フラッグ 久保浩章|多彩な事業を成功させ躍進!日本映画業界の回復と発展を願い挑戦を続ける経営理念に迫る

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年09月に行われた取材時点のものです。

映画のデジタルプロモーションやVOD向けコンテンツ制作など、未来を見据えた事業展開が光る経営手腕


邦画を中心に観客動員が落ち込み、制作費の捻出が難しくなるなど、長期低迷が続く日本映画産業。2020年以降はコロナ禍でエンタテインメント業界全体が大打撃を受け、回復を目指す苦しい状況が続いています。

そんな中、映画・エンタメ業界を中心に、ソーシャルメディアマーケティングやインターネット広告、クリエイティブ制作などの分野で様々な企業のデジタルマーケティング支援やプロモーション、国内外の映画配給宣伝、Amazon Prime Videoで独占配信されているトークバラエティ番組『有田と週刊プロレスと』シリーズをはじめとしたコンテンツの企画・製作など多彩な事業で躍進を遂げているのがフラッグです。

代表取締役を務める久保さんは、学生時代から大の映画好き。不況にあえいでいた映画業界を憂い、ビジネスサイドの基盤を確立すべく学生起業を決意した情熱の持ち主です。

今回は久保さんが起業するまでの経緯や、商業面から映画産業に携わってきた変遷について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

久保 浩章(くぼ ひろあき)
株式会社フラッグ 代表取締役 
1979年生まれ、東京大学経済学部卒業。在学中にフラッグを創業し、2004年1月に株式会社化。代表取締役を務める。映画のデジタルプロモーションやソーシャルメディアマーケティングを中心に担当。2016年には、映画学校ニューシネマワークショップ(NCW)と経営統合を行い、後進の育成にも力を入れているほか、近年では映画の配給や国際共同製作にも取り組んでいる。
インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大の映画好きが日本映画業界の苦境を憂いて決意した学生起業という選択

大久保:まずは起業当時についてお聞かせ願えますか。

久保:東京大学在学中の2001年3月に合資会社フラッグを創業しました。2004年に株式会社に組織変更しています。

合資会社としてスタートした理由は、学生の身で多額の資本金を用意することが難しかったからです。私が学生起業した当時は、株式会社を設立する際に1,000万円以上の資本金を準備する必要があったんですね。そこで社員1人につき1円を出資すれば設立可能な合資会社を選択しました。

奇しくもITバブル期。ナスダック・ジャパンや東証マザーズが開設され、サイバーエージェントやオン・ザ・エッヂといった新進気鋭のITベンチャーが競うように上場していた時代でした。

私自身も早くからインターネットに親しんでいたものの、インターネットビジネスにはそれほど興味がなくて。それより昔から映画が好きだったので、映画関連の仕事を考えていました。しかも制作ではなく、ビジネスサイドから業界を盛り上げたいなと。

当時の映画業界は邦画を中心に観客動員が落ち込んでいたため、根本原因も含めて興味があり「なにがこの業界に足りないのか?」を調べていました。その結果、ビジネスとして支える基盤や人材が圧倒的に不足していることがわかったんですね。

制作の現場には優秀な人材が豊富な一方で、商業的に活性化させる仕組みが整備されていませんでした。これでは映画産業は衰退する一方だなと。そこで「なんとかしたい」と決意したのが起業のきっかけです。

大久保:「好き」という気持ちからのスタートだったんですね。折しも久保さんが大学を卒業する頃は就職氷河期でしたが、起業を選択されたのはその影響もあったのでしょうか?

久保:ありました。起業する先輩が身近にいたため、「起業という選択肢もあるんだ」と意識したことも大きかったです。

それから学生時代の私は少々尖っていて、尾崎豊の曲そのものの青年期を過ごしていましたので、企業勤務の大人に対する反骨心みたいなものもあったんですよね(笑)。

大久保:「自分の力で生きるぞ!」というような自立心あふれる若者だったんですね(笑)。創業当初は仕事の獲得が大変だったと伺っています。当時の状況をお聞かせください。

久保:なにしろ業界にツテもなにもなく、お金を稼ぐ方法すらよくわからずに勢いで会社を作ってしまいましたので、当然のことながらまったく仕事がないんですよ(笑)。そこでまずは事業の構想を練るところから始めました。

熟慮の上、出した答えが「映像制作」です。映像のデジタル化が始まり、デジタルビデオカメラとパソコンでの編集が可能になったタイミングでしたので「会社案内の動画制作を新規事業として立ち上げよう!」と。最初は知り合いに声をかけたり、そこから紹介してもらいながら食いつなぐ毎日でした。

今でこそ多くの企業が取り入れている映像での自社製品や会社の宣伝ですが、フラッグの設立時はインターネットで映像を流すこと自体が考えられなかった時代です。こちらの事業内容を理解してもらえても、なかなか受注にはつながらず苦しい時期でした。

起業当初の苦難を乗り越え、事業を軌道に乗せることができた2つの理由

大久保:起業当初に苦難がありましたが、そこからどう乗り越えたのでしょうか?

