日経ビジネス電子版 Special

ジェネレーティブAI × ゼロパーティデータが切り拓くチャットコマースの未来

サードパーティクッキー規制を契機にデジタルマーケティングが変わりつつある。現状と課題、そしてこれからのマーケティングのカギを握る最前線の技術やマーケティング戦略について、ZEALS(ジールス)CEOの清水正大氏とマッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナーであるジェフ・ガルビン氏が意見交換した。

サードパーティクッキー規制に伴う変化と代替手段が抱える課題

――まずはデジタルマーケティングを巡る世界的な動向や課題について整理していただけますか。

ジェフ ユーザーの購買行動はデジタルマーケティングにおいて重要な情報ですが、近年、個人情報がウェブ上でトラッキングされていることに対して、ユーザー側が懸念を抱いているという状況がありました。そうした流れを受けて、EUや米国で消費者のプライバシーを保護する法整備が進み、AppleやGoogleにおいても、サードパーティクッキーの収集を取りやめる発表がなされています。マーケターは、昨今の動向を受けて、従来の手法を見直さなければいけない局面となっているのが現状です。

マッキンゼー・アンド・カンパニー 東京オフィス
シニアパートナー
ジェフ・ガルビン
アジア地域において、ベンチャーキャピタル、スタートアップ、革新的な既存企業に対して、AI・アナリティクスやテクノロジー関連の支援を提供している。マッキンゼーでは17年以上にわたり、北米、中国、そして現在は日本を拠点として活動。以前はGoogle社でパートナーシップグループのAPAC地区ディレクターを務めた。

――サードパーティクッキー規制でマーケティング手法の変化を余儀なくされた結果、どのような動きが起きていますか。

ジェフ 従来、マーケティングはブランドからユーザーにメッセージを届けるものでしたが、今は直接的かつパーソナライズされたテクノロジーにより双方向に発信するものになっています。それに伴い、マーケターも様々なソリューションを検討しています。具体的には、自社で収集・管理したファーストパーティデータやユーザーが明示的にブランドに差し出すゼロパーティデータ、ジェネレーティブAIの活用などです。

清水 昨今、ファーストパーティデータの重要性は高まりを見せていると感じます。CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の活用なども進んでいますが、同時に課題もあるのではないでしょうか。それは、レコメンドされる体験の精度が必ずしも高くないという点。もう1つは、ファーストパーティデータも規制の対象になる可能性があるという点です。そういう意味でも、ユーザーの同意に基づきブランド側に提供されるゼロパーティデータは今後のデジタルマーケティングで重要なカギを握る存在になると考えています。

ZEALS
代表取締役 CEO
清水 正大
2014年、大学在学中にZEALSを設立し代表取締役に就任。16年、業界初となる「チャットコマース®」をリリース。18年、Forbesの「アジアを代表する30歳未満の30人の起業家」のエンタープライズ・テクノロジー部門にノミネートされる。22年5月、シリーズEで総額50億円の資金調達を経て、9月に米国法人を設立。同社のグローバル展開を主導。

体験精度を高め規制リスクの低いゼロパーティデータ

――ゼロパーティデータにはどのような特徴がありますか。また、ファーストパーティデータとどう違うのでしょうか。

ジェフ ゼロパーティデータとは、Forrester Research社によって提唱された用語で企業がユーザーの同意を得て直接収集した、クッキーに依存しないユーザーのインサイトデータのことを指します。ファーストパーティデータは企業が自社で収集・管理するデータではあるものの、ユーザーが積極的に提供したデータではありませんでした。

 これに対してゼロパーティデータは、ユーザー自身が企業にどう認識されたいかを重視している点がポイントです。同意の上で提供するデータであるため情報の精度も高まりますし、顧客理解にもつながるわけです。企業とユーザーが共有するデータと言ってもいいでしょう。

清水 加えて、ゼロパーティデータはユーザーの同意に基づくデータであることから規制対象にならない安全性の高いデータタイプだと言えます。また、ブランドはユーザーに対してゼロパーティデータを通じて、より深くパーソナライズされた体験を提供でき中長期にわたる関係性の構築が可能となります。とくに、会話による接客が可能な「チャットコマース®」を活用すれば、ゼロパーティデータの取得が推進されるだけでなく、マーケティングのパフォーマンスを大きく改善することができます。