千葉が密かに目指すオシム時代への回帰=J2漫遊記2013 ジェフユナイテッド千葉(前編)
「涙の国立」から10カ月が経って
ゴール裏で掲げられた「涙の国立を忘れるな」というゲームフラッグ。今季も千葉は厳しい戦いが続く 【宇都宮徹壱】
「涙の国立/忘れるな/2013」――「涙の国立」とは、昨年11月23日に行われたJ1昇格プレーオフ決勝のことである。この年から始まったプレーオフで、リーグ戦5位で出場権を得た千葉は、横浜FCとの初戦を4−0で圧勝したものの、6位で滑り込んだ大分トリニータとの決勝では、終始ゲームを支配しながらも得点を奪うことができず、土壇場にカウンターから元千葉の林丈統にゴールを決められ、これが決勝点となった。レギュレーションにより0−0の引き分けでも昇格が決まる、まさにあと一歩というところでJ1復帰の夢はものの見事に打ち砕かれたのである。
あれから早11カ月、千葉は今もJ2での苦しい戦いを強いられている。この日の敗戦で順位は4位と変わりはないが、2位ヴィッセル神戸との勝ち点差は13に開いた(編注:第37節終了時点で2位ガンバ大阪との勝ち点差は13)。残り9試合ということを考えれば、自力での自動昇格はかなり厳しくなったと見てよいだろう。
後半、ミスが重なった理由について、千葉の鈴木淳監督はこう語っている。「1−0という状況の中で『ミスをしたくない』という精神的なところが一番大きい。精神的なところというか、メンタル的なところで後れを取ったのが(ミスに)つながったのではないか」。確かに1点リードしてからの千葉は、どこかおどおどした、できるだけセーフティーにボールを運ぼうとするプレーが目立っていた。そこには明らかに、「今年こそJ1昇格」という見えない重圧がひしひしと感じられた。
とはいえJ2得点ランキング1位のケンペス、経験豊かな元日本代表の佐藤勇人、さらにはイタリア帰りの森本貴幸までそろえるチームが、メンタル面で相手に劣っていたというのは、やはり納得がいかない。普段は我慢強い千葉のサポーターが、珍しく激しいブーイングを選手たちに浴びせたのも、決して順位うんぬんの理由ばかりではなかったはずだ。試合後、サポーターの代表者が責任者との面会を求めたという。
ジェフ千葉をめぐる2つの疑問
戦力は十分に揃っている。環境も恵まれている。なのになぜ、千葉はJ2暮らしが続いているのか? 【宇都宮徹壱】
千葉というクラブについては、かねてより疑問に思っていたことが2つあった。疑問その1は、「なぜJ1に復帰できないのか」である。オリジナル10でJ2降格経験があるのは5クラブ。そのうち、1シーズンでのJ1復帰を果たせなかったのは、今のところ東京ヴェルディと千葉の2クラブのみである(現在J2のG大阪は、よほどのことがない限り2位以内でフィニッシュするだろう)。ただし東京Vの場合、読売グループの撤退が象徴するように、経営面での苦戦が色濃く影響していることは間違いない。だが千葉の場合、設立当初からの責任企業である古河電工とJR東日本のサポートは不動。しかも後者にいたっては「クラブが苦しい時ほど、手厚くサポートしてくれる」との証言もある。前述したとおり戦力も充実しているし、サッカー専用のスタジアムを持ち、しかも練習場とクラブハウスも隣接している。これほど恵まれた環境にありながら、なぜにJ2暮らしが長く続いているのか、ずっと不思議に思っていた。
そして疑問その2は、「なぜ出戻りが多いのか」である。現メンバーでいえば、山口智(前G大阪)、佐藤勇人(前京都)、谷澤達也(前FC東京)。過去にも、林、村井慎二(いずれも現大分)、坂本將貴、茶野隆行(いずれも引退)といった名前がすぐに思い浮かぶ。また、現在他のクラブでプレーしている選手の中にも、いずれは千葉でスパイクを脱ぎたいと考えていたり、元チームメートを通じて古巣の情報をチェックしたりしている選手も少なくないと聞く。彼らの中には当然、あまり良くない形でチームを離れた者も少なくないはずだ。にもかかわらず、千葉への望郷の念を募らせるのはなぜなのか。これまた、考えてみれば不思議な話である。今回、ジェフ千葉という多面的な要素を持つクラブを取材するにあたり、どうしても外せなかったのが、この2つの疑問であった。