『あのころはフリードリヒがいた』(ハンス・ペーター・リヒター/岩波少年文庫)

 同じ年に同じアパートで生まれたドイツ人の”ぼく”とユダヤ人のフリードリヒ。仲良く一緒に育っていた二人であったが、ヒトラー政権下での反ユダヤ政策によって悲痛な運命をたどることになる……。
 本書は、中学生向けの少年文庫なので文章は平明ですし、ページ数も250ページですから、本来そんなに読みにくいものではないはずなのです。しかし、時間がかかりました。正直、読み続けるの辛かったです。
 全部で32章で、各章ごとにその年(1章は1925年)がカッコ書きで記されています。250ページで32章ですから、1章が10ページにも満たない計算になります。各章に年数が記されているので、おそらくは著者自身の経験を元にした、小説としての肉付けはしてありますが、しかし小説みたいな年表と言ってもあながち間違いではありません。それだけに、学校の教科書的な知識を前提としてしまうと、読者としては二人の少年、特にフリードリヒが想像どおりの結末を迎えてしまうことを覚悟しないわけにはいかないのです。主人公の”ぼく”目線で語られるフリードリヒの悲劇的な結末は、”ぼく”にはどうにもできなかったでしょうし、また、他の誰であっても”ぼく”以上のことはできなかったでしょう。だからこそ、どうしようもない無力感に絶望してしまいます。
 もっとも、ヒトラー政権下でユダヤ人が迫害されていた、ということ自体はもちろん知ってはいましたが、具体的にどのように迫害されていたのかは恥ずかしながらほとんど知りませんでした。ですから、そういう意味では勉強になりました。このような理不尽な法律を制定してしまう民主主義国家がかつて存在していたということを、民主主義が世界で一般的な政治体制になっている今だからこそ頭に入れておかなくてはいかないでしょうね。
 抑制の利いた淡々とした筆致が、ナチス政権下の狂気というものを再現させています。法学的な意味での戦争の定義は、人権の徹底的な制限・破壊です。戦争の悲劇は何も戦場ばかりではないということを否応なしに教えてくれた一冊です。オススメです。

あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 (520))

あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 (520))