- 株式会社スタジオプレーリー
- 共同代表
- 坂木 茜音
コミュニティの口コミで全国区へ。デジタル名刺「プレーリーカード」広報戦略の全容
多くのスタートアップやベンチャー企業の初期フェーズでは、広報PRの業務に十分にリソースを割くことが難しい。
そのような状況で重要なのが、身近なコミュニティやファンの存在だ。彼らの口コミを通じて、プロダクトやサービスの利用者層が広がっていくことは、企業にとって大きな追い風となる。
「人と人との出会いを豊かにする」をミッションに掲げ、スマートフォンをかざすだけで情報を読み取れるデジタル名刺「プレーリーカード(Prairie Card)」を展開する、株式会社スタジオプレーリー。
同社の共同代表である坂木 茜音さんと片山 大地さんは、「クリエイターが集まるシェアハウスで出会ったコミュニティがきっかけで、プレーリーカードが生まれた。さらに、住人の属性が理想的なターゲットであったことから、このコミュニティを起点に口コミが広がっていった」と話す。
そして、利用者はIT業界に留まらず、高校生や美容師、NFTアートのコミュニティといった幅広い領域にまで広がっているという。
そこで今回は、共同代表の坂木さん、片山さんと、リリース時の広報PRアドバイザーとして参画されたフリーランス広報の緒方 祥子さんに、プレーリーカードの口コミが急速に広がった背景やリリース時の広報PR戦略などについて詳しく伺った。
人と人が出会う「はじめまして」を彩る、プレーリーカード
坂木 私は大学時代に伝統工芸やアートを学び、人間のコミュニケーション領域や文化形成に関心を抱くようになりました。その背景もあり、卒業後は海外でバックパッカーをしたり、コワーキングスペースや美術館のスタッフとして勤務し、その後、株式会社ロフトワークに入社してクリエイティブディレクション業務に携わってきました。
片山 僕は学生時代からIT業界に興味があり、大学では情報工学を専攻しました。新卒でリクルートに入社してエンジニアやPMとして勤務したのち、メルカリに転職して新規事業企画を担当していました。そして独立後は、サービスを作っては諦め…を10回ほど繰り返し、ようやくプレーリーカードにたどり着いたという経歴です。
プレーリーカードとは、NFC技術(※)を使うことで、アプリやカメラを起動せずにスマートフォンをかざすだけで簡単にプロフィールが交換できるICカードです。普段使っているSNSや、Sansan・Eightといった名刺管理ツールとも連携できます。
※NFCとは、交通系ICカードやクレジットカードのタッチ決済に内蔵されている技術のこと
従来のNFC名刺の多くは、ユーザー側で自由にデザインすることが難しかったのですが、プレーリーカードはパソコンやスマートフォンから簡単に両面をデザインできるという特徴があります。さらに、読み込み先のプロフィール画面もカスタマイズでき、名刺の情報をいつでもアップデートできます。
このサービスは2023年2月に正式にリリースし、現在は主にスタートアップ業界の方々や個人事業主、経営者の方々、法人企業、オンラインコミュニティなどで導入いただいています。
シェアハウス仲間とのコミュニケーションを通じて、プロトタイプを開発
片山 僕たちは「アサヒ荘」というクリエイターが多く集まるシェアハウスに住んでいて、このシェアハウスを基点にプレーリーカードが誕生しました。
そのきっかけは、同居人の1人が海外に旅立つタイミングでした。彼はアーティストとして活動して、自己紹介用に紙の名刺を用意していましたが、海外文化を踏まえると従来の名刺交換の形式は向いていないのではと思ったんです。そこで、海外でも彼の個性を表現できるようにと贈ったのが、プレーリーカードの原型となるものでした。
坂木 そして、「自分たちも欲しいね」とシェアハウスの皆で1枚の絵を描き、名刺として使いはじめたら、やはりとても便利だと感じて。その段階から「自分たちが欲しいもの」としての要素を盛り込んでいたので、両面とも自由にデザインできて、販売元のロゴも入れないという点がマスト要件になりました。
その後、まわりの友人が使い始めてくれたり、さらにその先の友人たちも使ってくれたり…と、気づいた時にはクリエイターやアーティスト仲間を中心にプレーリーカードの存在が広がっていたんです。
▼シェアハウスの方々で作成した初期の名刺
片山 彼らに話を聞くと、従来のNFC名刺のデザイン性が乏しい点にモヤモヤを感じていた人が多いことに気づいて。デザイン性を重視した名刺であれば、多くの人に需要があるのではないかという確信に繋がっていきました。
その後、すぐに2人で話し合いながらプレーリーカードの方向性を定め、小ロットでも製造できる所を見つけて、自分たちで手を動かしながら初期のプロトタイプを作っていきました。
周囲の人たちにも実際に目の前で使ってもらい、使い心地や機能性についてフィードバックを得ながら、何度も改善を繰り返し、プロトタイプの解像度を高めていきました。正直、本当に泥臭いことをずっとやっていたと思いますね(笑)。
