テキスト全文
うつ病からの復帰と研修医の掟
#1. うつ病で2ヶ⽉休職した私が、 初期研修を無事2年で修了して思うこと。 〜研修医の⼗の掟〜
#2. これは初期研修を修了した直後の私から、 これから研修医になる⼈へ、 そして今研修医の⼈へ、贈る⾔葉です。
初期研修の意義とサポート体制
#3. 過去のnoteの中で最も ご好評いただいた記事 をスライドにしました
#4. はじめに。 私は研修医1年⽬の時にバーンアウトしてしまい、 2ヶ⽉の休職を経験しています。 でもちゃんと復帰でき、私が確実に研修を終了 できるよう、職場は万全のサポート体制を敷い てくれました。 お陰様で当初の予定通り、無事2年間で修了する ことができました。
#5. 私が初期研修の2年間、ちゃんとsurviveする ために意識していたことがあります。 数えてみると、ちょうど10個ありました。 「研修医の⼗の掟」と名づけて紹介してみよう と思います。 ※会津藩校⽇新館の什(じゅう)の掟(おきて)を⽂字っています。
研修医の十の掟:学び続けること
#7. 毎⽇、⼀⽇⼀つでも構いません。 学び続けましょう。 ⽇々真摯に診療していれば、 「これってどうなんだろう?」という 疑問が湧いてきます。
#8. 疑問はそのままにせず、その⽇のうちに⾃分で 調べてみて、記録に残してください。 そして、経験溢れる尊敬すべき指導医にも質問 してみてください。 指導医はそのために存在していると⾔っても過 ⾔ではありません。
#9. ⼀⽇につき、⼀つの学び。 学んだことを振り返ってまとめていけば、⾃分 だけの参考書が出来上がります。 その積み重ねがかなりの⼒になるはずです。 それを「成⻑」と⾔います。
信頼を得るための堅実な仕事
#11. 信頼を得るにはどうしたら良いか。 それは、⽬の前の仕事を堅実にこなすしかあり ません。 看護師さんから頼まれたことは、すぐに現場で 必要なことばかりです。 頼まれたら最優先で処理しましょう。
#12. 期⽇を守らなかったり、そもそもやると⾔った ことを忘れてしまうのは論外です。 信頼を築き上げるのは⼤変ですが、 信頼を失うのは⼀瞬です。
#13. ③周囲への感謝と リスペクトを忘れないこと
#14. コミュニケーションを⼤切に、多職種スタッフ や他科と協⼒しましょう。 現場を回してくれる看護師さんからの頼まれ ごとは真っ先にやることです。 看護師さんの存在無くして現場は回りません。 他にも、沢⼭の医療スタッフの協⼒あって、 医療は成り⽴っていることをお忘れ無く。
#15. 診断と治療のプロである医師ですが、それ以外 のフィールドは、その道のプロにリスペクトを 持って相談しましょう。 お互いのプロフェッショナリズムに感謝と敬意 を払って仕事をすることは、必ずや、患者さん にとって最適な治療につながるはずです。
心と体を労わる重要性
#16. ④⾃分のからだと ⼼をちゃんと労わること
#17. どんなに忙しくても、⾷事・睡眠・休息だけは しっかり取りましょう。 私たち医師とて⼈間です。 空腹、寝不⾜、疲労はパフォーマンスに悪影響 を及ぼします。 それで⼀番迷惑を被るのは、他でもない、 ⾃分が診る患者さんたちです。
#18. 研修医⽣活は毎⽉周囲の環境がガラッと変わる、 ⾮常にストレスフルな⽣活です。 それでからだや⼼に変調をきたすのは、むしろ 当たり前だし、正常な反応です。 それなのに、「⾃分が弱いんだ」と思い込み、 無理するのだけはやめましょう。
#19. ・寝つきが悪い ・⾷欲がない ・体を動かせない ・休⽇もソワソワしてリラックスできない こんな状態が続く時は無理しないようにし、 周囲に相談してくださいね。
報告・連絡・相談の重要性
#21. 報告・連絡・相談(ほうれんそう) を⼤事にしましょう。 研修医の後ろには、研修医の診療⾏為の責任を 被ってくれる指導医がいます。 その指導医へのほうれんそうは、 ⾃分が「やりすぎかな?」と思うくらい でちょうど良いです。
#22. 研修医がほうれんそうをせずにやってしまった ことは、指導医とて責任が取れません。 ほうれんそうをして⼩⾔を⾔われる、ことも もしかしたらあるかもしれません。 でもほうれんそうをせずに⼤事を招いてしまい、 患者さんが不利益を被ることに⽐べたら。
#23. ほうれんそうができない新⼈は、⼀般企業では 上司からの信頼をなくす、くらいで済みます。 でも、ほうれんそうができない研修医ほど恐ろ しいものはありません。我々の判断や⾏為は、 患者さんの命を左右するものだからです。 研修医の⾝勝⼿な⾃信はすぐに捨てて、指導医 へのほうれんそうを徹底しましょう。
#24. ⑥臨床は「正解のない世界」 だと知ること
#25. 医師になるまでの⼈⽣には 正解ありきのテストが常に付き纏っていました。 しかし、臨床には正解がありません。 なぜならこれから対峙するのは、 教科書通りの知識ではなく、 個別性を持った⼈間そのものだからです。
