太陽系に「ホット・ジュピター」が存在しないのは太陽系の年齢が理由かもしれない
【▲ 図1: 典型的なホット・ジュピターの想像図。発見時は常識外れに見られていたホット・ジュピターですが、現在では発見そのものは珍しくないほどの多数派となっています。 (Image Credit: NASA, JPL-Caltech, R. Hurt) 】

恒星から極めて近い距離を公転する「ホット・ジュピター」は多数の恒星に存在することが分かっていますが、太陽はホット・ジュピターを持たない例外的な恒星の1つです。なぜ存在しないのでしょうか?

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宮﨑翔太氏と大阪大学の増田賢人氏の研究チームは、太陽のような年齢の古い恒星にはホット・ジュピターが少ない傾向にあることを突き止めました。これは太陽系にホット・ジュピターが存在しない理由となるとともに、太陽と似た恒星の中では、太陽系がそれほど少数派ではない可能性を示唆しています。

【▲ 図1: 典型的なホット・ジュピターの想像図。発見時は常識外れに見られていたホット・ジュピターですが、現在では発見そのものは珍しくないほどの多数派となっています。 (Image Credit: NASA, JPL-Caltech, R. Hurt) 】
【▲ 図1: 典型的なホット・ジュピターの想像図。発見時は常識外れに見られていたホット・ジュピターですが、現在では発見そのものは珍しくないほどの多数派となっています(Credit: NASA, JPL-Caltech, R. Hurt)】

■ “常識外れ” から多数派となった「ホット・ジュピター」

天文学史上初めて発見された、太陽以外の恒星の周囲を公転する「太陽系外惑星」は、1995年に発見された「ペガスス座51番星b」です (※) 。しかしその発見は驚くべきものでした。ペガスス座51番星bは木星と同じ巨大ガス惑星でありながら、その公転軌道の半径は水星よりもはるかに短く、数日周期で公転していたからです。中心に位置する恒星「ペガスス座51番星」は太陽とよく似た恒星であるにも関わらず、ペガスス座51番星bの性質は太陽系のどの天体にも当てはまらない “常識外れ” です。このため、当初は発見そのものを疑う声すらも珍しくありませんでした。

※…天文学史上初めて発見された太陽系外惑星は、1992年に発見されたPSR B1257+12の周囲を公転する3つの惑星ですが、これらはパルサーという恒星以外の天体を公転しています。また、ケフェウス座ガンマ星Abは1988年に存在が示唆されていたものの、正式に発見が認められたのは2002年になってからです。

しかし、その後の観測でペガスス座51番星bのような巨大ガス惑星が多数発見されたことで、このようなタイプの惑星は珍しくないことが分かりました。このような高温の巨大ガス惑星は、今日では “熱い木星” を意味する「ホット・ジュピター」と呼んでいます。この発見は天文学史における重大な発見に位置づけられており、ペガスス座51番星bの発見者であるミシェル・マイヨール氏とディディエ・ケロー氏には2019年にノーベル物理学賞が授与されています。

時代が進むにつれホット・ジュピターの発見数は増えていき、もはやホット・ジュピターは常識外れどころか太陽系外惑星の多数派となっています。この状況から、ホット・ジュピターは真に多数派の惑星系であり、太陽系のような惑星系こそが常識外れの少数派なのではないか、という疑問が生まれました。

この疑問に回答するには、「観測バイアス」という疑問を解決しなければならないため、一般的に困難です。太陽系外惑星を発見するには、一般的に恒星の明るさや光の波長の変化から、惑星の影響を間接的に捉えることで行われます。ホット・ジュピターは直径も質量も大きく、恒星に及ぼす影響も大きいため、小さな惑星と比べて観測が容易です。また、恒星の影響が惑星であると証明するには、公転に伴う周期的な変化であることを説明する必要がありますが、公転周期が数日以下のホット・ジュピターは短い観測期間でも発見することができます。これらのバイアスから、ホット・ジュピターは他の惑星と比べて発見しやすいため、どうしても報告数は多くなる傾向があります。

これに対し、太陽系の巨大ガス惑星は公転周期が10年以上あります。太陽に最も影響を及ぼす惑星は木星ですが、公転周期は約12年であるため、最低でも12年分のデータが必要となり、周期的であることを証明するにはその2倍以上の期間がないと確実ではないでしょう。また、木星は太陽から遠くにある分だけ、木星が太陽に及ぼす影響はホット・ジュピターと比べてずっと小さくなります。仮に近くに太陽系と全く同一の惑星系があったとしても、私たちの現在の技術では発見できないかもしれません。

