ベガルタ仙台はJ1にいなきゃいけないクラブ ピッチで流した涙が郷家友太をさらに強くする
自分たちの未来を閉ざす笛が、冬の冷たい風を切り裂く。
ベガルタ仙台の郷家友太は、ピッチにゆっくりと座り込んだ。
12月7日に行なわれたJ1昇格プレーオフ決勝が終わると、中継と配信のカメラはクラブ史上初のJ1昇格を決めたファジアーノ岡山の選手たちを切り取った。そのカメラのフレームの外側で、郷家は天を仰ぐのでなく、両手で顔を覆うのでなく、バッタリと倒れ込むのでもなく、その場に座り込んだ。こみ上げる感情と静かに、しかし真正面から向き合っているようだった。
郷家友太はJ1昇格に向けて全力を尽くした photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る リーグ戦5位の岡山のホームに乗り込んだ6位の仙台は、勝たなければJ1に昇格できない。だが、岡山には今シーズンの対戦で連敗を喫している。J2へ降格した2022年以降の全6試合の成績でも、2分4敗と勝利がない。
GKスベンド・ブローダーセンを中心とした岡山は、リーグ2位でJ1に自動昇格した横浜FCに次いで失点が少ない。ブローダーセンのクリーンシートは、全38試合のうち20試合を数える。仙台も今季2試合で1点しか、しかもPKでしか得点できなかった。
勝たなければ昇格できないレギュレーションを考えても、先制点が大きな意味を持つ。追いかける展開は避けたい。
ところが、20分に失点してしまうのだ。
郷家は「そこまではまだ(想定の)範囲内だったので、焦りとかはなかった」と言う。チームにダメージを与えたのは、後半途中の61分に喫した2点目だ。
岡山の木山隆之監督が「あれで勝利を確信しました」と話したように、ハードワークと高い強度で局面を制する相手の堅守が際立っていく。仙台の森山佳郎監督は交代カードを切り、選手の立ち位置も変えて攻撃するが、相手の守備組織を決定的に崩せないまま終了の笛を聞いたのだった。
試合後の取材エリアで、郷家は最初にテレビカメラの前に立った。ゲームキャプテンを務めてきた25歳は、チームを代表する立場にある。
「守備時は5バックになる相手に対して、どこから入っていくかとか、練習とミーティングで作戦を練っていたんですけれど、うまくスペースを消されてしまって。クロスが入っても相手のほうがゴール前の枚数が多かったりとか、やっぱり苦戦したところはあります」
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著者プロフィール
戸塚 啓 (とつか・けい)
スポーツライター。 1968年生まれ、神奈川県出身。法政大学法学部卒。サッカー専
門誌記者を経てフリーに。サッカーワールドカップは1998年より 7大会連続取材。サッカーJ2大宮アルディージャオフィシャルライター、ラグビーリーグ ワン東芝ブレイブルーパス東京契約ライター。近著に『JFAの挑戦-コロナと戦う日本 サッカー』(小学館)