めったに映画を観ない日が続いているが、1月下旬にTV放映されていた『Les intranquilles』というのを観た。
なぜかというと躁欝病患者の家族がテーマということで、これまで、身近でもいろいろなケースを見てきたので関心があったからだ。日本では放映されていないようだが、2021年のカンヌ映画祭の出品作としてこういう記事があったので貼っておく。
「ザ・レストレス(英題) The Restless
ベルギーで脚本家や監督として活動するヨアヒム・ラフォス監督によるヒューマンドラマ。男性の双極性障害によって日常生活に支障をきたしているカップルが、自分たちはもとより、子供たちのためにも以前と変わらぬ生活を送ろうとする。世界三大映画祭のひとつ、第63回ベネチア国際映画祭で、イザベル・ユペール、ジェレミー&ヤニック・レニエ兄弟らが出演した『ニュ・プロプリエテ(原題) / Nuepropriete』でSIGNIS賞(カトリックメディア協議会賞)に輝いた監督がカンヌでも受賞を狙う。」
とあった。記事には「子供たち」とあるが実際は一人息子。一人っ子だからなおさら緊張が高まる。
この一人っ子を演じるのが、なんとイザベル・ユペールの8歳の孫なのだそうだ。こんな難しい役を演らされるなんて子役は大変だろうなと思ってみていたが、ユペールの孫ならなるほど、と思う。
Damien Bonnardetが演じる躁鬱病の父親は画家で、こういう職業でありそれを支えていた家族だからこそ、なんとか続くわけで、普通の会社勤めなどならとっくに家庭崩壊していただろう。
そう、絶望や怒りや不安やフラストレーションを繰り返しながら崩壊しそうでしないからこそ、タイトルにあるように休まることのない日常が続く。気分を安定させるリチウム剤などを毎日欠かさず服用しない限りは「完治」ということはないという。当事者自身が、それを受容しなくてはならないし、それが「人格」の根にどういう影響を与えるのかを意識できるのかどうかも分からない。
双極性障害の一例と家族の葛藤のドキュメンタリーを見ているようで救いがない。
個々のケースについて考える「参考になる」かもしれないけれど、この病とそれがもたらす負のインパクトがあまりにも強すぎる。子供を乗せて車に乗るというシーンが多いのではらはらして最後まで見てしまうが、映画なのだからそれなりの「昇華」が欲しかった。
興味深いと思ったのは、この映画が撮影されたのがコロナ禍の真っ最中で、マスク姿やマスクに関するコメントがセリフに出てくるところだ。ここは屋内だからマスクしなくてもいいとか家族だから必要ないとか、マスクが必要だとかという場面がある。
この時期に撮影されたたいていの映画は、俳優はマスクしなくてもOKだったので、コロナがテーマでない限り、長く通用させるためにも、欧米に突然現れた「マスク社会」を写さないのが普通だったけれど、この映画は、精神疾患を抱える上にコロナ禍という負荷がかかっていることも印象的だった。
コロナ禍の最中には、「体の健康=疫病対策」と「精神衛生」が切り離されることがほとんどだった。
フーコーの「生の権力」のことも思い出した。死なないことだけが「生」ではないし、心の問題抜きでは「生」を語れない。