チケミー 宮下 大佑|日本初のNFTチケットプラットフォームで、あらゆるものの価値を流通させたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年02月に行われた取材時点のものです。

多数決や話し合いでは決めない。業界トップを目指す学生起業家が組織に求めるものとは


次世代の技術として、利用が広がっているNFT(Non-Fungible Token「非代替トークン」)。NFTはブロックチェーン技術を利用して、デジタルコンテンツなどの知的財産を、偽造や改ざんができない形で流通させることができます。日本でも大手企業が次々と参入し、市場規模の拡大が期待されています。

こうした中、日本初のNFTチケット販売プラットフォームを立ち上げ、大きな注目を浴びているスタートアップが株式会社チケミーです。早稲田大学在学中に同社を2022年に起業し、代表取締役CEOを務める宮下大佑さんは「将来的にはあらゆる権利をNFTチケットで流通させていきたい」と語ります。

今回は宮下さんが起業したきっかけや今後のNFTの可能性、起業家に向けたアドバイスなどを、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

宮下 大佑(みやした だいすけ)
株式会社チケミー代表取締役CEO
石川県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学と同時に、アパレルを扱うECサイトを起業。その後EC事業を売却したのち、独立系VCのイーストベンチャー社でリサーチ業務に従事。2022年6月、日本初となるNFTチケット販売プラットフォーム「Ticket Me(チケミー)」を提供する株式会社チケミーを設立、代表取締役CEOに就任。
NFTチケットプラットフォーム「Ticket Me(チケミー)」

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ひとりでECサイトを立ち上げたところ、組織の大きな問題に気づかされた


大久保:早稲田大学の政治経済学部に在籍中なんですね。起業に至ったいきさつをお伺いできますか?

宮下:正直、自分が社長になるとは思っていませんでした。高校生の頃は理系で建築家を目指していましたが、第一志望の大学に落ちてしまいまして。結果、文系の早稲田大学の政経に入りました。

今は大学を楽しいと思っていますが、入学当時はあまり勉強に興味を持てず、1週間くらい不登校になったこともありました。その後、大学2年生の途中くらいまでは面白そうな授業だけ受けるような感じでした。

そんな中、自分でB級品のアパレルを販売するECサイトを作ってビジネスを始めてみたんです。B級品とは、ほつれのある服やショップで売れ残ってしまった在庫のことで、そういう服をまとめて預かって自分で販売しました。

大久保:ECサイトを始めてみて、売り上げはいかがでしたか?

宮下:僕の想定よりは売れたという感じですね。今思えば、それほど大きな金額ではありませんでしたが、ひとりでやった割には売れたと思います。

大久保:私もかつてECのシステムを作るGMOメイクショップという会社にいたのでわかるのですが、ECはお金の流れや物の流れ、マーケティングなどを一通り経験できるので、学べることは多かったのではないでしょうか?

宮下:本当にそう思います。当時いくつかの気づきがあったのですが、その中で仕事量と成果が正比例するゴール設計をすることが重要だとすごく感じました。

僕が最初にアパレルのECサイトを始めた時、インスタグラム経由で人が入ってくるようになったんです。そこでインスタを頑張って注文も増えてきたのですが、一方でその分、配送業務も増えていきました。

当時は全部ひとりでやっていたので、売れれば売れるほど仕事が増えていく感じでした。そうなるとどんどん疲れてきて、最終的にモチベーションを失ってしまったんです。結局そのEC事業は手放すことになりました。

その時、「たくさん販売する」と「お客さんのもとにできるだけ早く届ける」という2つのゴールを、ひとりに託してしまうことが問題だと思いました。時間は有限なので、それぞれの時間の取り合いになってしまっていたんですよね。これを解決するには、組織を作る上でタスクの分解と割り当てが必要だなと気づきました。

大久保:その若さにして、そこにたどり着いたのは素晴らしいですね。確かに月商は高くて忙しいけれど、利益は上がっていないという方もいますから。

宮下:結局同じタスクにインセンティブとディスインセンティブが相反した状態で混ざっていると、できるだけ仕事をしないようにしよう、という考えになってしまうんですよね。

例えば案件を取ってくる営業部がその後の事務作業もやってしまうと、仕事をしなくなる組織になってしまいます。ゴールやKPIごとにタスクを割り当て、ひとりに1つのタスクだけ任せる。これが重要だと気づきました。

大久保:会社員は一般的に仕事をしなければいけないと思い込んでいるので、その気づきは見落としがちですね。わかってはいるけど仕方がないという感じで。宮下さんはそういう先入観を持たずに仕事に向き合うところが、すごく新鮮に感じます。

ブロックチェーンに関心を持ったことが、NFTチケットのプラットフォームにつながった


大久保:EC事業を売却した後、どうされたのでしょうか?

