コロナ直撃業種でも社員増!次々新手を繰り出す女性起業家の発想を取材
新型コロナウイルスの感染拡大により、二度も緊急事態宣言が出され、多くの企業やお店が影響を受けています。メディアでは、飲食店や宿泊施設についてクローズアップされていますが、一方で市場がほぼ消滅してしまったのが「お祭り」「イベント」業界です。
そのような状況下で、リストラどころか社員が増え続け、組織が成長しているお祭り専門のスタートアップがあります。全国のお祭り5000件もの登録データをもつ「オマツリジャパン」。コロナ禍でも次々と新しいことに取り組み、お祭りの集客を支援しています。今回は、創業手帳代表の大久保が、オマツリジャパンの加藤優子社長に、お祭りにかける思いや取り組みについて聞きました。
1987年生まれ。練馬区出身。武蔵野美術⼤学油絵科卒業後、漬物メーカーに⼊社。商品開発とデザインを担当。
東日本大震災直後の⻘森ねぶた祭に⾏った際、地元の⼈が⼼の底から楽しんでいる様⼦を⾒てお祭りの持つ⼒に気づく。同時に多くのお祭りが課題を抱えていることを知り、全国のお祭りを多面的にサポートする会社「株式会社オマツリジャパン」を創業。2児の母。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
コロナで仕事は激減。それでもあきらめないから仕事が来る
大久保:お祭り専門スタートアップの「オマツリジャパン」がどうしているのか、気になっていました。お祭りのスタートアップというだけでも気になっているのに、全国各地でお祭りがなくなっちゃているでしょう?それなのに、オマツリジャパンがいろいろとしかけている。それが気になっていました。
加藤:「オマツリジャパン」は、日本にたくさんあるお祭りの集客を支援するポータルの運営やコンサルをしている会社です。スタートアップでは珍しいテーマです。
コロナ禍でお祭りがほぼなくなって、特に昨年の5月6月は仕事がなにもない。その後、Goto事業にシフトしましたが、それもなくなってしまって。でも、なぜか社員も増えていて、仕事もあって、テレビに取り上げられたりしています。
例えば、お祭りのノウハウを活かして、日本青年会議所さんと協力して、イベントの指針を作るような仕事もしています。
このような状況下で、ちょっとしたお祭りをやりたい時に、どうしたら良いのかといったガイドラインを作っています。実施する場合は三密をさけて、「叫ばない・大声を出さない・飲食を避ける」などの感染症対策を徹底する。また、オンラインで開催する場合はどうするかといった情報提供もしています。ワクチンができるまで頑張ってお祭りの火を絶やさないようにしたいです。
「神輿は1回下ろすと上がらない」だから続ける支援をしたい
大久保:でも、さすがにこの状況でお祭りは難しいですよね!?
加藤:リアルで難しければ、オンラインでのお祭りという考え方もあります。大切なことは、今できるスタイルでやる、再開に向けて人のつながりをキープするということです。
「オンライン夏祭り2020」はテレビにも取り上げられました。どのメディアも、コロナ禍で暗い話題ばかりですよね。そういう中で明るい話題を提供できたから、メディアが取り上げてくれたのかなと思います。
お祭りは意外と経済効果が大きくて、例えば青森のねぶただと、「ねぶた」自体を作って生計を立てている人もいるわけです。ねぶただと300億円ぐらいの波及効果がある。
大久保:お祭りの時は、そういう「お祭り経済圏」の書き入れ時なのに、それができないというのは大きいですね。1回やめてしまうと、再開のためのマニュアルとかも、よほどの大規模なところ以外はなさそうですしね。
加藤:そう。そこで細かいノウハウや人のつながりなどが切れてしまうんです。
お祭りの運営者の主体が高齢化していると、諦めてしまうこともあります。この機会にやめようかと。でも、そこに若い人が入ると、あきらめない。いろいろなやり方を考えるのが若さの強みかもしれません。ただ、現場に若い人はなかなかいないので、若いオマツリジャパンスタッフがお手伝いもしています。動いているところは大変だけれども、存続していきます。
お祭りは、中断すると復活する時に困るんです。例えば、寄付や参加費などのお金や、運営の人集め。お神輿の修繕もあります。毎年やっていればまわっていて続くものが、止まってしまう。維持費がかかるのでやめてしまうとか。ノウハウについて、横のつながりがないということもあります。
よく言われるのですが、お祭りというのは「神輿は1回下ろすと上がらない」、だから続ける支援をしたい。火を絶やさないことが大事だと思います。
お祭り・イベントの広報は社会貢献性も大切。
大久保:人を集める広報も大事?
