食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

有限会社ラパン / 代表取締役 久保晃一 氏 、 副社長 久保恵理 氏

                                                                                                                                                                                                                                               

1999年から25年間、吹田市を拠点に身体に優しい無添加のこだわりパンを作り続けている「ラパン」
大量の食材が廃棄されていることに心を痛めていた代表取締役の久保晃一氏と副社長の久保恵理氏は、環境に対する意識の高い海外で学び、アップサイクル商品(※1)を広めることが問題解決につながると考えた。
(※1)アップサイクル商品 : 廃棄予定の素材に手を加えて、新たな価値を生み出して作られた商品

日本の伝統食であるおからを活かした商品開発を始め、パン屋、串かつ屋の経営と並行して試行錯誤を続け、おからを使ったヘルシーな焼き菓子「OKARADA」ブランドを完成させる。

単に廃棄食材を利用するだけでなく、素材の栄養価を最大限に活かし、無添加で誰にでも安心して食べていただけるよう、動物性食品や小麦粉を一切使用せず、シンプルな原材料にこだわっている。
商品のラインナップを増やし、海外にも販路を拡大するなど、活躍の場を広げて挑戦し続ける二人に話を伺った。

食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

軌道に乗るが、「廃棄」に悩む


二人とも商売をしている家庭に育った。親の姿をずっと見てきたため、大人になって商売を始めるのはごく自然なことだった。
色々な国の人と話をしたり、現地のアートに触れることが好きで、海外に移住して店を持ちたいという夢を実現するため手に職をつけるべく、寿司職人かパン職人かの二者択一でパン職人を目指した。

晃一氏は飲食店での勤務を経て神戸のドンク(※2)で修行。恵理氏も様々な職種を経験し、1999年、吹田市江坂にパン屋「ラパン」をオープンした。
(※2)ドンク:兵庫県神戸市東灘区に本社を置く創業119周年の老舗製パン企業

オープン日はGW明けの5月12日。設備投資が必要なため多額の借金をし、すごいプレッシャーを感じていたという。

晃一氏:近隣の居酒屋さん、クリーニング屋さん、パーマ屋さんなどに『うまいこと行くかなぁ』と相談したりもしました。そうすると、みんな『大丈夫や』と言ってお客さんを呼んできてくれたり、相当応援してくれましたね。


ただ、まもなく夏になった。夏は誰でも食欲が減るので、通常、食べ物の売れ行きは落ちる。

恵理氏:お店がまだあまり知られてなくて、本当に暇でした。本当に虫くらいしか来なかった(笑)。SNSなど無かった当時、必死でチラシを家庭やビルにポスティングしたり、駅前で配ったりしながら一生懸命、焼き立てのパンを出し続けました。


そんな努力が実を結ぶ。美味しいパンは口コミで広がり、秋に入ってお客さんが徐々に増え始める。
やがて昼休みのOLが殺到するなど、行列ができるようになった。
勢いに乗って2000年に「ラパンドゥ」、2001年には「ラパントロワ」と次々に出店していった。
最大5店舗まで増やし、クロワッサンやカレーパンなど100種類以上のパンを販売した。製造スタッフも約60人の大所帯になっていた。

人気のため売り切れることが多かったが、焼き立てパンなので、売れ残れば廃棄するしかない。商売は順調に進みだしたものの、廃棄についてはずっと罪悪感を持っていたという。

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海外に学べ!そして「OKARADA」の誕生


そんな状況を何とかしたいとの思いから、パンのロスからパン粉を作って串カツ屋をオープン。
今では串カツは吹田市ふるさと納税返礼品へと成長し、パンのロスも100%なくすことに成功した。

さらに2017年、阪急百貨店が企画したニューヨークフェアを手伝うことになったのも大きな転機になった。
ニューヨークに2週間ほど行って、ベーカリーやプレッツェル、ベーグル店などのオーナーを訪ねて作り方を学んで、ニューヨークフェアの裏方として出店をサポートした。
そのきっかけは、お店の近所に住んでいた「シアトルズベストコーヒー」のオーナーのお客さん。
「ニューヨークフェアの商品を百貨店で販売するのに、現地から商品を送るのも大変なので大阪で作るのを手伝ってほしい。ニューヨークに飛んでもらえないか?」と声をかけられたのだった。

色々な国の人との交流を楽しみ、憧れの有名店にも行くことができたが、何より二人のその後に大きな影響を与えたのは、現地の人の環境への意識の高さだった。

彼らに触発され「自分たちにも何かできないか」と考えるようになり、日本の伝統食「おから」の活用を思いつく。

晃一氏:もともと自分で味噌をつくったり、おからをよく食べていました。かなりの量が廃棄されていることを知っていて、なんとかこれを商品化したいと考えました。


その後、時間をかけてその思いを形にしていく。
パン屋を1店舗まで縮小し、浮いた経費をアップサイクル商品の開発に力を注いだ。
おからを使った商品はすでに流通していたが、小麦粉や米粉を添加した商品がほとんどだった。
おからの持つ低糖質という特長を活かした商品を作りたいという思いから、小麦粉や米粉を使わず、さらにバターや牛乳、卵などの動物性食品や添加物を使用しない、シンプルな原材料にこだわった。

