民間シンクタンクの三菱総合研究所が東京都民1000人を対象に実施したアンケートで、東京電力福島第一原発事故に伴う放射線被ばくで県民に健康障害が「起きる可能性がある」と考える人が半数に上った。同様の県民調査の約1・5倍で、国連機関が原発事故による健康影響を否定しているにもかかわらず、県外で理解が進んでいない実態が浮き彫りとなった。専門家は偏見や差別につながりかねないとして国主導で放射線教育や風評対策を強化するよう求めている。
三菱総研は「復興五輪」を掲げる2020年東京五輪・パラリンピックを前に、復興状況に関する都民の認識や放射線への意識を把握しようと8月にインターネットでアンケートを実施。都内在住の人のうち、全ての設問に答えた20~69歳の男女計1000人(男女各500人)の回答を分析した。
現在の放射線被ばくで県民に後年、がん発症などの健康障害がどの程度起こるかを尋ねたところ、可能性は「非常に高い」「高い」との回答が計53・5%に上った。子や孫ら次世代以降の県民に影響が起こる可能性については「非常に高い」「高い」が計49・8%だった。
一方、県が実施した県民健康調査(10月公表)では、同じ質問に対する県民の回答は、後年に生じる健康障害の可能性が「非常に高い」「高い」は計32・8%、将来世代に影響する可能性は「非常に高い」「高い」が37・6%だった。事故直後の同調査では県民の6割近くが健康影響を不安視していた。理解を深めている人が増えている県内では大きく減少したが、都民との意識の差は1・5倍前後となっている。
放射線の影響を研究する国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)は2013(平成25)年に公表した報告書で、福島第一原発事故の健康影響について、「県内で被ばくによる死亡や深刻な病気の報告はなく、今後のがん発生率に明確な変化、被ばくによるがんの増加も予想されない」と結論付け、昨年の改訂版でも見解を維持した。
しかし、三菱総研の調査結果からは、事故から6年8カ月が過ぎた今なお、こうした科学的な評価が都内では浸透していない現状がうかがえる。担当者は「過半数が現在の世代だけでなく次世代にも影響があると考えている現状では、県民への誤った先入観や偏見を生み出す可能性がある」と指摘。理解が進まないまま東京五輪を迎えると、訪日外国人にも誤解が伝わる恐れがあるとしている。
県の宇佐見明良風評・風化対策監兼知事公室長は調査結果を受け「福島に対するイメージが更新されておらず非常に残念」とした。その上で、復興庁が年内に取りまとめる風評払拭(ふっしょく)やリスクコミュニケーションの強化戦略に基づき、国と連携し実効性ある対応を講じていく考えを示した。
■偏見や差別の恐れ
本県で放射線の健康影響の研究、支援を続けている物理学者の早野龍五東京大名誉教授の話 福島の印象は原発事故直後の衝撃的な映像のまま固定化されてしまっている。今回の調査結果は、県内の子どもが結婚する年頃を迎えた時にいわれのない偏見や差別を受けかねない素地があることを示している。状況を変えるのは容易ではないが、国主導で放射線の正しい知識や科学的知見を粘り強く示し続けていくしかない。
(カテゴリー:福島第一原発事故)