『BLOOD〜真剣師将人〜  1巻』(落合祐介/ヤングキングコミックス)

楽しみだぜ
真剣の先に、どんな景色が見えるのか

 『BLOOD〜真剣師将人〜』はヤングキング(少年画報社)で連載中の漫画です。
 身よりもなく帰る場所もなくやさぐれた日々を過ごす桐生将人。そんな将人の元に突然一人のヤクザが現れる。父親が残した借金10億を返済するために父親と同じ道、すなわち”真剣”で金を返せと将人に迫る。このときから”真剣師”としての将人の人生が始まる……。といったお話です。
 真剣師というのは、現金を賭けて将棋を指す人間のことです。もっとも、本書では早々に金だけでなく命を賭けてしまってますが(苦笑)。『ハチワンダイバー』も、当初はそんな真剣師たちの姿を描いた物語のはずでした。しかし、いい意味で違う方向に突き抜けてしまいました。なので、将棋漫画というジャンルにおいて真剣師というキャラクタと、ヤクザや裏社会の人間たちといった背景は、バイオレンスやエロスといった要素と相俟って他の将棋漫画にはない独特の個性を放っています。
 これまで父親としか指したことのない主人公が、いきなりの真剣の場で才能を覚醒させて勝利をつかむというのも冷静に考えれば無理筋です。それがあまり不自然に感じられないのは、将棋そのものよりも命がけの勝負を描くことが主で、そのための手段として将棋が用いられているからでしょう。確かに、殴り殴られるといった格闘感覚と最後まで息の抜けない勝負を描くのに将棋は適しています。将棋の描かれ方にこれから変化が見られるのか、一将棋ファンとしてその辺りに注目しながら読んでいきたいと思っています。



 せっかくなので作中の盤面についても少々。まずは対須貝戦です。
●第1図(p64より)

 本来なら須貝が先手で将人が後手なのですが、作中の図面と元棋譜との都合上、ここでは将人を先手としましたのであしからず。
 さて、第1図です。将人が圧倒的に不利な局面ですが、ここから17手で逆転したとされています。具体的な指し手やその後の盤面が一切描かれていないので気になる方は気になると思いますが、実はこの将棋には元棋譜があります。2007年10月1日NHK杯テレビ将棋トーナメント:羽生善治対中川大輔戦です。加藤一二三九段の解説と相俟ってNHK杯史に残る一局となっています。
【参考】羽生善治 vs 中川大輔 2007-10-01 NHK杯 - 将棋の棋譜でーたべーす
 ちなみに元棋譜の方は146手目△8七飛成で第1図の局面を迎えていますのであしからず。ついでに第1図からの指し手だけ記しますと、図以下、▲9八角△8八龍▲5四銀△3三玉▲2六飛△9九龍▲3八玉△2六歩▲2二銀△同金▲4三銀成△2三玉▲2四歩△同玉▲3六桂△2三玉▲2四歩まで。作中にもあるとおり17手での投了です。プロの対局でもこうした大逆転劇が起きるのが将棋というゲームの恐ろしさです。最後まで気を抜くことはできません。
 続いて対ウィリアム・パーマー戦。
●第2図(p131より)

 p124を見ると初手に▲3六歩(!)と指しているように見えますので珍しい袖飛車になるのかと思いきや、その後の盤面は互いに居玉のまま飛車と角が盤上から消えているという、まるで相横歩取りみたいな局面となっています。以下、△6四角▲7三歩成△同角(p132)……と進んで投了図(第3図)。
●第3図(p148より)

 投了図以下、△6一玉▲6二銀△7二玉▲7一桂成までの詰みです。
 以上ですが、対ウィリアム・パーマー戦の元棋譜情報など、何かございましたらコメント欄等でご教示いただければ幸いです。
【関連】『BLOOD〜真剣師将人〜 2巻』(落合祐介/ヤングキングコミックス) - 三軒茶屋 別館