九井諒子『竜のかわいい七つの子』エンターブレイン

 2011年のフジモリのベスト1、『竜の学校は山の上』を描いた九井諒子による2作目の短編集です。
 個人的には「満を持して」という表現をしたいぐらい、前作よりもさらに素晴らしい作品でした。
 前作、『竜の学校は山の上』では、魔王を倒した世界のその後という「非日常の世界」における「日常」や、奥様がケンタウロスという「日常の世界」に入り込んだ「非日常」など、骨太な世界観に裏付けられた地力と柔らかで軽やかな筆致で「日常」と「非日常」の境界線を軽々と飛び越えた作品でした。
●奥様はケンタウロス 九井諒子『竜の学校は山の上』
 本作、『竜のかわいい七つの子』もまた、「非日常」の世界にある「日常」を鮮やかに描いています。
 7つの短編とも、「絆」を主軸として描かれています。
 「絆」というのは昨今ことあるごとに注目されているキーワードですが、フジモリ的には「柵(しがらみ)」と同義語な、「切りたくても切れない」、どちらかといえばネガティブなイメージを持っています。
 本作で描かれる絆もまた、「切っても切れない」すなわち「切りたくても切れない」要素をはらんでいます。
 2国間の開戦を阻む、小塔に住み着いた竜の親子を描く「竜の小塔」、海に面した片田舎で日々を過ごす高校生と人魚の物語「人魚禁漁区」、中学受験を控えた少女と拾われた山の神のお話「わたしのかみさま」、狼男症候群の息子と母親の葛藤と絆を描く「狼は嘘をつかない」、絵描きと絵から生まれた若者の道中を描く、本作の白眉である「金なし白祿」、竜の鱗を取りに行く王子を道案内する暗殺者を描く「子がかわいいと竜は鳴く」、そして秘密を隠したい超能力一家と彼女らの家に転がり込んでしまった少年探偵とのコメディ「犬谷家の人々」の7つの短編が収録されています。
 親と子、地元、家族、能力、もって生まれた病気など、非日常の世界を舞台に「切りたくても切れない」さまざまな「絆」が描かれます。
 前作よりも「非日常」寄りになりましたが、相変わらずの骨太な世界観と軽やかな筆致。そして巧みなストーリーテリング。本作は「犬谷家の一族」などのコメディなど振り幅が大きく、笑って、泣いてと、より大きく読者の心を揺さぶります。
 なんというか、読了後に「(作中の世界を)大切にしたい」という気持ちにさせられる、まさに「素敵な」短編集です。本作も、胸を張ってオススメでする一冊です。