秋山はる『こたつやみかん』講談社アフタヌーンコミックス

こたつやみかん(1) (アフタヌーンKC)

こたつやみかん(1) (アフタヌーンKC)

『昭和元禄落語心中』や『じょしらく』など、落語を題材とした漫画が比較的メジャーになってきましたが、本作『こたつやみかん』も落語を題材とした青春コメディ漫画です。

無口で内気な坂井日菜子と、才色兼備の転校生・有川真帆。
寄席でバッタリ出会ったふたりは、これからの高校生活を充実させるため「落語研究同好会」の創設を誓う!
さっそく勧誘の声をかけたのは、イケメンで知られる梶浦悠太。
実はこの男、理屈ガチガチの落語ヲタ。
落語への愛情で負けてたまるか!
私たちの思う”面白い”を伝えるため、全力の毎日が始まった!
(講談社HPより)

あらすじにあるとおり、無口で内気な地味っ娘・坂井日菜子と才色兼備のスーパーガール有川真帆が「落語」を通じて知り合い、落語研究同好会(落研)を創設するところから物語は始まります。
「落語」という共通の趣味でつながりあう二人ですが、ともに落語を好きだからこそ好みの違いなど些細なことで喧嘩したりもします。
『げんしけん』に代表される文化系サークル漫画における「お約束」ではありますが、こういうやりとりは読んでいて思わずニヤニヤしてしまいます。
序盤では落語を軸とした微百合な「ガール・ミーツ・ガール」かな、と思いましたが、落研に入部させるためにウンチク系キザ男子と落語勝負したり、放課後はお互いの高座の練習を品評したりと、意外と「部活」しています。
なにより、主人公の日菜子が落語好きという一「受け手」から自ら高座を演る「発し手」になるという展開が非常に興味深かったです。
フジモリが勝手に「ダベリ系文化部マンガ」と称する文化系サークル漫画は、「受け手」「鑑賞者(観賞者)」「消費者」という、本来物語の主人公となりえない人々をあえて中心に据えることで読者の「あるある感」をくすぐるエンターテイメントに昇華しています。
一方で「体育会系文化部マンガ」(これもフジモリが勝手に称しました)はいわゆる「モヤシ系男子がやる部活」と偏見を持たれている文化部が、「実は体育会系真っ青なスポ根クラブだった」と写実に描くエンターテイメントです。
フジモリとしてはどちらも好きなのですが、本作『こたつやみかん』は双方の良さをちょっとずつ織り込みながら、「受け手から発し手に向かう心境の変化」を青々しく描いているところに好感が持てます。
読んでいると落語の奥深さはもちろん、落語を演ることの面白さも伝わってきますし、ネタについては作中でしっかり説明されているので初心者でもよくわかります。
落語を軸としながらも、見事に青春している佳作。オススメの一冊です。