新型コロナウイルスの5類引き下げ、既存原発の再稼働、安保関連3文書の改定など、ここにきて大きな決断を連発している岸田文雄首相。
1月23日に開幕する通常国会の施政方針演説でも、勢いそのままに力強い言葉を繰り出すのかと思いきや、本誌が入手した演説原稿によると、少々、事情が違うようだ。
《この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。「検討」も「決断」も、そして「議論」も、全て重要であり必要です。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めてまいります》
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回りくどい表現になっているが、「検討」以外に「決断」「議論」も重要だとしている。ある内閣官房関係者が、演説原稿がこの形になった経緯について、こう語る。
「これまで、総理は “検討使” と言われつづけ、それに耐えられなくなって “決断” を連発したのですが、1月の時事通信の世論調査では支持率26.5%と、4カ月連続で危険水域にあります。
また、防衛費の増額にともなう増税の方針は、党内からも強い批判を浴びています。そこで、演説のなかで『議論』という言葉を使うことによって、“批判されているのではない、議論しているのだ” と装っているのです。
総理は、自らおこなってきた『検討』『決断』『議論』すべてが重要であり、必要なことだと自己肯定しているのです」
演説は、岸田首相が「最重要政策」と位置づける「こども・子育て政策」につながるが、演説の山場となるべきこの場面でも、首相の歯切れはよくはない。
《検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての「当事者」である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。》
前出の関係者が、背景を語る。
「総理は、年頭の記者会見で『異次元の少子化対策』を打ち出しましたが、直後に東京都が18歳以下に月5000円を給付する方針を決定したため、完全に話題を持っていかれました。
総理は、政府の少子化対策の中身が具体的に決まっておらず、目玉と呼べるものがないことに相当苛立ちを覚えていますし、『異次元』という言葉がツッコまれすぎたことを気にして、使うのをやめてしまいました。
そのため、今回の演説でも『絶対に “異次元” は使わない』と強硬で、結局『次元の異なる少子化対策』と言い換えることになったのです。まったく意味のない言葉遊びとしか言いようがありません」
今回の少子化対策の柱は、児童手当の拡充が柱になる。しかし、たたき台を3月末までにまとめるとしながらも、財源については統一地方選後に先送りされており、実現はまだ先になりそうだ。
しかし、一方で岸田首相は、演説に盛り込んだ《こどもファーストの経済社会》とは逆行する “決断” も同時におこなっていた。
「2021年度まで、文科省は世帯年収400万円未満の場合、私立小中学校に通う児童や生徒に年10万円の支援をおこなっていました。少子化対策にかかわる重要な経済支援策だったのですが、文科省が支援継続のために要求した予算を、財務省は打ち切ってしまったのです。
岸田首相が掲げる、“次元の異なる少子化対策” がスタートするのは、最短でも2025年くらいになるでしょう。しかし、継続できたはずの私立小中学校の子供への支援は一瞬にして切り捨ててしまう。岸田政権のセンスのなさが表われていると思います」(経済ジャーナリスト)
そのしわ寄せは、結局、地方自治体がかぶることになる。
「東京都は少子化対策として、世帯年収910万円未満の場合、私立中学に通う子供の家庭に10万円助成することで調整しており、4月から実施される見通しです。
小池都知事は1月20日の会見で『本来であれば国でしっかり対応を』と語っています。国でやらずに地方にやらせていては、この国の少子化対策は遅れたままとなるでしょう」(前出・内閣官房関係者)
岸田首相は、施政方針演説を1月の欧米5カ国歴訪のエピソードから始める予定だ。G7のなかでも、イタリアに次いで出生率の低い日本。今国会では、ぜひとも “次元の異なる” 議論をおこなってほしい。
( SmartFLASH )