組込ソフト部
ディレクター
稲垣 毅 氏
SDVは、クルマの機能を実現する車載ソフトウエアを更新することで、市場投入後にも進化し続ける。従来車は、開発時に機能・性能や安全性・信頼性を徹底的に作り込み、消費者に届ける際の新車状態が最大価値であった。一方でSDVは、消費者が購入した後でも価値が向上し続ける。新たなアプリケーションを導入することでの機能向上やパーソナライズ化が進む、スマートフォンにも似た性質を持つのがSDVである。
こうした従来車とは異質な商品特性を持つSDVを開発し、継続的にソフトウエア更新するためには、「自動車の開発体制を大きく刷新する必要があります。特に、従来車の開発で実績を持ち、ビッグビジネスを営む既存自動車業界にとって、極めて大きなチャレンジとなるでしょう」とベクター・ジャパンの稲垣毅氏は言う。
SDVでは開発環境刷新が必須
これまでの自動車開発は、量産を開始した時点で完了だった。ところがSDVでは、車載ソフトウエアの開発を製品投入後にも継続的に行うことになる。しかも、当初は想定していなかった機能を開発し、既に消費者が利用している車両に導入していく。SDV向け開発では、従来とは異なる以下のような開発環境が求められることを示唆している。
「まず、従来車の開発は、初期段階で実現すべき機能・性能を明確に定め、基本設計、詳細設計と段階的にクルマを具現化していく『ウォーターフォール型』でした。一方、SDVの開発形態は従来とは対照的に、市場投入後の利用状況や新たなニーズなどに応じて、求められる機能を逐次開発し、投入していく『アジャイル型』になります。その上で、走る・曲がる・止まるといったクルマの基本機能と安全性は、確実に作り込まなければなりません」（稲垣氏）
加えて、階層化した車載ソフトウエアの各層それぞれで異なるサイクルで開発を進めることになる。例えば、市場価値の維持に向けて、アプリケーション層を約2週間ごとに刷新するケースであれば、価値向上に向けた新機能の導入は、車載機構の動作条件や連携などを規定するサービス層を2カ月～半年に1度、さらに下層のOS層も年1度といった頻度で実施することになる。各層の開発を担当する部署・企業はそれぞれ異なることから、円滑な連携と共に、機能更新時の互換性の確保も必要になってくる。
