「昭和生まれの働き方常識」は“割が悪い〟

まず、古い世代の働き方の常識がどのようなもので、なぜダメになったのかを確認しよう。元号にさしたる意味はないが、「昭和生まれの働き方常識」とは以下のようなものだ。

山崎元氏
山崎元氏

「安定した職を得て、出世して、労働を高くかつ長く売る」というのがその要約だ。典型的な良い就職先は、大企業であり、国家公務員だった。医師や弁護士のような時間単価が高くて「食いっぱぐれがない」職業もいい仕事だとされた。

サラリーマンの場合なら、「できるだけ大手の安定した会社に入り」、「失敗を避けながら人事評価上の競争を勝ち抜いて」、「なるべく偉くなること」が目指すべき職業人生だった。部長、役員などと最終ポストが上がると年収が増える。退職金や、退職後の待遇でも差がつく。相対的にはまあまあのお金持ちになることができた。

一方、「クビになる」ことのコストは極めて大きかった。クビになった会社と同程度の安定感や社会的なステイタスを持っていて、同じような報酬をくれる企業への再就職は大変難しかったからだ。

このような事情だから、大企業に就職してそこに勤め続けることが重要だった。

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だが、一つの組織に居続けるとなると重要性が増すのが人事だ。人事評価で失点を受けると、これが一生尾を引く可能性があった。雇う側から見ると、人事評価の差を餌に、たいしたお金を払わずに社員を大いに働かせることができた。

人事は、基本的に好き嫌いで決まる。これは現代でもそうだし、世界的にそうだ。嫌われた者が脱落するシステムなのだ。評定者の言いなりになることが求められる。「悪目立ち」することを避けるのが、サラリーマンの心得だった。

しかし、旧来型の働き方では、同期入社100人のうちの1人か2人しか出ない役員になるような成功者でも、「より高い給与・ボーナス」という形で、自分の時間を売ってお金を得ていたに過ぎない点に注意しよう。

サラリーマンは、出世して、自分の労働時間の単価を上げて、長く勤めて、より大きなお金を手にしようとした。