中でも、カードデザインツールは何度も改良を重ねました。注文までの過程で、どこでつまずいてるのか、何がわかりづらいのかを明確にしながら、プロダクトのコアとなる部分を磨いていきました。
坂木 振り返ると、私たちが所属しているコミュニティには、プレーリーカードのターゲットとなり得るアーリーアダプターが多く、彼らが初期のユーザーであり、同時に支えてくれる応援者でもあったというのは運が良かったと思いますね。
機能性と想いのバランス、「らしさ」を盛り込んだプレスリリース
坂木 私と片山の共通点として、「人との出会い」が重要であるという人生観があり、事業を通じて「はじめまして」の体験や、人と人が出会う瞬間を彩りたいと思っています。
また、プレーリーカードは「紙の名刺」への課題感から生まれたサービスではないことも踏まえて、プロダクトの背景を丁寧に伝えたいと考え、プレスリリースにも十分にこだわりました。
その作成にあたっては、大きく2つの点を意識しました。まずは、人々の興味を惹き、詳細ページをクリックしてもらうためのタグラインの作成です。「一生分の名刺を、この一枚に」というタグラインは、ひと目見て「それってどういうこと?」と思わせつつも、どのようなものかを想像させる余地を残しました。
もう1つは、私たちが伝えたいメッセージと、読者が求める情報のバランスです。私たちは機能性以上に「プレーリーカードを使うことで生まれる価値」を伝える方が重要だと思っていましたが、その想いだけが先行してしまっては、結局のところ「何であるか」が伝わらないので、そのバランスを保つことを心がけました。
ただ、私自身がプレスリリースを書くのは初めてだったので、伝えたいことを盛り込んだ結果、結構な文章量になってしまって(笑)。そこで今回、広報PRをサポートしてくださった緒方さんに添削を依頼しました。
緒方 「この文章量、多いですかね…?」というのが、最初のご相談でしたね(笑)。確かにプレスリリースとしてはかなり膨大だと率直にお伝えしましたが、当時はプレーリーカードの情報がまだ世に出ていなかったので、ストーリーや利用メリットなどが1枚のリリースでまるっと伝えられる方が良いのではと考えました。
また、私たちは共通の知人を通じて出会ったのですが、初めて直接お話しさせていただいた時から、私自身、お二人の哲学や想いに惹かれて。
そこで、まずは「出会いのイノベーション」など、プレーリーカードを通じて実現したいことを伝えるべきだと思い、前半に制作ストーリーや思想を、後半に機能説明を記載する構成にしました。
特に前半では、お二人の人柄が伝わるように、いつも使っている言葉を織り交ぜるように意識しました。SEO的なキーワードも必要ですが、やはりそれだけでは人柄が伝わらないですからね。オンライン上で何度もディスカッションを重ねながら、「らしさ」にこだわって編集させてもらいました。
後半の機能面においては、NFC名刺を知らない方にもわかりやすいように、プレーリーカードの使い方を示したGIF動画を入れました。それによって、文章だけでは伝わりづらい部分を補いつつ、読者が飽きないよう情報の強弱を付けられたので良かったと思います。
▼実際のプレスリリースやGIF動画はこちらからご覧ください
一生分の名刺をこの一枚に。スマホをかざすだけのデジタル名刺「プレーリーカード」正式サービス開始 – PR TIMES
リリース時の拡散力を最大化させた、緻密なコミュニケーション施策
坂木 続いて、リリース時の口コミ拡散を最大化させるために、事前にいくつかの施策を行いました。
まずは、身近な人たちへの個別メッセージです。シェアハウスの仲間はもちろん、友人の一人ひとりに「この日にお披露目するので、よかったら拡散に協力してください」という旨のメッセージを送りました。さらに、リリース当日も朝から各所に連絡して、コミュニケーションを重ねていきました。
緒方 リリースのタイミングは一番祝福されるタイミングなので、必ず自分の言葉で直接伝えた方が良いと思っています。実際に、リリース時にはお二人のストーリー性に共感した人たちが動いた感覚がありましたね。
▼リリース直後のやりとり
片山 2つ目は、SNSシェア用画像の作成です。どうやったら広まるのかはリリース前には検証できない部分なので、何が最も効果的かをギリギリまで考えた結果の産物だと思います。
▼シェア用画像を使って投稿されたツイートの一例
3つ目は、オフラインイベントの開催です。リリースイベントを含め、計2回のイベントを実施しました。
1回目は初期ユーザー限定のミートアップイベントとして、実際にプレーリーカードを使って交流してもらったらどうなるかの検証と、プロダクトのフィードバックを集めるために開催しました。
そして2回目は、リリースイベントとしてメディア関係者を含めて開催しました。この時は、交流やイベントが好きな方々へのPRも兼ねて「イベント参加者は知人を1人まで招待可能」という招待枠を設け、当日は約60人が集まってくださいました。
