三月の最終局に昇降級をかけた棋士はライオンになるのです。

3月のライオン 2 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 2 (ヤングアニマルコミックス)

一度ついた降級点は来期以降勝ち越さないと消す事はできない。2つたまると下のクラスへ落ちてしまう。
マイナスを塗り返す為の戦いは前に進む為の戦いより消耗が激しい。
――それは、義父のB1からの降級がかかった長年の一進一退をずっと同じ屋根の下で見つめていて身体中に染み込む程感じた……
『3月のライオン 2巻』(羽海野チカ/ジェッツコミックス)p95より

●http://www.shogi.or.jp/kisen/junni/kitei.html

30年間戦った経験で順位戦を一言で言い表すと「継続的な苦闘」です。
昇級争いをするときも、降級もしくは降級点を逃れる戦いをするときも常に順位戦は苦しい闘いなのです。
順位戦の正体 | 室岡克彦7段の荒川将棋日記より

つまり順位戦制度は、昇級という「アメ」と降級という「ムチ」で成り立っていて、それが魅力となっているのです。
そうした状況において、アメを求めるのは一流棋士か伸び盛りの若手棋士だけで、大半の棋士はムチを恐れてクラス維持をめざしているのが現実なのです。ましてや順位戦は、棋士生命にも直結する棋戦でもあります。
順位戦・C級2組の人数や昇級枠などの問題点: 田丸昇公式ブログ と金 横歩きより*1

 順位戦は文字通り棋士の順位=格を決める制度ですが、それだけでなく収入や棋士の資格にまで直結している非常に重要な棋戦です。上を見ればA級や名人位といった栄光が待っていますし、下を見ればフリークラス転出→引退ということになります。勝負事の光と影が濃縮した棋戦、それが順位戦です。
 順位戦各クラスの最終局が行われ昇級降級が確定する3月は、将棋界にとってまさに「3月のライオン」というべき時期です。そんな第70期順位戦最終局についての特集が「将棋世界2012年5月号」では組まれています。もっとも、70期の順位戦は昇級者(A級の場合は名人挑戦者)が最終局前に何人も決定しているということもありまして例年ほどの華々しさはありません。その代わりといってはなんですが、降級を賭けた残留争いに焦点が集まることになります。勝負の世界は残酷です。
 なかでもB1は昇級者2人と降級者1人が最終局前に既に決定したため、降級1枠を賭けた争いが濃密に描かれています。しかも、その枠を争うのが、藤井猛九段と鈴木大介八段。振り飛車の名手にして盟主として知られファンの人気も高い2人の熾烈な争いです。この2人がB1の残留争いを戦うのですから、勝負の世界は本当に厳しいです。
 藤井猛九段の最終局の相手は行方尚史八段。奨励会同期で親交の厚い間柄です。ですが、だからといって手を抜くということなどあるはずもありません。

「2日のラス前、僕は抜け番だった。その日は稽古で外出していたが、そこで藤井さんが負けたことを知ったんです。まさか降級が決まっている中村先生に負けるとは……。その瞬間、『これは落ちてもらうしかないな』と思いました。自分の手で叩き落すしかないな、と」
 行方は決然とした口調で語った。
将棋世界2012年5月号「また上がればいい」(大川慎太郎)p70より

 前に進む戦いではなく落ちないための戦いに挑む棋士の心境と対局心理といった順位戦の陰が掘り起こされている良記事です。オススメです。