■太陽系にホット・ジュピターがない理由が判明

一方で、ホット・ジュピターが見つかっている恒星のほとんどは、太陽よりずっと軽い恒星である「赤色矮星」の周りで見つかっています。軽い恒星ほど宇宙全体での数が多い傾向にあるため、ホット・ジュピターが多いことについても観測バイアスで説明できるかもしれません。しかしながら、太陽と同じくらいの重さの恒星の周りではホット・ジュピターの発見数がかなり少ないことも分かっています。これも観測バイアスだけで説明できるのでしょうか?

宮﨑氏と増田氏の研究は、観測バイアスだけでは説明できないと主張しています。研究チームは「カリフォルニア・レガシー・サーベイ(California Legacy Survey)」のデータから、太陽に似た恒星382個の分光データを抽出・分析しました。分光データからは、惑星がどの程度できやすいかの目安となる金属量に加え、年齢を推定することができます。382個の恒星のうち、46個には惑星が見つかっています。研究チームは公転周期が1日~10日のホット・ジュピターと、公転周期が1年~10年のコールド・ジュピターに分けることで、何か傾向がないかを分析しました。この分類では木星はコールド・ジュピターに分類されます。

その結果、太陽に似た恒星の周囲を公転するホット・ジュピターは、コールド・ジュピターと比べて数そのものが少ないことが明らかにされました。これは赤色矮星とは逆の傾向です。これに加えて、ホット・ジュピターを持つ恒星は、持たない恒星と比べて年齢が若い傾向にあることにも気づきました。

【▲ 図2: ホット・ジュピター (赤色) とコールド・ジュピター (青色) それぞれの、時間経過による惑星の存在数を予測したモデル。誕生から60億年後 (6Gyr) 、ホット・ジュピターの存在数は急激に減少することが分かります。存在数は対数グラフであることに注意してください。 (Image Credit: Miyazaki & Masuda) 】
【▲ 図2: ホット・ジュピター (赤色) とコールド・ジュピター (青色) それぞれの、時間経過による惑星の存在数を予測したモデル。誕生から60億年後 (6Gyr) 、ホット・ジュピターの存在数は急激に減少することが分かります。存在数は対数グラフであることに注意してください(Credit: Miyazaki & Masuda)】

そこで今度は、ホット・ジュピターを持つ太陽に似た恒星について、長期的な軌道の安定性を測るベイズ推定モデルを構築し、時間経過とともにホット・ジュピターを持つ確率を計算しました。その結果、恒星の誕生から約60億年経過すると、ホット・ジュピターの数は減少することが分かりました。太陽程度の質量の恒星の場合、60億年というのはちょうど寿命の中間くらいです。このことから、太陽に似た恒星ではコールド・ジュピターは何十億年も存在できる一方で、ホット・ジュピターの軌道は不安定であり、数十億年経つと恒星に飲み込まれて消滅してしまうことが明らかにされました。

このことから、太陽と似た恒星では、ホット・ジュピターは時間が経過するほど少数派になることが分かります。太陽は誕生から約46億年経過しており、最近になってホット・ジュピターが消滅した証拠も見つかっていません。このことから、太陽系は元々ホット・ジュピターが存在しなかったか、太陽系形成後のかなり早い段階で消滅したかのどちらかである可能性が高いと考えられます。これが、現在の太陽系にホット・ジュピターが存在しない理由となります。

■太陽系は思ったほど少数派ではないかもしれない

太陽と似た恒星は宇宙全体から見れば少数派であることから、今回の研究とは関係なく、宇宙全体から見れば太陽系は少数派であることに間違いはありません。しかし今回の研究からは、少なくとも太陽と似た恒星においては、太陽系のような惑星系は少数派ではない可能性が示唆されます。

太陽系が真に少数派であるかどうかは、これからの観測で太陽系外惑星の発見数が増えなければ解決しない問題です。太陽系外惑星という研究分野は約30年とまだまだ歴史の浅い天文学の分野であるため、疑問の解決にはもう少し時間が必要でしょう。

 

Source

文/彩恵りり