「懐かしい」という感情はドーパミンが分泌させる
若かった頃や仕事や子育てに夢中だった頃など、昔のことを思い出して懐かしさを感じると、人は幸福感を覚えたり、温かい気持ちになるものです。「懐かしい」という感情は、ドーパミンという脳内ホルモンを分泌させ、心地よさをもたらします。
もともと、認知症のリハビリの一つに「回想法」があります。昔の写真を見たり、お気に入りの音楽を聴いたりしながら当時の経験や思い出を語り合うと、脳の前頭葉が活性化する、と立証されています。
介護の現場でも、それは実感します。認知症になって最近のことは記憶になくても、昔のことはよく覚えているのです。たとえば、美空ひばりのヒット曲を流すと、口ずさみ、「昔、新宿コマ劇場のリサイタルに行ったわ」と、関連する記憶が次々と呼び覚まされて、表情も穏やかに。
その変化は驚くほどです。そういう姿を見ると、思い出は宝物であり、共有できる相手がいることは幸せだと思わずにいられません。
頭がしっかりしていて、まだ元気な親に対しても、回想法はもちろん有効。子の世代にとっても、この効果は同じ。ですので、親と一緒に思い出を振り返ることは、恩返しをしつつ自分も温かい気持ちになれるわけです。
たとえば、親と一緒に、自分が幼少期の頃のアルバムを見ると懐かしさで胸がいっぱいになるでしょう。「七五三のとき、エミちゃんったら、着物の帯が苦しいとグズって、大変だったのよ」「あー、だから私、こんな不機嫌な顔で写っているのね」などと笑いながら会話も弾むでしょう。
昔の映画を一緒に見るのもおすすめです。親が好きだった映画のDVDを借りてくる。また、インターネットで視聴できるNHKのアーカイブスは過去の映像の宝庫。
1950年代から90年代ぐらいのドラマやニュースなどのダイジェスト映像を見て、親と一緒にタイムスリップし、当時の思い出を聞いてあげてください。
その一方で、これから親子で新たな思い出を作っていくことも、恩返しです。
今日という日は、親にとっても子どもにとっても一番“若い”日。親が衰えると、できなくなることが増えます。「元気なときに、おいしいものを食べさせてあげたかった」「一緒に旅行に行きたかった」と後悔を口にする人を、私はたくさん見てきました。
そして亡くなったら、もう親とおしゃべりすることも、「大好き」「ありがとう」という愛情表現や感謝の言葉を伝えることもできません。
時間は有限。できるだけ親が元気なうちに、のちのち思い出になるようなイベントや楽しみの場を設けて、親子の幸福な時間を増やしましょう。