研究者インタビュー(京都大学・義村先生)

DE&I・人権

発達障害のある方々が能力を発揮し、「自分は自分として生きていいんだ」と安心できる世の中へ

 「発達障害特性がある人材の就労における能力発揮支援」のプロジェクト代表である義村さや香先生に、向き合う社会課題や関心を持ったきっかけ、そしてプロジェクトへの思いを聞きました。
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精神障害・発達障害のある方々の生きづらさ

 私が専門とする精神医学で接する精神障害や発達障害の方々は、社会的な弱者と言われやすく、いろいろな場面でネットワークからこぼれ落ちたりして、社会参加が難しいこともあります。今の日本は、多様性を認める雰囲気になってきています。しかし、発達障害と診断された方の中には、その後色々な情報を見聞きして発達障害があると社会で生きていくのに不利だと感じたり、診断を受けたことで悪いレッテルを貼られたような気がしたりして、診断を受けなければよかったと思う方もいます。このように多様性を認める社会がまだまだ実現できていないことを課題と感じています。

発達障害のある方々への理解が進めば、就労機会が増える

 私は、もともと人間観察が好きで、大学進学時には、人間の心理を扱う文系学部と迷いつつ、医学部に進学しました。心に興味を持ち続けていたので、大学卒業後は精神医学の道に進み、発達障害と診断される方々に出会い、関わっていく中で、発達障害の特性が良い方向に発揮されることも多いのだと分かってきました。また、私自身、反復が好きだったり、新しいことが苦手だったりと自閉症的な傾向があると思っており、自閉スペクトラム症のある方と接すると気持ちがなごみます。一方で、発達障害特性がある方々は、その言動・行動が周囲から理解されず、場合によっては悪く捉えられてしまうことも多いのが現実です。そうしたふるまいの裏側にある、発達障害の方々のものごとの捉え方が分かれば、人々からの理解が進み、社会に受け入れられるのではないかと思って、これまで発達障害の認知研究を行ってきました。

 臨床の現場では、特定分野の処理能力は高いけれども、コミュニケーションの問題や新しい環境になじむことの難しさから、就労に苦労される方が多いと感じています。そのような場合に、就労支援が行われることでスムーズに就労へ進むのを見て、雇用する企業だけでは発達障害のある方のふるまいに対する理解・対応を進めていくのは現状難しいと感じていますが、企業の発達障害への理解が進めば、もっと就労機会が増えるのではないかと考えています。

誰もが自分らしく生きられる世の中へ

 発達障害特性がある方々の雇用に関心があっても、どう環境を整えたらよいか分からないというお話もよくお聞きします。発達障害の特徴は人によってさまざまで、必要な支援もそれぞれ異なりますので、本やインターネットなどの情報のとおり支援を画一的に進めてしまうと、ニーズが満たされない、発達障害のあるご本人が望んでいないことが支援に含まれてしまうということになります。本プロジェクトでの発信により、支援ニーズは教科書どおりでないことも含めて、企業等における理解促進につながればと思います。

 また、私は『ASD Project』という発達障害の方を支援する人材の育成にも携わっています。そのなかで、就労支援を行っている方々ともよくお話しますが、教育など児童青年期の支援を担当する現場と比べて、就労分野での支援は発展途上と感じています。企業において発達障害の方のケアをする機会が多い心理職の方も、就労支援に関して体系的に学んだ経験がなく、手探りで対応されているのが現状です。そういった中、本プロジェクトの活動として、発達障害特性がある方々のよりよい働き方、よりよい社会参加のための指針につながる発信を行っていきたいと考えています。そして、社会への発信を通して、発達障害の方が縮こまって暮らさなくてよい、「自分は自分として生きていいんだ」と思えるような世の中に変えていければと思います。

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