天狗になってしまったとき、自分自身をどう抑えるのか?
ライター業に留まらず、さまざまな事業に取り組んでいるトイアンナさん。
マーケティング講座や「食べていくこと」に主眼を置いたライター講座、就活セミナーなどをおこなっています。
そんなトイアンナさんがPAX株式会社を創業したのは2017年。今年で5年目を迎えました。
トイアンナさんが個人事業主から法人成りして感じたメリット・デメリットについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
PAX株式会社代表/ライター
外資系企業のマーケティング職として約6年間勤務し、フリーライターとして独立。恋愛とキャリアを中心に執筆しており、書籍に『モテたいわけではないのだが(イースト・プレス)』『確実内定(KADOKAWA)』『やっぱり結婚しなきゃ!と思ったら読む本(河出書房新社)』など。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
個人事業主からの法人成り
大久保:トイアンナさんは、個人事業主を経て会社を創業されていますよね。さまざまなジャンルの本を出版されていますし、マーケティング講座も運営しています。
ご自身のことは、どのように自己紹介していますか?
トイアンナ:自己紹介するときはライターと名乗ることが多いです。
ただ、ライターの派生でご依頼いただいた媒体さんのマーケティングを担当したり、企画を考えたりもしています。独立直後は個人事業主として活動していましたが、2017年に法人成りしました。
大久保:会社員時代にはじめたブログがきっかけで独立されていますね。ブログは書き溜めていたのでしょうか?
トイアンナ:いえ、思いついた日に書いています。でも日常からネタ帳にメモをしていますね。お風呂場や、歩いているときにもメモをとるようにしています。これは太宰治が実践していたと知ってからマネするようになりました。
大久保:エッジの効いた言葉が並んでいますね。
トイアンナ:面白い統計データを見たときにメモを取って、執筆のご依頼をいただいたときに活かしています。
どこにも行き場がないものは、自分のブログに書いています。
大久保:ブログがきっかけでお仕事につながるようになったのは、いつ頃でしょうか?
トイアンナ:会社員時代に書いたブログ記事がきっかけで、執筆の依頼をいただくようになりました。
ただ、当時の会社には副業禁止規定がありましたので、報酬をいただかない形でおこなっていました。
法人化して感じたメリット
大久保:個人事業主から法人成りして、よかったことはありますか?
トイアンナ:まず、節税効果があります。これが一番大きいです。
私の仕事でいうと、恋愛相談をヒアリングしたときのお食事代やリサーチの場所代が、経費として計上できます。
賃貸物件を借りやすいのも重要なポイントです。フリーランスの場合、しっかりと収入があっても社会的信用の観点から、なかなか良い物件を借りられないケースがあります。
法人成りしたことで、生活の質が上がったと実感しています。
大久保:法人成りしていれば、企業とも仕事がしやすくなりますよね。
トイアンナ:おっしゃる通りです。法人として何年も活動していれば信用が増して、大企業とも仕事できます。チームを組んで仕事しやすくなるんです。
フリーランス同士でチームを組んで仕事をすることも可能ですが、ゆるくなりやすいという欠点があります。実際、フリーランス時代にチームを組んで仕事をしていた方が、突然音信不通になってしまって困ったこともありました。
大久保:結構よく聞くトラブルですね。
トイアンナ:法人であれば、そうしたトラブルを回避しやすくなります。
たとえば記事の企画から執筆までを弊社に委託していただいた場合、法人として受ければ1人のフリーランスの方が音信不通になってもほかの方にお願いできます。そうすれば、納期に間に合います。
これがフリーランス同士のチームだと、「○○さん、連絡取れなくなっちゃったけど、どうしましょうかね」と責任の所在が曖昧になってしまうんです。関係性がフォーマルになったと感じています。
大久保:フリーランス同士のチームだと、誰が責任を持って取り組んでくれるのかがわからないので、依頼する側としても不安を感じるかもしれません。
トイアンナ:そうですよね。以前は21世紀型の組織として、フリーランス同士が集まるギルド型組織のほうが理想だと思っていました。
試してみたところ、ちょっとうまく回らなかったので、法人として弊社が責任を持つようにしています。
そのうえで、ライターさんには「こちらでしっかりと編集をしますから、自分の好きなように書いてください」と伝えています。
大久保:ほかに法人成りして良かったことがあれば教えてください。
トイアンナ:融資が受けやすくなりました。
たとえば今後、アプリを開発したいとかオウンドメディアを自社で作りたいと考えた際に、個人より会社としてのほうが融資は受けやすいです。
もし初期投資が必要な事業をしようと考えているなら、融資が受けやすい法人成りは非常に大きい選択肢だと思います。
「採用する側」が気をつけておくべきこと
大久保:トイアンナさんは『確実内定』という、就職活動をしている方向けの本を出版されています。
この記事を読んでくれる方は起業家が多いので、採用する側の立場となります。採用する側が気をつけておいたほうがいいことはありますか?