加藤:はい、そうですね。例えば、映画ならばメディアでニュースが出ますよね。宣伝をしたり、広報をしたり。それでこの映画のおもしろさとかを知ってもらえる。
お祭りは基本的には無料。ここが大きな違いです。
広報や宣伝もできなくはありませんが、お金はあまりかけられない。だから、知っていれば行きたかった人も、情報がないのでお祭りに行けない、ということが起こる。お祭りに参加するのは、近所を歩いていたらたまたまやっていた、みたいなパターンが多いのです。情報があれば、お祭りの運営者にも、参加者にもいいですよね。
オマツリジャパンでも広報には力を入れています。やはり、記者に伝わるコツとしては、社会貢献性を出すことだと思います。広報は記者の思いがあって書くもので、宣伝じゃないので、そのあたりは大事です。一方でこちらの思いだけでも駄目で、メディアのニーズもある。その文脈にうまくハマるかどうかです。だから広報って営業の要素もあるんです。場合によってはどういう記事がほしいですか、と聞くこともコツですね。
意外に大きい?日本全体で1.4兆円のお祭り市場
大久保:お祭りは産業になっていないから、お金や情報が動かしにくい。存続にも影響が出るわけですね。
加藤:オマツリジャパンは、もともと金儲けから始まっているわけではなくて、お祭りに興味のある若者たちのお手伝いから始まったわけです。私たち若者が運営に関わって、告知や広報、初心者がどう楽しめるかなどのアドバイスをしています。
あとは、お祭りの情報を伝えるポータルサイトを運営しています。3000件のお祭りの登録や、2000件のお祭り記事が掲載されています。
大久保:3000件もあるの!?
加藤:日本のお祭りは、全部で30万件くらいあるんです。小さいところの情報がないだけで、そういう登録を増やしたい。市場規模では、1.4兆円ぐらいあると言われています。
コロナ禍に社員がむしろ増え退職者もゼロ。諦めなければ続けられる
大久保:この機会に社員が増えている?
加藤:今、スタッフは15名くらいですが、むしろコロナ前より増えています。いろいろと大変ですが、あきらめなければ会社は続くんです。上場で儲けるのではなく、お祭りを応援するという意味で投資してくれる株主様もいて。
大久保:コミュニティのイベントで、みんなでお金を出し合う的な発想は、もともと昔の日本にもありましたよね。それが株式会社で資本の論理になったけど、一周まわって戻ってきた感じですね。では、お祭りとは何でしょうか?
加藤:お祭りにはいろいろな面があります。伝統文化ということ以外にストレス発散という面があります。それから地元の人に会うきっかけ、そこで働く人にとっては生計の手段というコミュニティとしての面がある。あとは美術的な価値とか、見えざるものへの感謝という面もあります。
絵かきから商店街の手伝い、そして起業へ。きっかけは東日本大震災
大久保:起業のきっかけは何でしょう?
加藤:東日本大震災です。自分は元々、美術を勉強していて、絵描きになると思っていました。でも、大震災で自然の驚異を目の当たりにして、
好きな絵を描いていてもいいけど、直接的な人助けにはならないと気づきました。じゃあ、何ができるのかというと、デザインや絵ができる。美術を人の役に立てたいと思いました。
祖母が青森なのでねぶた祭があるんです。震災の後、さびしい感じになるかと思いましたが、住民が楽しそうにしている。日本の元気の源なんだなと感じました。でも、翌日の新聞に「来場者数が減っている。」という記事が出ていて、お祭りの人は困っているんだろうな、とそのとき思いました。
そこで、お祭りを助けるために、商店街でお祭りの準備のお手伝いをはじめました。お祭りのポスター作りとかですね。やっていくうちに、他にも支援が必要なお祭りは全国にたくさんあるだろう、ということに気づきました。それが今のオマツリジャパンの始まりです。
最初は、経営の「け」の字も知らなかった。お祭りサークルのノリで始めたんです。休みになったらお祭りを手伝いに行く。そこからだんだん事業になっていって27歳で起業という形になりました。その後、共同代表として山本、橋本などが加わってくれました。自分は、アートに強く、彼らは数字に強かったり、営業力があったりと、自分にないものを持っています。
大久保:オマツリジャパンのミッションやビジョンをまとめるとどうなりますか?
加藤:ミッション(使命)は、「祭りで日本を盛り上げる」です。ビジョン(描いている未来)は、「お祭りのプラットフォームになり、お祭りを身近にする」ということです。これからも日本をお祭りで盛り上げ、お祭りを身近にしていきたいです。
大久保:ありがとうございました。
現在、ほとんど開催されていない「お祭り」をテーマにした会社が成長し続けているということに勇気をもらえました。「今できることをする」「なくさないようにする」それが大切なのかもしれません。たくさんの人たちがひしめき合って楽しめるお祭りが、全国各地で再開することを願っています。
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(取材協力:
株式会社オマツリジャパン 加藤優子)
(編集: 創業手帳編集部)