思いがけず真剣な話になって・・・彼女の勇気に心をうたれました。