晃一氏:パン屋として小麦粉アレルギーのお客様との交流を通じ、小麦粉をはじめとする特定原材料8品目(※3)を使わない商品開発は非常に難しかったです。

(※3)特定原材料8品目:食品表示基準で表示が義務付けられている食物アレルギーの表示対象品目。えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、 落花生(ピーナッツ)の8品目。

パン屋の営業が終わってから新商品の開発に勤しむ日々が続いた。
試作したマフィンは水分が多過ぎて腐りやすく市場拡大が難しいなど、一筋縄ではいかなかったが試行錯誤を続けた。
お店の前に関西大学があり、そこの学生と交流があった。授業の合間に手軽に食べられるものがいいという学生の声も拾って、香ばしくて食感のいい焼き菓子を完成させた。
それがヘルシースイーツ 「OKARADA(おから+カラダ)」の誕生だ。
「OKARADA」をブランド化し販売を開始する。

食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

その後、あるクラフトビールメーカーからビール醸造時に発生するビール粕(かす)についての相談を受け、ビール粕を使った焼き菓子「BEERGRAINZ(ビアグレインズ)」ブランドを生み出すなど、商品のラインナップが多彩になっていく。

食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

海外に比べて日本人のアップサイクル商品の意識は遅れていて、取り組みを始めた頃には、食品製造時の副産物を使ったビジネスに対するネガティブな反応をもらうことも多かった。
晃一氏:『そんなもの(廃棄食材)で商売するんか?』と言われたこともありますが、栄養の宝庫である廃棄食材を大事にしていくことの価値を信じてやってきました。

最近は、国や行政の後押しもあって風潮が変わり、応援する声が増えている。

廃棄食材のアップサイクル商品を、世界へ


「おばちゃん、これSDGsやわ。」

ある日、近所の大企業に勤める男性が、串かつ屋に並べていたおからの商品を見てそう言った。
気になってSDGsという言葉を調べてみたら「環境にいいこと」だと分かった。
「大阪府SDGsマッチングイベント」というピッチコンテスト(※4)が開催されていることも知り、販路拡大や資金調達のためにもチャンスと考え応募した。
(※4)ピッチコンテスト:起業家が投資家などの審査員に対して自らの事業計画をプレゼンテーションすること。

プレゼンテーションを担当したのは恵理氏。
恵理氏:データを示しながら、どれだけ食材が廃棄されているかを強調して、「おから、知ってますか?」と投げかけます。すると、それに共鳴してくれる人が出てきてくれるんです。


ピッチ(=短いプレゼンテーション)をどんどん勝ち上がり、投資家から「アメリカでうまくいくビジネス」と評価され、ニューヨークのピッチイベントにも出場することになる。日本代表としてファイナル進出を果たしたのだ。

このイベントのために、半年の歳月を費やして、オンラインでビジネス講座やプレゼンテーションの手直しを受けたり、資料を見ないで英語でプレゼンテーションできるまで練習を繰り返したりした。

全力でピッチイベントに取り組んだ経験が、英語を使ったビジネスを当たり前にしているようだ。
現在、「OKARADA」はアメリカ、オーストラリア、香港に輸出をし、海外の売上が会社全体の30%を占めるまでになった。

売上が増えていく中だが、小規模の家族経営スタイルを続けて大丈夫なのか。
晃一氏:以前のパン屋に比べて、今は商品数も圧倒的に少なく、製造時間も短く、生産体制はまだまだ大丈夫です。

と晃一氏は自信を見せる。

食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

ビーガンフレンドリー、グルテンフリー、アディティブフリー(以上3項目※5)といった商品は、海外の方が評価されやすいと感じているという。
(※5) :ビーガンフレンドリー : 菜食主義者が利用しやすいこと。 
      グルテンフリー : グルテンが一定量以上含まれないこと。 
      アディティブフリー : 添加物が含まれていないこと。


地域に密着したお店であり続けながら、どこまでビジネスを海外に広げていくのか。
北摂から世界へ挑戦を続ける二人の今後を見守りたい。

食品ロスを減らしたい! 「おから」のアップサイクル食品「OKARADA」で世界を変える北摂のパン屋

有限会社 ラパン
本社:吹田市円山町21‐15
オフィシャルサイト:https://www.lapain.jp/
商品サイト:https://okarada2020.com/


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