建築資材や住宅設備の価格の値上がり、人件費の高騰、諸外国の情勢などにより、住宅価格が上昇している2024年。今後、住宅がさらに手に入りにくくなるかもしれないと考え、ここで家を買おうと決めた方もいるのでは?そこで今回は、住宅価格の先行きと、一戸建てを取得する際の注意点について紹介します。
最近、住宅価格が高騰しているというニュースをよく見聞きします。実際に住宅価格はどの程度上昇しているのでしょうか。
「2020年、新型コロナウイルス感染によるステイホームやリモートワークの普及で戸建ての需要が拡大、価格も急上昇しました。しかし、あくまで一過性で、同年後半には一旦落ち着きを見せました。ところがそれ以降、海外の木材が手に入りにくい『ウッドショック』や資材の高騰などさまざまな要因が重なり、2024年の現在に至るまでじわじわと住宅価格は上がり続けています」(SUUMO副編集長 笠松美佳さん。以下同じ)
実際の住宅購入価格の動きはどうでしょう。SUUMOリサーチセンター「2023年首都圏新築分譲一戸建て契約者動向調査」によると、2023年の平均購入価格は2022年より109万円上昇し4515万円と、2014年の調査開始以降、最高額となっています。
では、高騰するさまざまな要因とは具体的に何なのでしょうか。
「ひとつは建築資材や住宅設備の値上がりです。資材高騰の原因は、『ウッドショック』やロシアのウクライナ侵攻による建築資材不足、運搬にかかるエネルギー価格の高騰などです。住宅設備高騰も、原油価格などの値上がりが背景にあります。日本建設業連合会の調べによると、建築資材は2021年から2024年現在までの3年間で約30%上昇しています」
また、人件費や地価の高騰も大きな要因だと言います。
「働き方改革を背景にした職人の人手不足や人件費の高騰も大きいですね。さらに地価上昇も戸建価格を引き上げており、いろいろな要素がかみあって、住宅価格上昇に繋がっているのです。この傾向は2020年後半から顕著になり、現在も続いています」
最近、家づくりで特に顕著なのが省エネへの意識の高まりです。リクルートが行った「2023年注文住宅動向・トレンド調査」によると、「家を建てる時に重視する点は」という質問に対し、「断熱性や気密性に優れていること」「太陽光発電を搭載すること」「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)であること」という答えが増加しています。
「温暖化が進み、酷暑で一日中クーラーをつけていたりして、エネルギー効率のいい家に住みたいと思う人が確実に増えています。実際、環境への配慮という点で、今後、さまざまな性能が義務化されます。注文住宅を建てる際、2024年4月から『省エネ性能表示制度』がスタート、2025年4月から『断熱等性能(外皮性能)等級4以上』で『一次エネルギー消費量等級4以上』であることが必要となり、ハウスメーカーによってはZEHを標準にする会社もあります。それらによって建築時のコストは上がりますが、何十年も住み続ける家のランニングコストはぐっと抑制されるのです」
住宅価格が高騰している今、カスタマーの意識は『住宅維持費の削減』という方向に向いているのかもしれません。さらに、もうひとつのトレンドが平屋です。
「高齢になると2階を使う機会がほとんどなくなり、収納部屋になってしまいがちです。それなら建築コストを減らすためにも平屋を選択する人が多いですね」
上昇を続けている戸建住宅の価格は、今後どのように変動するのでしょうか。
「住宅価格が下がる要素は何も見当たりません。原油高の先は見通せない状況で、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される『2024年問題』もあり、運搬費の高騰は免れないでしょう。
さらに、脱炭素の取り組みが世界的に加速しており、日本も2050年までに脱炭素を実現させる宣言をしています。それに向け2025年4月以降は全ての建築物に『省エネ基準』への適合が義務付けられ、断熱等級4、一次エネルギー消費量4以上を満たすことが必要になります」
平屋にしたり敷地面積を少なくしたりするなど、住宅価格の高騰に対応する動きもあります。それでも大きな流れで見れば、今後も住宅価格は上がらざるを得ないようです。
「ただ、断熱などの省エネ基準が引き上げられ、品質が良くなる分、長く住むことも可能になるのです。築年数がたっても以前ほど価値が下がりにくく、何十年も住み継いでいける家づくりが進むでしょう。日本の住宅に対する意識の変革期となるかもしれません」
住宅価格の上昇のほかにも、今後、家を建てるときに気を付けることはあるのでしょうか。
「住宅設備の中には、半導体不足や資源不足などの影響で納品時期が不透明なものがあります。建売ビルダーが手掛けるような規格住宅は問題ないと思いますが、設備を1点ずつ自分たちで選んで家を建てる場合、在庫が無いために希望する設備を採り入れられない可能性はあります。
どうしてもその設備を採り入れたいなら、納品を待ち、工期が遅れることを受け入れるしかありません。もし工期を延ばしたくないなら、納期が遅れる可能性がない商品を教えてもらい、その中から選ぶとよいでしょう」(SUUMO編集長 池本陽一さん。以下同じ)
住宅の工期は構造・工法によって大きく変わります。しかし、戸建住宅ニーズの高まりを受け『着工までに半年待ち』というハウスメーカーもあるようです。