トイアンナ:まず社長は、自分が教祖型になるか否かを決めたほうがいいです。
自分の信者を集めた会社にするのか、そうではない会社にするのか。カリスマ性があり、自分についてきてくれる人が多く、それを自分が心地よいと感じるのであれば教祖型の会社を作ったほうがうまくいくと思います。
大久保:そういう会社もありますね。
トイアンナ:もう一方で、ドライな会社にしたほうがうまくいく社長もいます。
私はこちらのタイプです。面接の際に、私のファンの方は不採用にしました。
深入りしすぎずに力を発揮してくれる方と一緒に仕事しています。
大久保:感情ではなく、システムで会社を回すイメージですね。
創業するまでの苦労
大久保:会社を創業するまでに苦労したことがあれば教えてください。
トイアンナ:ステップごとの苦労がありました。
まず、会社員時代の苦労です。会社員は、どうしても組織に自分の運命を委ねなくてはいけない部分があります。
私は外資企業で働いていたので、日本企業に比べると運命共同体度合いは低かったです。それでも会社から出社命令が出たら出社しますし、週末に接待ゴルフをしたこともあります。
そういった会社組織ならではのしがらみが苦痛な人にとっては耐えがたいと思います。
大久保:個人事業主時代はいかがでしたか?
トイアンナ:会社員時代と比べて、かなり自由度は高かったです。
ただ一方で、天狗になってしまっていました。誰からもお叱りをいただけなくなってしまうので、まるで自分がものすごく才能のある、今をときめくライターのように誤解してしまいます。
あるとき、自分で天狗になっていると気づくんですね。気づくんですけど、止められない恐怖を初めて味わいました。自分の増長を自分で抑えることに苦労しました。
大久保:そのときにどうやって自分の増長を抑えたのでしょうか?
トイアンナ:あえて全然違う分野の記事を書かせていただきました。
違う分野だとわからないことが多いので、それを他人に教えてもらうことで自分の増長を抑えられたんです。
大久保:なるほど。他人に教えを請うことで、自分にはまだまだ知らないことがあると認識するんですね。
創業してからの苦労
大久保:創業するまでの苦労についてお話しいただきましたが、創業してからはどのような苦労がありましたか?
トイアンナ:納税です。これは今でも苦労していますね。
税額もですが、納めるまでの煩雑さに苦労しています。しっかり納税したいのに、気を抜くと滞納してしまいます。
滞納したくないので、税務署さんや年金事務所さんに「私、何か滞納していませんか? しっかり納めたいんです」とよく電話しているんです。
大久保:税理士にはお願いしていないのでしょうか?
トイアンナ:税理士の方にお願いしています。そのおかげで7割は解決できるのですが、それでも漏れてしまうんです。
たとえば転居した場合に前の住所に支払調書が来ていて、それに気づかないだけで滞納になってしまいます。そういったシビアさは個人の比ではありません。
個人ですと滞納してしまっても何度も連絡をくれますが、法人は1か月遅れたらもう滞納になってしまいます。
自分自身の人間としてのポンコツさを味わっています。
大久保:会社員として会社に所属しているとなかなか気づかないですが、経理部や人事部といった事務をしてくれている方のありがたさを感じますよね。
現在はうまくいっているように思うのですが、何か課題はありますか?
トイアンナ:「トイアンナ」という個人に対してお仕事をご依頼いただくことが多いので、最終的にはトイアンナがすべてやってくれるといった期待値があります。
それだと仕事の幅が広がらないので、会社として機能する組織にしていきたいです。
仮に私が倒れても、しっかりとお約束したものが届けられる組織づくりをしなければと考えています。
女性起業家に多い、住所が公開される悩みの解決法
大久保:女性起業家ならではの悩みはありますか?
トイアンナ:法人になって一番感じたデメリットは、個人の住所が公開されることです。
代表取締役は登記の際に住所を書かなくてはいけないので、それによって住所がわかってしまいます。
住所が知られると、たとえばストーキング被害にあったり、何らかの事件に巻き込まれてしまう可能性もありますよね。女性起業家で悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
大久保:以前に弁護士から住民票を会社に移す方法も可能な場合もある、と教えてもらったことがあります。
民法では「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と規定がありますが、起業家の場合はほとんどを会社で過ごしているので、通る場合もあります。
悩まれている女性起業家の方は、事前に弁護士に相談してみてください。
後編に続く
(取材協力:
株式会社PAX 代表トイアンナ)
(編集: 創業手帳編集部)