投票所で午後 8 時直前に入場し、閉鎖時刻を過ぎても投票内容を熟考し長時間悩む投票者が出現した場合は、選挙管理委員会は、その者を待たなければ開票することが論理的にできない?

あまり起こした者がいるという話を聞いたことは無いが、論理的には起こりえる (誰でも起こし得る) へんな話を書きたいと思います。


明日は衆議院議員選挙投票日ですが、公職選挙法を読んでみました。


よく読むと第53条(投票箱の閉鎖)に以下のようなことが書いてあります。

(投票箱の閉鎖)
第53条 投票所を閉じるべき時刻になつたときは、投票管理者は、その旨を告げて、投票所の入口を鎖し、投票所にある選挙人の投票の結了するのを待つて、投票箱を閉鎖しなければならない。
   2 何人も、投票箱の閉鎖後は、投票をすることができない。


これは要するに、午後 8 時になると、投票管理者は投票所の入り口を封鎖し、新たにその投票所に誰も来訪できないようにした後に、すでに投票所の中で投票しようとしている投票者全員が、投票箱に投票用紙を投入するのを待ってから、投票箱を閉鎖するという順序を規定しているようですが、ここでやはり自然な疑問が生じます。

疑問: 投票所に午後 8 時より少し前に入場し、投票用紙をもらってから、投票用紙の記入用机の前で、どの被選挙人に貴重な一票を投票しようかと真剣に長時間 (たとえば4分とか、4時間とか、10時間とか、24時間とか) 直立して真剣に悩む者がいたとき、投票管理者は、その者が誰に投票するか決断して投票用紙に記入して投票箱に投入するまでの間は、必ず待たなければならないのか?
 もし待たなければならないとすると、その投票所の投票箱を閉鎖して投票集計所に送付する時刻が遅れるので、開票作業に影響が出るのではないかと思う。どのようにしてそのような不利益を排除するのか?
(「どの被選挙人に貴重な一票を投票しようかと真剣に長時間 (たとえば4時間とか、10時間とか、24時間とか) 直立して真剣に悩む」には物理的な困難が伴う可能性もあります。投票所は飲食禁止とされている場合が多いので、4時間くらいいるとのどが渇くと思われます。10時間くらい何も飲まないのは大変つらいことですが、誰に貴重な一票を投じるのか真剣に悩む者にとってはそれくらいは何とか我慢できると思います。しかし、24時間何も飲まないのは通常の人にとっては不可能ではないかとも思われます。)


東京都選挙管理委員会のサイトより引用上記の疑問についてはさらに 3 パターンの議論が考えられると思います。

  1. 投票管理者が、長時間悩んでいる投票者を強制的に排除することができるのか。
    これが第60条(投票所における秩序保持)の「投票所において演説討論をし若しくはけん騒にわたり又は投票に関し協議若しくは勧誘をし、その他投票所の秩序をみだす者があるときは、投票管理者は、これを制止し、命に従わないときは投票所外に退出せしめることができる。」に該当するかどうか。自分が貴重な一票を誰に投票すれば良いか長時間記入用机の前で直立して悩む行為は、この条文における「投票所において演説討論をし若しくはけん騒にわたり又は投票に関し協議若しくは勧誘を」することと同列に扱うべきような、秩序を乱す行為ではないと思う。「その他投票所の秩序をみだす者」として処断することはできないので、この条項は適用できないのではないだろうか。

    (仮に第60条を無理矢理適用していったん退場させたとしても、別の問題が新たに発生する。「第51条(退出せしめられた者の投票) 第60条の規定により投票所外に退出せしめられた者は、最後になつて投票をすることができる。」という規定である。仮に、その者を「その他投票所の秩序をみだす者」として処断していったん退出せしめても、その者の投票は第51条の規定により許可しなければならない。ここで、再度、その者が第51条の権利を行使するために、長時間、誰に投票するかを真剣に悩み始めてしまった場合は、一体どうすればよいのか。)

  2. 投票管理者が、長時間悩んでいる投票者を強制的でないにしても「閉鎖時間です。早く考えて誰でも良いから投票してください!」などの言動によって急かすことは許されるのか。
    急かすことによってその者の冷静な検討ができなくなる恐れがあるので、そのように投票者を急かすことは許されないのではないか。

  3. 投票管理者が、長時間悩んでいる投票者を無視して、投票箱を閉鎖することができるのか。
    第53条の規定「投票所にある選挙人の投票の結了するのを待つて、投票箱を閉鎖しなければならない。」に違反するので、長時間悩んでいる投票者を無視して、投票箱を閉鎖することは許されないのではないか。


結論として、この公職選挙法の条文を読んだだけでは、投票所に午後 8 時より少し前に入場し、投票用紙をもらってから、投票用紙の記入用机の前で、どの被選挙人に貴重な一票を投票しようかと真剣に長時間 (たとえば4時間とか、10時間とか、24時間とか) 直立して悩む者がいたときは、投票管理者は、その者が投票し終えるまで、投票箱を閉鎖せずに投票を許すべき義務があるのか否かがわからないです。


もし、「投票箱を閉鎖せずに投票を許すべき義務がある」とすると、投票箱は必ず閉鎖してから集計所に送付しなければ集計できませんので、日本国内に 1 人でもこのような「長時間悩む」投票者が出現した場合、開票・集計完了 (結果が 1 票単位の精度まで公式に発表される) までの時間がいたずらに伸びてしまうことになります。(それでもその投票箱以外の他の投票所の投票箱の集計結果から誰が当選確実かはわかると思いますが。)


また、多くの開票所 (たとえば日本国内の投票所のうち 20% 程度以上?) で、各開票所に 1 人ずつ、上記のような「長時間悩む者」が発生してしまった場合は、原理上、誰が当選確実か判明するのにものすごい時間がかかるということになると思います。


こういう社会通念上極端な投票者が出現した場合の取り扱いについて、ひょっとすると判例や他の法令等があるのかも知れません。


なお、この記事は、投票所においていざ投票用紙に記入しようとするときに真剣に悩み始める善良な投票者がいた場合は、現行の法律では、円滑な選挙・開票の実施に支障が生じる可能性があるということを懸念して書いたものです。

現実的には

公職選挙法的にはどうであろうと、投票所の管理者がその者に対して、即時退去するよう請求し、その者が催告しても退去しない場合は不退去罪で現行犯逮捕して強制的に連れ出すことで解決できる可能性がありますが、後から選挙妨害とか精神的苦痛を被ったとかで損害賠償請求されるリスクがあると思います。