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クレアチニン上昇と腎不全の関係
#1. 京都済生会病院 腎臓内科 原将之 Cre クレアチニン上昇=腎不全?〜Creについてもう一度考えてみませんか〜
#2. クレアチニン高値 腎不全 初めまして。京都済生会病院の原将之です。
みなさんは血液検査でクレアチニン高値だった場合、腎不全だ!と驚かれることは無いでしょうか?
#3. 本当に腎不全・・? しかし、クレアチニンが高値でも実は腎不全ではない場合もあります。
クレアチニンが高値であった場合、何を確認すればよいのか症例を元に考えていきましょう。
腎機能評価の指標と方法
#4. ネフロン 腎機能とは糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate:GFR) 尿 吸収 分泌 尿量1.5L/day 原尿 糸球体濾過量(GFR)
100ml/min≒150L/day まず復習ですが、腎機能とは糸球体毛細血管から基底膜を通過して
尿細管へと流れる濾液の速度(GFR)のことをいいます。
#5. 腎機能(GFR)を評価する様々な指標 クレアチニン
クリアランス 推算(e)GFR イヌリン
クリアランス 実測GFR 一番正確
非常に煩雑 CCr=尿中Cr×尿量/血清Cr
蓄尿が必要 やや不正確 194×[Cr]-1.094×[Age]-0.287
(女性は×0.739) Crに依存 GFRを測定するにはいろいろな方法がありますが、みなさんがよく使うeGFRの計算式で求めた
腎機能は当然クレアチニンに依存します。
#6. クレアチニンの代謝経路 腎臓や他の臓器 アルギニン+グリシン→グアニジン酢酸 クレアチン合成
(約1.1g /day) メチル化 クレアチン吸収
(約0.83g /day) クレアチンプール(120g) クレアチン クレアチンリン酸 クレアチ二ン 糸球体ろ過 尿細管排泄 90% 10% Nephrol Dial Transplant. 2023 Mar 31;38(4):811-818より改変 クレアチンは肝での合成、
食事からの摂取により体内
(特に筋肉)に蓄積されます。
クレアチンはクレアチンリン酸に
変わり組織の主なエネルギー源
として機能します。
クレアチニンはクレアチンと
クレアチンリン酸代謝の
最終産物です。
これが糸球体(90%)、もしくは尿細管(10%)で排泄されます。
クレアチニン上昇の症例分析
#7. ではクレアチニン上昇=腎不全では無い例を見ていきましょう
#8. Case1 〇〇が標準ではない 難易度★☆☆☆☆
#9. Case1 〇〇が標準ではない 42歳男性
検診でCreが高値で紹介受診。
170cm 75kg
Cre1.6mg/dL
職業:競輪選手 このCreから求めたeGFRは39.7mL/min/1.73㎡ですが腎不全と考えて良いでしょうか??
#10. このような方は時折外来にも
来られると思います。
筋肉量が多い方は当然
クレアチニンプールが大きくなる
ためクレアチニン値は高くなります。 クレアチニンの代謝経路 腎臓や他の臓器 アルギニン+グリシン→グアニジン酢酸 クレアチン合成
(約1.1g /day) メチル化 クレアチン吸収
(約0.83g /day) クレアチンプール(120g) クレアチン クレアチンリン酸 クレアチ二ン 糸球体ろ過 尿細管排泄 90% 10% Nephrol Dial Transplant. 2023 Mar 31;38(4):811-818より改変
シスタチンCの重要性と測定
#11. 85歳男性 痩せている
149cm32kg Cre0.46mg/dL
eGFR129mL/min/1.73㎡ Case1の逆パターン Creは体格に依存することに注意が必要です。
先ほどとは逆に下肢切断後、筋ジストロフィーの患者など筋肉量が少ない方では
クレアチニン値が低くなります。
#12. このような時は・・・ シスタチンC クレアチニン 筋肉量に左右される 筋肉量に左右されない 保険適応上3ヶ月に1回 安価 194×[Cr]-1.094×[Age]-0.287
(女性は×0.739) (104×[Cys-C]-1.019×0.996[Age])-8
(女性は×0.929) 体格が標準から外れて
いる場合はシスタチンCの測定も検討してください。
