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健康寿命の延伸と医療費の削減は、国や地方自治体における大きな課題の1つだ。その課題解決のために、東京都葛飾区ではスマートフォンアプリを活用し、区民の行動変容を促す「モンチッチと歩こう!~かつしかActiveチャレンジ~」のサービス提供を開始。具体的な事業内容、導入の経緯、健康づくり以外のメリットなどについて、葛飾区 政策経営部 政策企画課 健康推進都市担当課長の川島 典子さんに聞いた。
川島 典子(かわしま のりこ)さん プロフィール
葛飾区 政策経営部 政策企画課 健康推進都市担当課長。2007年に入職し、健康部を経て、現職に就任。自身も同サービスに参加している。
歩いて獲得したポイントは地域通貨へ交換可能
東京都の東部に位置し、埼玉県、千葉県に隣接している葛飾区。2024年10月時点で47万人※1に近い人口を有しており、若い世代、外国人の流入、単身世帯が増えているという。
そんな葛飾区では、区内在住、在勤、在学の18歳以上を対象に、楽しく健康づくりに取り組むためのサービス「モンチッチと歩こう!~かつしかActiveチャレンジ~」(以下モンチャレ)のサービス提供を2024年10月1日に開始した。
「モンチャレ」では、日本電気株式会社(以下NEC)が開発したスマートフォン向け健康ポイントサービスアプリ『WoLN(ウォルン)』を活用している。歩数や食事、体重など7つのライフログを記録できるほか、記録された情報に基づいたアドバイスも受けられる。また、活動状況に応じて貯まったポイントは、「かつしかPAY」(地域通貨)への交換が可能だ。
ポイントが付与される活動には、基準歩数をクリアするだけでなく、日々の食事や体重などの記録、区内の観光スポットを巡るウォークラリーへの参加、区営・民営の提携フィットネスクラブなどの施設の利用、各種健診の受診、葛飾区が主催する対象イベントへの参加などが挙げられる。
さらに、ホーム画面には葛飾区内に本社を構える株式会社セキグチの人気キャラクター・モンチッチ(R)を採用した。
「さまざまな方の価値観に合う健康アプリの導入を目指していました。健康になることを目指している方だけでなく、モンチッチが好きな方や、かつしかPAYというインセンティブに魅力を感じる方などにもダウンロードしていただき、一定の手ごたえを感じています」(川島さん、以下同)
認知度と無関心層の獲得が課題
葛飾区に限らず、日本全体で少子高齢化が急速に進むなか、社会保障制度を維持するためには健康寿命の延伸が不可欠だ。葛飾区における2021年の平均寿命は男性が80.77歳、女性が82.75歳※2。いずれも東京都の平均を下回っており、区民の健康増進が喫緊の課題だったという。
そこで葛飾区では、2023年6月から2024年2月までの9か月間、WoLNを導入。このアプリの導入以前から、区民の健康づくりの推進のためにさまざまな事業を実施してきたが、さらに健康づくりに取り組む人を増やすため、多くの人が利用できるデジタルツールの導入に至った。ところが認知度が上がらず、健康に興味のない層を取り込めないという課題があった。
そこで、課題を洗い直し、全庁的に連携して健康づくりに対する取り組みをおこなうため、政策経営部に健康推進都市担当課長のポストを2024年4月に新設した。
「他部署でも健康と関連づけられる取り組みをおこなっています。幅広い取り組みへの参加に『モンチャレ』のポイントを付与することで、無関心層にも健康づくりのきっかけづくりをしていきたいと考えています。新設された部署はこのまとめ役を担っています」
そして、入札で決めた前回とは異なり、今回はプロポーザル方式でアプリの業者選定を実施。行動変容を促し、継続するための仕組みなどが充実していることや、「葛飾区らしさ」を感じられることを理由にNECのWoLNを再び採用し、バージョンアップをした「モンチャレ」をリリースした。
「葛飾区らしい工夫は『モンチッチ』の採用だけではありません。健康アプリを活用しているほかの地方自治体では、付与されたポイントの交換先をその地域の工芸品やお食事券などに設定しているケースが多いのですが、葛飾区では区内の協力店舗で使える『かつしかPAY』にしました。これによって、地域活性化にもつなげることができます」
外出する機会につながるイベントへの参加に対してもポイントを付与し、モンチャレを登録するきっかけを作ることで、楽しみながら健康づくりを図れる。そんな相互作用が期待できそうだ。
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ダウンロード数は前回を大幅に超える勢い
単なる健康推進事業にとどまらないこの「モンチャレ」。政策企画課が今年度の目標として掲げていた登録人数5,000人を提供開始から約5日で達成し、1か月で約10,000人が登録している。登録者の男女比は1対2だが、登録者の活動状況に応じたポイントの付与数から、男性のほうが積極的に利用していることが明らかになっている。参加者の中心層は30〜50代で、利用者の約75%を占める。
参加者が前回よりも伸びていることに対し、川島さんは「かつしかPAYに交換できることや、積極的な情報発信が影響しているのでは」と考える。
事前に収集したデータから、葛飾区民が区内の情報を入手する際にもっとも利用しているが自治体広報紙であることがわかっており、今回は10月5日版(配布開始はその数日前)の広報紙の1面を全面利用し、宣伝をおこなった。同時に、かつしかスポーツフェスティバルや葛飾区産業フェアなどのイベントで、登録方法や使い方を知りたい区民への個別説明会も実施した。
「いくらいいサービスでも、使ってもらわないことには、意味がありません。そのため、周知には力を入れています。個別説明会はスマートフォンの使用にあまり慣れていない年配の方を想定しておこないました。区民のみなさまと直接お話しする際に感想をうかがうと『歩くことを意識するようになった』『以前は自転車で移動していたところも歩くようになった』などという声をいただいています」
川島さんの笑顔から、一定の手ごたえを感じていることがうかがえた。
ますます楽しく、便利に
気になる「モンチャレ」の今後の活用法についても聞いてみた。
「2024年12月から2025年1月を目途に、マイナポータルとの連携を予定しています。それにより、特定健診の結果を『モンチャレ』に反映させることができ、それを基にしたアドバイスをもらえるようになる予定です。
30~50代は忙しさを理由に健康を後回しにしがちですが、子どものためであれば、時間を割く親は多い。そういったことから、親子で参加するようなイベントを活用し、親世代を取り込むことも考えています」
多くの物事と関連づけられることもあり、「モンチャレ」活用のためのアイデアはたくさんあるようだ。今後、類似サービスを提供予定の自治体や企業に向けてのアドバイスを求めると、
「どこの自治体、企業も参加者を伸ばすことに頭を悩ませていると思います。世代によって情報を入手する媒体や手段が異なるので、それぞれの世代に合わせた方法で広報活動、イベント開催をし、地道に参加者を増やすといいのではないでしょうか」
と、川島さん。最後にこの「モンチャレ」を総括してもらった。
「『モンチャレ』への参加は、区民のみなさまの健康意識が高まるだけでなく、区のイベントや地域の魅力を知ってもらうことなどにも活用が可能です。今後は、自治町会とも連携・協働し、さまざまな活動に『モンチャレ』を展開したいですね。このアプリは、モンチッチと一緒に楽しみながら使えて、アクティブに活動するほどポイントが貯まるお得感たっぷりなものとなっていますので、区民のみなさまにはぜひご利用いただきたいです!」
区民の健康意識の向上と地域活性化の相互作用を促せる「モンチャレ」。今後、葛飾区にどのような変化をもたらすのか注目したい。
※1 参考:葛飾区の世帯と人口
※2 参考:65歳健康寿命〈東京保健所長会方式〉
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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