宮下:ECに興味が出たので、イーストベンチャーズというベンチャーキャピタルで、約半年間リサーチャーとして働きました。その中で流通の事業を見て、ブロックチェーンに関心を持ったんです。これがチケミーにつながっています。

ちょっとブロックチェーンと流通について説明させていただきます。情報の流動性という意味では、インターネットによって、大きく変わりましたよね。例えば私がブログを書くと、世界中のどこにいる人でも一瞬でアクセスできます。これまで手紙など物理的な方法に制約されていましたが、インターネットによって一瞬で情報が伝わるようになったわけです。インターネットにはWorld Wide Webという規格化されたプロトコルがあるからです。

物の流動性という意味では、物流にはコンテナという規格があります。物を運ぶ時に、トマトでも車でも何でもコンテナに詰めて、船や電車に載せることができる。だから流動性が高まったわけです。

一方でブロックチェーンが何の流動性を高めるかというと、物の所有権とかサービスの利用権だと思うんです。僕はそういう権利の部分だけを切り離して、流通に特化した規格を作りたいと考えました。そこで共通の所有権や利用権をNFTチケットとして取り扱うプラットフォームを立ち上げたんです。

大久保:チケットというとライブやスポーツ観戦のチケットをイメージしがちですが、もっと広い概念というわけですね。

宮下:そうですね。証券に近いかもしれません。将来的には、あらゆる権利を流通させることができると考えています。

とはいえチケミーとしては、今のところイベントチケットの販売を着実にやっていく方向です。最近では、ホリプロさんなど演劇業界のクライアント様に関心を持っていただいていて、舞台関連のチケットを取り扱っています。今後は音楽業界などにも広げていきたいと考えています。将来的にはチケット業界のトップを目指していきたいですね。

大久保:ブロックチェーンに興味を持ったことがチケミーにつながったということですが、最近他に注目していることや面白いと感じたことはありますか?

宮下:やはり仮想空間やAIですね。「Apple Vision Pro」(※編集部注:アップル初のゴーグル型端末)が出たことによって、これからまた大きな変化があると思います。

今まではモビリティが重視されてきましたが、今後は家の中でどう過ごすかが重要になってくるのではないかなと思います。皆さんもそうだと思いますが、最初チャットGPTが出た時、本当に人間としての尊厳を失われたような気持ちになって、これからどう生きていけばいいんだろうと思ったんです。そのくらいAIには衝撃を受けました。

多数決や話し合いをやめたことで、組織がうまく回ってきた


大久保:最初おひとりでECサイトを立ち上げた時、組織運営について気づきがあったと伺いました。チケミーはECと異なるビジネスですので、また違った気づきがあったのではないでしょうか?

宮下:そうですね。ECの時はひとりでしたが今は複数のメンバーで運営していますので、意思決定をするところで、最近大きな気づきがありました。

多数決をすること、話し合うこと、合意を必要とすること。この3つは意思決定でやってはいけないということに気づきました。話し合いや議論をする代わりに、ひとりの責任者がステークホルダーからヒアリングをして意思決定すべきなんです。

なぜかというと、2人で議論するなら1対1ですから、意見が食い違っても話し合えるのですが、3人になった瞬間、1対1を3回しなければならなくなります。人数が増えるほど掛け算になるので、組織が大きくなればなるほど意思決定に時間がかかります。つまりコミュニケーションコストがかかりすぎてしまうわけです。

でも責任者を決めてステークホルダーにヒアリングするなら、確実に1対1だけです。チケミー社内では、何か課題が出てくると、ちょっとしたことでも必ず責任者を決めることにしています。

