学習端末でのデータ活用、新たな見守りツールか過剰な監視か…プライバシーや人権を考える
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そもそも渋谷区個人情報保護条例は7条で「思想、信条及び宗教に関する事項」を原則として収集してはならないとしており、網羅的な閲覧履歴や検索履歴はこれに当たると解される可能性もある。また、改正法の施行で4月から自治体に適用される個人情報保護法では、利用目的の達成のために「必要」な範囲を超える保有は認めていない。
たとえ児童生徒の指導や支援という正当な目的のためでも、やり過ぎれば「必要な範囲」を超えていると判断される恐れもある。自宅でも利用する端末の閲覧履歴などをすべて取得することは、「必要な範囲」といえるのだろうか。
子どものデータへのアクセス、担任以外の教員や区教委も
問題は個人情報保護法だけではない。プライバシー侵害の有無を判断する上で必要となる様々な要素は考慮されたのだろうか。例えば、データにアクセスできる範囲はどうだろう。同区では子どものデータへのアクセス権を担任だけでなく、その学校の他の教員や区教委にも与えているが、その範囲は適切だろうか。
また、保護者や子どもが正しく理解し納得しているかどうかも重要だろう。区教委は昨年9月に保護者連絡用アプリで通知したと説明するが、気づいていない保護者は少なくない。プライバシー対策を専門とする渋谷区在住の弁護士さえ「毎日、何通もくる通知の中に埋もれて気づかなかった」というほどだ。
生体情報による感情センシングも
滋賀県東近江市の市立小学校1校で行われている文科省の実証事業も、データ利活用と子どもの権利の悩ましい関係を考えさせる。
昨年11月から、同校の児童約80人について端末内蔵カメラで脈波や瞳孔の動きなどを測定し、「感情センシング」という手法でリアルタイムに感情を分析しているという。
「どんな教材や教え方に接した時にわくわくし、あるいは興味を失うかが分かれば、その子に最適な学びを実現でき、授業改善にも役立つ。いじめや不登校の早期発見にもつながる」。プロジェクトリーダーの藤村裕一・鳴門教育大教授は意義を語る。
特筆されるのがデータの正確性だ。「これまで、子どもの心理状態を把握するには本人にその日の気分などを記入させてきたが、子どもは不安や恥じらいなどから正直に記載できないことがある」と藤村教授。だが、生体情報は偽装が不可能だ。
保護者が利用目的や意義を正しく理解して、納得してくれることが大切だと考え、運用前には保護者説明会も開いたという。利用目的を定め、その達成に必要な範囲でデータを使うなら、個人情報保護法上は適法といえるかもしれない。それでも石井教授は、「憲法上保護される思想・良心の自由に踏み込むことにならないか」と懸念する。
パブコメでも指摘はあった
実は、同様の懸念は「留意事項」に対するパブコメの中でも上がっていた。文科省は明らかにしなかったが、意見提出団体のうち少なくとも2団体が自らのウェブサイトなどで提出意見を公表している。
このうち一般社団法人マイデータ・ジャパンは、プライバシー保護に関する検討が欠落している点などを批判している。個人情報保護委員会が公表した「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」を引き合いに出しつつ、同報告書が14の裁判例をもとに、カメラ画像の利活用で想定されるプライバシー侵害のおそれについて検討しているのに比べ、教育データの利活用では裁判例を参照した具体的な検討がなされていないと指摘している。