「時間をかけて建築会社を決めた後、着工まで待たされるとテンションが下がりますし、場合によっては会社を選び直す必要も生じます。入居時期が決まっているなら、早いタイミングで建築会社に伝えてそれが可能か確認を取りましょう。絶対に入居時期を変えられない人は、一番始めに希望時期を伝え、可能と言われたら検討するほうがよいかもしれません」
地球温暖化の一因となるCO2排出を抑制するために、住宅・建築物には高い省エネルギー性が求められています。
「国の方針として、2025年度までに省エネルギー基準への適合が義務化され、遅くとも2030年度までにはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準まで段階的に引き上げると発表されています。
このような流れを考えると、省エネルギー基準を満たさない住宅は、実質的には「既存不適格」的な見え方になり、売却時に不利になる可能性があります。将来的に売却を検討する場合はもちろん、その予定がすぐになくても、省エネルギー性の向上は快適な住み心地と光熱費の削減を可能にするため、強く意識したほうがよい性能だと思います」
住宅価格は高まっているけれど予算内で家を建てたいとき、どのような方法が取れるのでしょうか。
家づくりの費用は、大きく分けると「土地代」と「建物代」に分かれます。資材高騰などにより建物代が高い今、土地代を抑えれば予算内で家を建てやすくなります。駅や商業施設から離れている、特急や急行が停車しない駅にするなど、自分たちが許容できる範囲でエリアを変え、土地代を抑えることを検討しましょう。
建物代を抑える方法として、床面積を小さくするのはとても効果的です。床面積を小さくすれば、建築工事費の中でも比較的コストが高い基礎工事や屋根工事の費用が抑えられますし、内装材や外装材の総量を減らすコストダウンも可能です。
住宅会社には、それぞれ得意分野があります。ホームページなどに「ローコスト住宅」と表記している会社は、コストを抑えるために間取りをパターン化したり、設備仕様を絞って共通化するなどで、高品質な住宅を安く建てることが得意な会社です。予算に限りがある場合、ローコスト住宅が得意な会社を家づくりのパートナーに選ぶのもよいでしょう。
何度も打ち合わせを重ねて一軒の家を建てる「注文住宅」は、打ち合わせをせずに同一の仕様・設備の家を数多く建てる「建売住宅」と比べると、どうしても価格は高くなります。
「家の仕様や設備にあまりこだわらないのであれば、予算内で販売されている建売住宅を購入する選択肢もあります。ただし、建売住宅は建築中の様子がわかりませんし、構造や給排水管など見えない部分の状態が不安かもしれません。
新築戸建を購入するなら、第三者機関が家の品質を評価した『設計住宅性能評価書』、さらに『建設住宅性能評価書』が取得されていれば、建築中に複数回のチェックが行われ安心です。取得している物件や、自社で工事をチェックした履歴がある物件なら、資産価値の面でも安心感があります。
中古戸建は、不具合や欠陥などの瑕疵がないかが心配です。特に一戸建ては個体差が大きいので、事前に検査しているかどうか、瑕疵保険や瑕疵保証がついているかを確認し、ない場合には契約前に住宅の検査をすることをお勧めします。中古住宅はリフォーム済みや購入後にリフォームするケースもありますが、新築住宅ほど多くの建材や設備を使わないので、資材高騰の影響を受けにくく割安感があります。
いずれにせよ、複数の建売住宅を見て比較し、価格の相場を掴むことが大事です。また、性能が高いとアピールしていても、具体的な数値や、どのように高めたのかを答えられない会社からの購入は、再考したほうがよいと思います」
予算内でマイホームを取得する方法を紹介しましたが、何を基準に選ぶべきなのでしょうか。
「状況によって正解は違うので、どの方法を選ぶかは家族で検討し、決めたらよいと思います。
ただ、将来的に売却や賃貸を考えているなら、立地はとても重要です。また、建物の資産価値を考えると、床面積は若干コンパクトでもよいので、高品質な住宅を取得することをおすすめします」
ここまでご紹介したように、資材高騰や円安の影響などにより住宅価格が下がる見通しは立たないため、しばらく様子を見ようか…と迷う人もいるかもしれません。
「今後住宅価格が下がるのは、世の中が不景気になって売れ行きが悪くなり、建築会社が値引きをしてでも販売するケースかもしれません。しかし、不景気になると私たちの給与も伸び悩み、ボーナスがなくなる可能性もあるので、買おうというマインドにならないことも。また住宅ローン金利は、インフレ気味の情勢を受けて上昇する可能性も考えられます。
価格の様子を見ているうちに、家を建てるタイミングを逃してしまうのは避けたいものです。例えば、子ども部屋がある広いリビングの家を建てたのに、子どもはその部屋を数年しか使わずに家を出てしまい、広いリビングも夫婦2人きりで使うというのは、とても残念ですよね。
私は、住宅は利用価値を重視するべきで、資産価値は付随的でよいと考えています。ライフステージを考慮してマイホームを取得し、家族で楽しく快適な暮らしを送ってほしいと思います」
戸建住宅の価格は2020年以降上昇している。その主な要因は、資材価格の高騰と戸建て需要の増加
原材料や半導体の不足により、設備や建材の納品が遅れる可能性がある。入居時期が決まっている人は工事スケジュールを確認したうえで依頼先を選びたい
限られた予算で家を建てるなら、土地価格を抑えるためにエリアを変える、床面積を小さくするなどの方法を検討しよう
戸建住宅の価格が下がる見通しは立たないので、価格の様子見はせず、ライフステージを重視して家づくりをスタートしたい
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