久保:事業を軌道に乗せることができた理由は2つです。

まず1つ目は、2001年に登場したブロードバンド総合サービス「Yahoo! BB」により第一次動画配信ブームが到来し、映画コンテンツの制作を始めたこと。

ADSLの普及でインターネット環境が整備され、GYAOをはじめとした動画配信サイトが続々と誕生した影響で「WEB上に動画を流そう」という機運が高まりました。

そしてこのタイミングで「ライセンス料が高い映画本編を使わず、関連映像を活用したコンテンツを制作したい」とプロバイダー会社から相談を受けたんですね。

そこで制作したのが、映画の記者会見や、監督や役者のインタビューを編集した映像コンテンツでした。

当時は記者会見やインタビューをファンが見たいと希望しても、ワイドショーなどの放送を待つしかない時代でしたので、WEB上なら自由に見てもらえると考えたんですね。しかもテレビのように尺を考慮する必要がありません。さらに映画の宣伝を目的とした会見やインタビューにはギャランティが発生しませんので、一石二鳥どころではないなと。

こうした経緯で動画制作の案件獲得に成功しました。社会環境の大きな変化と、弊社のやりたいことがうまくマッチした結果でしたね。

大久保:世の中の変動に合わせただけではなく、クライアントが期待する課題解決までクリアした的確なサービス提供がお見事ですね。続いて2つ目の理由もお聞かせください。

久保:2つ目は、コーポレートサイトの会社概要に「メディアサービス」を掲載したところ、検索上位に表示され注文が相次ぐようになったことです。

フラッグの公式WEBサイトを公開したのは映画コンテンツ制作を始める少し前で、まだ実績を持つ事業がない状況でした。考えあぐねた結果、ビデオテープのダビングやDVD・CDのディスク複製などを「メディアサービス」として価格表とともに打ち出すのがいいのではないかなと。

業務用のダビングやプレスを行っている工場は、本来は大口の注文しか対応していません。そこで弊社がWEB上で小口のオーダーを受け付け、まとめて発注代行するビジネスです。

「なにか掲載しなくては!」と捻り出したアイデアだったのですが、Googleなどの検索エンジンで「ビデオ ダビング」などのキーワードの上位3番目くらいに表示されるようになり、突然インターネット経由で注文が入りだしたんですね。

最初は「あれ?一体どうしたんだろう!?」と驚いたのですが、徐々にインターネットを活用したビジネスがどういうものかを理解しまして。結果としてメディアサービス事業は急速に伸び、弊社の創成期を支えてくれました。

大久保:想定していなかった流れとはいえ、そのチャンスをきちんと掴み取ったわけですね。

久保:はい。この2つの事業がなければ、弊社は生き延びることができませんでした。

昨今ではスタートアップ界隈で「ピボット」の概念で語られていますが、当初の予定にこだわらず、いかに早い段階で次なる手を打てるか?が企業の命運を左右するのではないかなと思います。

実直に映画産業に携わった結果、大きな転機とともに始めたパブリシティ

『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』(10月28日公開)
© 2022 LES IMPRODUCTIBLES – KALY PRODUCTIONS – FLAG – MIRAI PICTURES – LE GALLO FILMS

大久保:メディアサービス事業は2006年頃まで業績を伸ばしていたと伺っていますが、そこから早めに映像コンテンツ制作を会社の軸に据えたのはなぜでしょうか?