これらのイベントを通じて、参加者はもちろん、招待で来てくださった方々も実際にカードを購入して、SNSシェア用画像を利用して呟いてくださるといった反響がありました。
坂木 このタイミングから「プレーリーカード」のワードが入っているツイートに対し、メッセージを添えてリツイートするなどして反応するようにしました。正直、リリースした安心感でホっとしてしまっていたので、イベント当日に緒方さんからそのようなアドバイスをもらい、とても助かりました(笑)。
緒方 初期にツイートしてくださる方々は、いわゆるオピニオンリーダーになり得る方々なので、私からはなるべく早く反応した方が良いと伝えました。温かさや親身さが伝わるお二人の返信と、実際の商品から感じられる雰囲気の一致性を踏まえても、プレーリーカードが多くの人に愛され始めている理由の1つだと感じますね。
リリース後も止まらないシェアの輪。日本全国で利用者が急増
坂木 一連の取り組みを通じて、リリース直後から主にSNSを通じて利用者の輪が一気に広がった実感がありました。そして他にも、口コミの拡散が広がった要因がいくつかありました。
まず、「封筒」へのこだわりです。「カードが届いた時に最もテンションがあがる体験設計」を考える中で、結婚式の招待状を思い出したんです。美しく作られていますし、自分宛に送られてきた特別感やメッセージが嬉しいですよね。それと同じような体験を作れないかと30種類以上もの試行錯誤を繰り返しました。
その結果、実際にお送りした封筒を写真に撮ってSNSでシェアしてくださる方がたくさんいて、私たちが届けたいメッセージが伝わった気がして、とても嬉しかったですね。
▼封筒について言及されたツイートの一例
もう1つは、NFTコミュニティの方々の利用です。NFTアートを基点としたオンラインコミュニティが多く生まれている中で、コロナ禍が落ち着いてオフ会をする機会が増えてきているのだそうです。
その際に、オンライン上でのアイデンティティとして利用しているNFTアートを名刺デザインにし、オフ会で活用している方がいらっしゃると聞きました。今後も、デジタルとリアルを繋ぐ存在として、プレーリーカードが機能するケースが増える気がしています。
▼NFTアートコレクション「NEO TOKYO PUNKS」のアートを反映したプレーリーカードたち
さらに、利用方法を記事にまとめてくださったり、TwitterやTikTokを通じて動画にして発信してくださる方もたくさんいて。新しいプロダクトはアーリーアダプターが多い東京から広まることが一般的ですが、SNSを通じて北海道から沖縄まで、全国の方々に利用いただいていると分かって非常に嬉しいですね。
片山 リリース後も熱量を下げないために、月1回程度でニュースを出すように心がけました。2023年2月のリリース翌月にはシードスタートアップに特化したピッチイベント「IVS」に出場するというニュースを出し、2ヶ月後の4月には、出会いが増える季節を見据えて「友達割」をリリースしました。また、5月にはビジネス映像メディア「PIVOT」のポッドキャスト出演が決定しています。
アイデンティティを表現し、コミュニケーションの根幹を担う存在へ
坂木 これまでの活動を通じて、お客様の声を元に改善することで一緒にプロダクトを作っている感覚があるのが、toCサービスの醍醐味だと感じています。Twitter上で意見をいただくことも多く、過去にはTelegramやGitHub用のボタンが欲しいという要望に対して、片山が1、2日で実装してくれたこともありました。
▼【左】Telegram用のボタンをつけた時の対応【右】GitHub用のボタンを追加した時の対応
これらの改善がしっかり成果としてかたちになり、新しい意見をもらう機会にも繋がることで、非常に良い循環が生まれていると思いますね。利用者数は私たちの予想を超えて伸び続けています。
私たちとしては、今後も紙の名刺をリスペクトしつつも、一人ひとりがプレーリーカードを持ち、それらを起点にコミュニケーションが広がるような文化を育てていきたいです。現在、エンジニアメンバーも募集しているので、興味がある方はぜひご連絡いただけると嬉しいです。
片山 近年、ChatGPTなどのAI技術が台頭している一方で、人と人がコミュニケーションを通じて関係性を深めることは、AIには代替できない部分であり、人生における楽しいことの大半を占めていると思っています。
そうした中で、これからは個々人がコミュニケーションの中で「アイデンティティを表現する」ことがより一層重要になると考えていて。プレーリーカードが人と人のコミュニケーションの根幹部分を担う存在となり、自己理解や他者理解をサポートできるような体験を提供していきたいです。(了)
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