シスタチンCからeGFRを求めることができます。ただ保険の関係上、標準の体格の場合はCreの測定で良いと思います。
サプリメントとクレアチニンの関係
#13. Case2 ◯◯飲んでませんか? 難易度★★★☆☆
#14. Case2 ◯◯飲んでませんか? 30歳男性 180cm94kg
半年でCreが上昇し紹介受診。その間体重は変わっていない。
半年前Cre1.1mg/dL (eGFR64ml/min/1.73㎡)
→1.4mg/dL (eGFR46.4ml/min/1.73㎡)まで上昇
尿検査異常なし
内服、既往歴:無し
運動歴:ラグビー 筋トレ 先ほどと違うのは体格が変わっていないのにCreが上昇しているということです。
このようないかにも筋トレが大好きそうな人の場合、聞いてほしいのはサプリメントです。
#15. これはクレアチンが含まれたサプリメントです。これは筋力と持久力の向上、筋肥大の促進などのために使用されることがあります。
#16. クレアチニンの代謝経路 腎臓や他の臓器 アルギニン+グリシン→グアニジン酢酸 クレアチン合成
(約1.1g /day) メチル化 クレアチンプール(120g) クレアチン クレアチンリン酸 クレアチ二ン 糸球体ろ過 尿細管排泄 90% 10% クレアチンサプリメント摂取により
Creは上昇する。
(BMJ Case Rep. 2014 Sep 19;2014) Creは上昇するが実際の腎機能には
影響を与えない。
(J Int Soc Sports Nutr. 2013 May 16;10(1):26.) クレアチン吸収
(約0.83g /day) クレアチン摂取が多くなるため当然Cre値も上昇します。
サプリメントはこちらから聞かないと答えてくれないことも
あるので、しっかり問診で情報を聞き出しましょう。
この方はシスタチンCを測定したところこのような値でした。
シスタチンC 0.87mg/L
eGFRcys 97.4ml/min/1.73㎡
薬剤による腎機能への影響
#17. Case3 ◯◯飲んでませんか? part2 難易度★★☆☆☆
#18. Case3 ◯◯飲んでませんか? part2 55歳女性 164cm 54.9kg
卵巣癌に対して
ベバシズマブ併用パクリタキセル・カルボプラチン療法を試行。
維持療法としてオラパリブを開始。
Cr0.73mg/dL→1.17mg/dLに上昇。
尿検査異常なし (日本内科学会雑誌, 2023, 112.8: 1419-1423.より改変) これは薬のせいでしょうか?
薬剤性の腎機能障害と容易に結論づけると、この方の今後の治療の選択肢を奪うことになります。
しっかりと検討して答えを見つける必要があります。
#19. クレアチニンの尿細管排泄減少 ST合剤
シメチジン
プロベネシド
抗ウイルス薬
(ドルテグラビル コビシスタット
リルピビリン リトナビル テラプレビル等)
分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬等)
オラパリブ etc 腎臓や他の臓器 アルギニン+グリシン→グアニジン酢酸 クレアチン合成
(約1.1g /day) メチル化 クレアチン吸収
(約0.83g /day) クレアチンプール(120g) クレアチン クレアチンリン酸 クレアチ二ン 糸球体ろ過 尿細管排泄 90% 10% 薬剤による尿細管からのCr分泌の阻害 尿細管からのCre排泄を阻害してしまう薬剤があります。
これは真の腎不全とは言えません。
このような場合シスタチンCやBUNが上昇していないこと等
他のパラメーターで評価する必要があります。
ただ、難しいのがこれらの薬剤が真の腎不全を来す場合も
あるので慎重に判断してください。
偽性腎不全の診断と注意点
#20. Case4 ◯◯が漏れている? 難易度★★★★☆
#21. Case4 ◯◯が漏れている? 65歳男性
膀胱癌に対して経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)の既往あり。
元来CKDで腎臓内科通院中。
急激な腹痛の後、Cre値が上昇した。(Cre3.23→14.33mg/dL)
CTで著明な腹水貯留が見られる。 (日腎会誌 2020;62(2):829‒834 より改変) これは少し難しいかもしれません。
ポイントは既往歴と腹水が何故溜まっているかというところです。
