「将棋世界」2013年3月号感想

将棋世界 2013年 03月号 [雑誌]

将棋世界 2013年 03月号 [雑誌]

「将棋世界」3月号を読んでの気ままな雑感をば。
 本誌は、去る2012年12月18日に亡くなった米長邦雄永世棋聖追悼号となっています。
 新会長である谷川浩司九段の所信表明から始まり、タイトルホルダー5名の他、米長永世棋聖と数多く対局を行った棋士や弟子たちからの追悼文が掲載されています。追悼文の中から印象に残ったものを挙げますと……。

 近くで仕事をすると、将棋界の将来に対し、切羽詰まった鉄のように熱い思いがあり、その思いに反する者には永久凍土のツンドラ地帯のように冷たい、米長流の法則があった。
 共に働くとやけどしそうな思いに振り回され、誤解されればシベリア送りである。
 実は人に対してとても優しく大変気を回すのだが、相手の気持ちを読みすぎて自ら誤解し、結果相手にも誤解されることが多々あった。
「月のような人」専務理事九段 田中寅彦p40より

 「泥沼流」「鷺宮定跡」「矢倉は将棋の純文学」「米長玉」「米長哲学」などなど。また、本誌ではあまり触れられていませんが、当時としては前代未聞ながらも今では普通のものとなっている「全棋戦で敗退した時点で引退」という引退表明が個人的には印象に強いです。棋士として、あるいは将棋連盟の会長として、どちらにも明と暗の側面があって、そうした複雑な人間性を多様な追悼文から感得することができます。とにもかくにも将棋界にとって偉大な人物でした。

新・イメージと読みの将棋観

 テーマ4としていわゆる「米長哲学」が遡上にあげられています。「相手にとって重要な勝負こそ全力を尽くして絶対に勝つべし」。将棋界の根幹をなす重要な哲学として知られているこの哲学について、6棋士がそれぞれの見解を述べています。6人とも、総論として意義はないものの、「全力」を出せば必ず勝てるかといえばそうとは限らない勝負事の難しさや、奥の手は絶対に出さない(by渡辺竜王)といった、「全力は出すけど本気は出さない」とでもいうべきスタイルもあったりしてなかなか興味深いです。

感想戦後の感想「第90回」武市三郎六段 お稽古先で開眼した「筋違い角」

 初手から▲7六歩△3四歩▲2二角成△同銀▲4四角と、通常とは異なるラインに角を打って一歩得を狙う。これが「筋違い角」と呼ばれる戦法です。

 歩得という確実な主張があるものの、歩得よりも角を手放すデメリットのほうが大きいと見る棋士が多いらしく、「筋違い角」を得意戦法としている棋士はほとんどいません。実際、『イメージと読みの将棋観』(鈴木宏彦/日本将棋連盟)内でも「筋違い角」は散々な言われようです(笑)。そんな「筋違い角」を得意戦法としているただ一人といっても過言ではないプロ棋士が武市三郎六段*1です。
 そんな「筋違い角」について、武市六段自身は次のように述べています。

「優秀な戦法とは思っていないんですが、経験のある自分のほうが、主導権をもちやすいということはあります。私の場合は振り飛車にするわけですが、相手が居飛車ですと、玉の囲いの頭に歩がひとつないわけで、けっこう駒組みが不自由なんですよ。ただ、こっちは角を手放して相手だけ角をもつ将棋ですから、角打ちを警戒して、神経を使わなければならない。そのために、どうしても玉の囲いが薄くなる」
(本誌p96より)

 そんな「筋違い角」ですが、最近は一手損角換わりや角交換振り飛車といったように、序盤早々に角交換して、さらに場合によっては早々に筋違いに角を打つ将棋も増えてきています。それらを「筋違い角」と一概に一緒にするわけにはいきませんが、現代将棋において角交換が幅を利かせてきているだけに、「筋違い角」を今から勉強してみても面白いのかもしれないと思ったりしました。
【参考】『イメージと読みの将棋観』(鈴木宏彦/日本将棋連盟) - 三軒茶屋 別館

ガムでリフレッシュ対談Vol.3 つるの剛士さん(タレント)×羽生善治三冠 根拠のない自信と集中力で夢をつかむ

 「将棋フォーカス」に出演しているつるの剛士と羽生善治三冠の対談ですが、羽生三冠のインタビュー力・聴く力はさすがです。「車を運転してても、いろんなものが駒に見えてきちゃって、追い抜きのときには自分が桂馬にならなきゃとか、ビルが将棋盤にに見えたり」(本誌p31より)には少しワロタ。

2012年詰将棋サロン 年間優秀作品選考会

 私は詰将棋には正直あまり感心がなかったりするのですが(コラコラ)、それでも年間優秀作品ということですから、真剣に向き合ってみればきっと面白いはずです。時間を見つけて解いてみたいと思います。

*1:ちなみに、武市三郎でググると「棋神」というワードが出てきますが、それがどういう意味か気になる方はご自分でお調べください。