久保:当初から「メディアサービス事業は10年続けることはできない」と予測していたからです。

DVDが市場に普及するスピードと呼応しながら売上を伸ばしていましたが、すでにインターネットでの動画配信時代の足音が聞こえていました。必然的に記録メディアは不要になりますし、競合の参入が相次ぎ、レッドオーシャン化して単価も下がっていたんですね。

そこで今後どうしていこうか?と考えたとき、やはり映像コンテンツの制作事業は会社の強みにしていかないといけないなと。原点回帰ですね。

この頃には映画コンテンツ制作を通じて、各映画会社の担当者とパイプが持てていたことも功を奏しました。その信頼関係から、映画会社に「インターネットを通じて映画宣伝の仕事をやってみない?」と打診されたことが次の大きな転機です。

それまではメディア側の立場で現場の取材に足を運んでいたのですが、その各メディア担当者に映画関係者への取材の申し入れなどを行うインターネット上のパブリシティの依頼でした。未経験だと正直に伝えたところ、「サポートするからぜひやってみて!」と勧めていただきうれしかったです。

大久保:起業当初のまったくツテがなかったところから、実直に映画産業に携わってこられた大きな成果でもありますね。久保さんにパブリシティを依頼された業界の背景をお教えください。

久保:弊社が始めるまでの間、当時の映画業界にはWEBメディアに対するパブリシティを担う会社がほとんど存在しませんでした。私にお声がけいただいたのは、映画会社が頼みたくても依頼先が少なく困っていたことが大きな理由です。

それからこの話があがった2008年頃、アメリカのハリウッドが先んじる形で宣伝活動の場をWEB上に移したことも影響しています。日本も今後、間違いなく同じ道を辿ると言われていたんですね。

実際に映画会社の現場では、アメリカの本社から「日本でもインターネットを活用した宣伝に力を入れたほうがいい」と推奨されていました。とはいえ、担当できる人材や実績を持つ会社がほとんどありません。彼らとしては「日本の映画業界は、まず環境整備から急ピッチで進める必要がある」と考えていたようです。

そこで弊社にご連絡いただきました。この依頼を機に立ち上げたのが、今も大きく成長しているデジタルプロモーション事業です。現在では映画だけでなく、企業や団体のプロモーションまで幅広く手掛けています。

コンテンツビジネスや映画配給宣伝事業など、未来を切り拓く企業運営

©flag Co.,Ltd.
『有田と週刊プロレスと』(シーズン1~ファイナルシーズン)
Amazon Prime Videoにて独占配信中​

大久保:今後の展開をお聞かせください。

久保:世の中のニーズを踏まえて事業を展開するクライアントワークだけではなく、並行して弊社自らがプロダクトを制作するフェーズに移行しています。以前より企業として売上を複層化したいと考えていました。

まず数年前から取り組んでいるのがコンテンツビジネスです。

弊社では長年エンタテインメントビジネスを継続してきましたので、豊富なノウハウが蓄積しています。この基盤を活かし、自分たちがクライアント側に立ってコンテンツビジネスを進めていこうと事業計画を練りました。

そのひとつが映画の買付け・配給です。映画バイヤーとして各国を訪れ、洋画のライセンスを購入して日本国内で配給するという、映画会社と同じ事業を行うようになりました。

新型コロナウイルスの流行とタイミングが重なってしまい、コロナ前と比較すると映画館の観客動員が6割から8割のため、まだ事業成績が芳しくないのですが、今後も継続しながら伸ばしていきます。

それからバラエティ番組を中心とした映像コンテンツの企画を作り、Amazon Prime VideoやNetflixなどのVODプラットフォームに持ち込んで配信権を買ってもらい、番組制作やDVD制作・販売を行う事業も始めました。

こちらはコロナ禍でずっと追い風が吹いている状況です。

このほかにもソーシャルメディアマーケティング分野で自社プロダクトが高い評価を得るなど、先々を見据えた事業展開を図っているのが弊社の特徴です。今後も様々なビジネスモデルを構想しており、常に未来を切り拓く企業運営を続けていきます。

人生に彩り豊かな経験をもたらしてくれる起業という選択肢の素晴らしさ

大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。

久保「起業は人生において彩り豊かな経験をもたらしてくれる」ということをお伝えしたいです。

7年前の2015年のことなのですが、アメリカのテキサス州オースティンで開催されている音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント「サウス・バイ・サウスウエスト」に参加したんですね。このとき、シカゴから来たという男性と出会いました。

大手企業を退職し、50歳を過ぎてからITベンチャーを立ち上げたという彼からかけられた言葉で忘れられないのが「君も起業家なら仲間だな!」。

その瞬間、「この感覚っていいな」とあらためて思ったんですね。年齢や場所も関係なく、「これがやりたい」「こういう勝負がしたい」「こんな世の中にしたい」などの想いがあり、その選択肢として起業を選んだ方は仲間だという意識が私にもあったからです。

そんな人たちが世の中に増えれば、より良い方向に変わっていく原動力になるのではないかなと。ぜひ仲間として、起業に向き合いながら様々な経験をしていただきたいですね。

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(取材協力: 株式会社フラッグ 代表取締役 久保浩章
(編集: 創業手帳編集部)



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