#22. 偽性腎不全(Pseudo-renal failure) 腹腔内への尿の漏出 膀胱損傷
尿管損傷
(特発性 外傷 術後)
クレアチニンが腹膜を介して再吸収 クレアチニン
上昇 尿沈渣で腹膜中皮細胞の検出
尿素窒素、クレアチニン濃度 腹水>血性
膀胱造影
シスタチンCとのクレアチニンの乖離 診断 膀胱や尿管の損傷などで腹腔内に尿が漏れ出すことがあります。
漏れ出た尿中のクレアチニンが腹膜を介して再吸収され、血中クレアチニン値が上昇します。
このような病態は知らないとなかなか答えにたどり着くのが難しいかもしれません。
マクログロブリン血症の影響
#23. Case5 そんなことあるの? 難易度★★★★★
#24. Case5 そんなことあるの? 65歳女性
頭痛を主訴に来院。血液検査でCr1.4mg/dL
既往歴無し 喫煙歴無し 内服歴無し
尿検査異常もなく、経過をフォローされていたが、その後約5ヶ月の経過でCr3.7mg/dLまで漸増した。
精査の結果IgM-κ型マクログロブリン血症と診断がついた。
腎生検の適応について他施設から相談を受けた。
この相談を受けた際、マクログロブリン血症に伴う腎障害の可能性を考えました。
腎生検ができる施設への紹介が望ましいと返事をしたのですが、、、、
#25. Cre0.52mg/dL 腎生検を受けることができる施設に紹介後、血液検査を行ったところ、なんとCreは0.52mg/dL・・
最終的に腎障害を伴わない原発性マクログロブリン血症の診断となりました。
#26. クレアチニン試薬による偽性高値 偽性低値を示した報告もある。 報告によって試薬の違いはあるが、IgM-k型のマクログロブリン血症では
試薬により偽性高値を呈する可能性がある。 Pathology. 2022 Dec;54(7):959-962. 医学検査 66 (5), 547-553, 2017 IgM型マクログロブリン血症は
M蛋白による混濁により様々な血液検査異常値を呈しうる。
まさかこんなことはあるとは思っていなかったので、これは私の反省症例になりました。 Kidney Int Rep. 2019 Dec 7;5(3):377-381.
甲状腺機能低下症と腎機能
#27. Case6 元気がないときには・・ 難易度★★★★☆
#28. Case6 元気がないときには・・・ 60歳男性
脂質異常症で近位通院中。
1年半ほど前からの腎機能増悪で紹介(Cre 1.61mg/dL)
同時期より倦怠感もあった。
既往歴:慢性胃炎
喫煙歴:無し 内服歴:抗脂質異常症薬
Cre:1.61mg/dL CK:856 LDL-cho:108
尿中赤血球<1/HPF 尿蛋白:0.01g/g・cre 倦怠感、脂質異常症もあり1年半前までは腎機能も正常だったことから、ある疾患を疑いました。
#29. Case6 甲状腺機能低下症も見逃さない! J Am Soc Nephrol. 2012 Jan;23(1):22-6. 甲状腺ホルモンはGFRに様々な影響を与えます。
#30. Case6 甲状腺機能低下症も見逃さない! 甲状腺機能低下症ではCre値は上昇する。
この上昇は重篤な甲状腺機能低下症が発生してから2週間以内に起こる可能性がある。
短期間で治療ができれば正常化するが、長期間経っていると改善しない場合もある。 J Am Soc Nephrol. 2012 Jan;23(1):22-6. 甲状腺機能 ギャップ 甲状腺機能低下症では
シスタチンCが低下するため
CreとシスタチンCとの
ギャップが見られます。
症状やギャップから
甲状腺機能低下症を疑ってください。
腎機能評価のポイントまとめ
#31. Take home message Point1 体格に注意 Point2 サプリメントに注意 Point3 薬剤にも注意 Point4 偽性腎不全に注意 Point5 試薬に注意 筋肉量が多い時だけでなく
少ない時も注意が必要 サプリメントは問診で忘れがち
自分から聞かないと教えてくれません 腹水の貯留や手術歴にも注目 見た目上だけではなく本当に
腎機能障害が出ることもあります IgM型マクログロブリン血症の時には
試薬を変えて測り直してみましょう シスタチンCとCreのギャップにも
注目してください Point6 甲状腺機能に注意 Cre上昇を見たときに、これらのポイントに注意してもう一度見直してみて下さい。