例えばある要件を入れるか入れないかを決める時も、責任者が全てに責任を持ち、技術部や営業部にヒアリングしていく形です。チケミーはまだそれほど大きな組織ではありませんが、この形にしたことですごくコミュニケーションコストが下がりました。

大久保:確かに、言われてみればそうですね。みんなで議論すると尖った人の意見ではなく、最も保守的な人の意見に引っ張られやすいということもありますから。

宮下:そうですね。この形に行きついたのは、ケネス・J・アローというノーベル賞を取った経済学者の「組織の限界」という本を読んだからなんです。ちょっと難しい言葉ですが、この本では「満場一致性と二項独立性の条件をともにみたす社会的決定の制度は、独裁制だけである」と言っています。二項独立性というのは、AとBのどちらがいいか決める時、Cという別の選択肢で判断に影響を与えてはいけないということです。

つまり簡潔で明快な意思決定は、独裁者の意見に常に従う独裁制、またはその逆で独裁者と常に反対のことをする非独裁制、どちらかしかないわけです。この本を読んで、なるほどなと感じました。

結局は合意を形成するのではなく、全責任を持って決めきれる人がひとりいればいいということに気づきました。

起業時の自分に「最初からバックオフィスにお金をかけよう」と伝えたい


大久保:私がライブドアやGMOメイクショップにいた当時、ポイントが流行っていた時期でした。ポイントは実際に5割程度しか利用されないため、退蔵益(※)になるんですよね。チケミーはチケット流通が主な収益源だと思いますが、退蔵益についても考えているのでしょうか?

※退蔵益とは、金券やクーポンなどを前払いで購入した顧客が、権利を使わないことで事業者に発生する利益のこと。

宮下:おっしゃる通りです。チケミーのマネタイズポイントは、今はチケット料ですが、将来的にはさらに3つ考えています。その1つが退蔵益ですね。二次流通を売却したお金をお客様が全て出金するかというとそうではなく、しばらくそのままにしておくことも多いはずです。その部分が退蔵益になると考えています。

2つめは、預り金の運用です。僕らは全て先物を扱っていますので、実際にお金が支払われてから、販売者へお金を入金するまで預り金が発生します。現状は月間流通金額の3倍ほどの預り金があります。これは僕らのキャッシュになりますので、運用していけるかなと思っています。

3つめはファクタリングで、早く出金したいお客様から手数料をいただくという形です。

大久保:一般的な事業では、先に投資して後からキャッシュが入ってくるので、資金調達が必要です。でもチケミーは先にキャッシュが入ってくるため、事業が大きくなるほどキャッシュで資金調達ができるわけですね。こういう資金調達の手法があるというのは、他のスタートアップにとってもヒントになりそうです。

宮下:確かに前月より翌月の預り金が増えたら、その分は僕らが使える部分になります。銀行の融資とはまた違う形の資金調達ですね。いろいろな資金調達の手段があって、それをハックする。それこそ、支払いをちょっと後ろにずらすみたいなハックも考えていくべきかもしれません。

大久保:なるほど。最後に起業家の方に向けて、起業の時にこうしたほうがいいよというアドバイスがあれば教えていただけますか?

宮下経理や税務、労務などのバックオフィス業務は、最初から会計士や税理士などの専門家に頼った方がいいと思います。もちろんそういう方に依頼すると、コストはかかります。月数万円程度かもしれませんが、スタートアップにとってはちょっと高く感じますよね。

ただ最初にそういう仕組みを入れておかないと、後で大変な目に遭う可能性もあります。結局やらなければいけないことが増えてしまうんです。

大久保:起業家の方の中には、バックオフィスの仕事が苦手という方も割と多いですからね。

宮下:そうなんです。細かい仕事が得意な人は、自分でやってもいいと思います。ただ結局は、後々必要になってくるはずです。

スタートアップは自分たちの独自性を出すことに集中するためにも、最初からバックオフィスは強化しておいたほうが絶対いい。家族に借金してでも、そこにお金をかけておくことをおすすめします。僕が起業したのは1年半前ですが、起業当時の自分にそう言いたいですね。

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(取材協力: 株式会社チケミー 代表取締役CEO 宮下 大佑
(編集: 創業手帳編集部)



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