村上佳菜子、重圧とともに歩んだ1年 現役続行を決断、心の奥底にあった情熱
期待された「日本女子の新エース」
村上佳菜子が今季最後の試合となる世界国別対抗戦に出場。自らの重荷を背負って挑んだシーズンを振り返る 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】
バンクーバー、ソチと2回の五輪に出場し、日本女子フィギュアのトップを走っていた彼女たちが抜けるとなれば、おのずと自分に期待されることは分かる。「日本女子の新エース」。シーズン前、何度となくその言葉を聞いた。浅田、鈴木とともにソチ五輪を経験し、世界選手権も4年連続出場(昨季終了時点)と、他の若手に比べれば実績では群を抜いている。「自分が引っ張っていかなければ」。これまで黄金時代が続いていた日本女子フィギュアの灯を消さないためにも、村上は自ら重荷を背負った。
鈴木はこうした状況を危惧していた。オフに会ったときのことだ。そこには必要以上に自分を奮い立たせている村上がいた。表面上では明るく振舞っていても、言葉の節々から気負いが感じられる。「無理しなければいいけど」。鈴木からしてみれば、村上には“末っ子気質”があるのだという。これまでは前を走ってくれている先輩がいた。そして彼女たちに付いていけば正しい道を進んでいくことができた。しかし、これからは自分自身でその道を作っていかなければならない。
こうした状況をあらかじめ見越していた鈴木は、村上に以前からこう伝えていた。
「人間って絶対にいつかは上の立場になっていく。それはスケートだけじゃなくてどの社会にいてもそう。佳菜子がずっと一番下ということはないんだよ。だからそれを自覚しなくちゃいけないし、変わるときが来るんだからね」
今季がまさにその変わるときだった。
NHK杯で犯した痛恨の規定違反
NHK杯のFSではジャンプの規定違反もありまさかの4位。目標だったGPファイナル行きも逃し、失意に沈んだ 【坂本清】
シリーズ初戦となった中国杯はロシア勢(エリザベータ・トゥクタミシェワ、ユリア・リプニツカヤ)の牙城を崩せず3位。それでも11月末のNHK杯で優勝すればGPファイナルへの道は開ける。そう希望を持って大会に臨んだ。
初日のショートプログラム(SP)は納得の出来だった。3位スタートだったものの、スタンディングオベーションが起こるほどの演技に思わずガッツポーズを作った。
「自己採点は80点。緊張はしましたが、目立ったミスもなく、気持ち良く滑ることができました」
だが一転、翌日のフリースケーティング(FS)では大きな失望を味わう。今季のルール改正で「あらゆる2回転ジャンプも2度まで」という規定が取り入れられた。もちろんそれは理解していた。しかし、演技中盤の3回転ループが2回転になってしまうと、後半に予定していた3回転サルコウ+2回転ループ+2回転ループの連続ジャンプでうまく対応できず、2回転ループが計3回となる規定違反を犯してしまった。本来であれば約10点を獲得できる連続ジャンプがまさかの0点。この痛すぎる失点により、GPファイナルはおろか、SPから順位を1つ落とし、村上は4位で大会を終えることになった。
「今まではGPファイナルに『行ければいいな』とか『行けなくてもいいや』というような感じだったんですけど、今回は本当に行きたかったのですごく悔しいです。でもこの悔しさが次につながると信じているので、全日本選手権ではちゃんとやりたいと思います」