臨床における正解のない世界
#26. 「この患者さんの治療はどうするか」 質問⾃体はとてもシンプルで、 国試ではいつも唯⼀解があった問題。 実際には様々な要因がいくつも絡み合い、 正解は⼀つではない場合がほとんどです。
#27. 正解が⼀つではないからこそ、悩み、 考えなければなりません。 そして、それは真⾯⽬にやればやるほど、 ⼤きなストレスがかかる⾏為なのです。 この意識がないと、臨床に出た時に バーンアウトしかねません。
#28. ⼀つの正解を得るのは孤独な戦いでもいいで しょう。 でも、正解が⼀つではない世界では、⼀⼈で戦 わず、みんなで最善解を導けば良いのです。 それがチーム医療なのですから。
#30. 同期という存在は友⼈である⼀⽅、ライバルと して考えがちです。 「これまでに〇〇症例経験した!」 「〇〇の⼿技をやらせてもらって成功した!」 同期のこういった喜ばしい成功報告に対して、 ⾃分との実⼒⽐較をしてしまいがちです。
同期との比較を避けること
#31. でも、他者との実⼒⽐較は、精神衛⽣上不健全 です。切磋琢磨という意味で、頑張れる⼈なら 良いでしょう。 そうでないなら、同期と無意味な実⼒競争は お勧めできません。 ⾃分の成⻑を考えるならば、⽐較するのは常に、 「昨⽇までの⾃分」と「今⽇の⾃分」 であるべきです。
#32. 同期は同じ戦場で戦う戦友として、良好な関係 でお互い⽀え合っていきましょう。 そして、昨⽇の⾃分から少しでも、今⽇の⾃分 が成⻑していたなら万々歳です。 ⾃⼰肯定感を持って、研修⽣活を進んでいきま しょう。
#34. 昨今、AIの進歩が⽬覚ましいです。 これから全く未知の、新しい時代がやってくる のも時間の問題でしょう。
#35. ところで、 「⻑時間、⾝を粉にして働こう」 「泥を啜るような経験をしなければ、 ⼀⼈前にはなれないんだ」などなど・・・ これって、本当にそうですか? それこそが、本質的なことですか?
世の中の変化に順応する重要性
#36. ひと昔前までの、形だけの美学やモラルも、 本質的でないものはあっという間に過去の遺物 と成り下がるでしょう。 そのようなものにしがみつくのではなく、 時代の変化に対して、柔軟に順応していって ください。
#37. これから、ますます台頭してくるであろうAI。 知っているということなんて、 既に何のアドバンデージにもなりません。 いかに考え、いかに使い、いかに動くのか。 ⼈間の真価が問われる時代です。
#39. 医師という職種は、いわゆる「エリート」。 医学部⼊試を突破できる実⼒を持ち、 ⾃分の努⼒で道を切り拓いてきた、 「成功者」に分類される集団だと思います。 ・・・でも、あなたは1⼈だけの⼒では、 きっとここまで来れなかったはずです。
#40. 家族や仲間の⽀えが無ければ、 尊敬する先⽣⽅から教えを受けていなければ、 ⼼の⽀えというべきものに出会っていなければ、 あなたは今、ここにいるでしょうか?
人の痛みを知り、自分の命を大切にすること
#41. ⾃分の努⼒だけで常に切り拓けるほど、 ⼈⽣は単純でもないし、⽢くもありません。 ⾃分が思っている努⼒の他に、 環境、運、縁といったものが無数に絡み合い、 ⼈⽣はできています。
#42. 「⾃分だったらこんな⾺⿅な真似はしない」 アルコール依存症や⾃殺未遂を繰り返す患者さんに陰性 感情を抱いてしまうこともあるかもしれません。 でも、 「どこかで⼀つ違えば、⽬の前にいる患者は きっと⾃分だっただろう」 という思いを、頭の⽚隅にでも良いので、 とって置いておいてほしいのです。 私たちは、医師である前にまず「⼈」です。
#43. ⑩⾃分の命と⼈⽣を 何より⼤事にすること
#44. どんなに時代が変わっても、 医師の仕事は、患者さんの命と⼈⽣を救うこと です。 そのためには、医師⾃⾝が、⾃分の命と⼈⽣を 守る、そして充実させることが、とても⼤切。 それが、未来に出会う患者さんの幸せに つながるはずだからです。
#45. ⾃分の命を守れないほど健康を蔑ろにする⼈に、 他者の命が救えるわけがありません。 ⾃分の⼈⽣をどうでもいいと思っているような ⼈が、他者の⼈⽣を⼤切にできるわけがありま せん。
#46. ⼀回限りの命を、⼈⽣を⼤切に⽣きている⼈は、 今までの⼈⽣で学び取ってきたことや経験して きたことの数も、深みも違うと思います。 それらは、患者さんという「⼈」と向き合う上 で、知識の⾯でも、それ以外の⾯でも、 かけがえのない糧になるでしょう。
#47. だからこそ、 まずは、⾃分の⼈⽣を、 何よりも⼤切に⽣きてください。 所詮、⼈間にできる最⼤限のことは、 「いま、ここ」を⼤切に⽣きること なのですから。
#48. 最後までお読みいただき、 ありがとうございました。 素晴らしい研修⽣活を!