指標を明確にする

テーマ:

ピープル<wbr>アナリティクス

じめに

衣料品小売業の Gap Inc. は、Banana Republic、Old Navy、Gap、Athleta、Intermix といったさまざまなブランドを抱えています。同社では、人事(HR)ビジネス パートナーにより優れた分析ツールを提供し、全ブランドで一貫したレポート業務を各社で運用できるようにしたいと考えていました。

HR パートナーとビジネスのニーズをすべて満たすために、Gap Inc. のワークフォース アナリティクス チームではまず、対応すべき主な問題点を洗い出す必要がありました。

プロセスとデータに一貫性がない: ブランド間で統一されることがなく、離職者数などの指標の評価計算は各チーム独自の方法で行われていました。さらに、HRシステムへのデータ統合が不十分だったために、レポート業務も不完全なものでした。

分析ツールの活用不足: HR パートナーの多くが、人事分析ツールにアクセスできることすら知りませんでした。そのため、人事関連の意思決定をデータに基づいて行うことができていませんでした。

上層部にデータが共有されておらず、それがもたらす付加価値に対する理解が整っていない: 経営幹部は HR パートナーから受け取る人事データが少ないためにデータの価値がわからず、その意味合いを共通の言葉で議論することができず、データに基づく対応策が立てられずにいました。

分析担当者は言われたデータを抽出する役割と軽視されており、戦略的パートナーと見られていない: 人事データから有意義な情報を抽出する作業を自動化できないため、分析担当者は手作業で対応しなければならず、そのため有意義な分析プロジェクトに取り組む時間がほとんどありませんでした。

分析における信頼性を確保する

データ主導型の人事との隔たりを確認したワークフォース アナリティクス チームは、その隔たりをなくすため、以下の作業に取り掛かりました。

データの標準化(複数年計画): ワークフォース アナリティクス チームは、IT およびシステム管理の担当者と協力して、人事データの正確性と完全性を専門に調査するリソースを確保しました。そして、データに関する問題の解決、ガバナンス基準の確立、データ ウェアハウスの一元化を、複数年プロジェクトとして実施しました。欠損のない信頼できるデータは、Gap Inc. が分析における信頼性を確立するために不可欠でした。

人事データ分析研修プログラムの設置: データ標準化プロジェクトが完了すると、広範な人事コミュニティで分析ツールを利用できる状態になりました。そこでチームは、7 つのセッションからなる研修プログラムを開発し、クエリの作成、定期レポート(ダッシュボード)、結果の解釈方法のような分析に関する一般的なトピックを扱うことにしました。業務負荷の多い人事チームのために、1 回 1 時間程度のセッションを 数か月かけて実施し、情報を小分けにして提供しました。

草の根コミュニティの発展: また、研修を修了し、ツールを使用してレポートの作成や抽出を定期的に行う人事チームの従業員を集めて、草の根的なコミュニティを発足しました。ツールに精通するこれらの従業員たちは、分析指標の定義もよく理解しており、成功事例や学んだ知識をコミュニティで共有してくれました。また、ブランドや部門間で発生していた連携や情報共有不足の解消にも一役買ってくれました。

ビジネス パートナー研修を実施する

Gap Inc. では、人事データ分析研修プログラムを通して、データに基づく意思決定の文化を創生し、ビジネス パートナーを含めた人事部全体に広めていきました。

これまでに次のような変化が見られました。

  • 人事分析ツールを使用する従業員の数が、一桁から 200 人を超えるまでに増加した
  • 幹部が人事データを閲覧する機会が増えたことで、取締役会にもレポートや人事データの分析情報を定期的に報告しようという意欲が生まれた
  • 人事関連の指標の大半をすべてのブランドと部門で共通の言語を使って定義することができ、人事指標の記録のために人事分析ツールが広く使われるようになった
  • ツールに精通する従業員が、人事データの価値やデータに基づいて対応策を講じる方法についてビジネス パートナーに教える場ができたおかげで、人事分析に対する関心が高まった
  • 分析担当者は手作業でデータを取り出す必要がなくなり、人事戦略の検討に費やせる時間が増えた

こうした研修を通じて、ワークフォース アナリティクス チームとそのビジネス パートナーは、データと証拠に基づいて人事に関する意思決定を行うための基盤を確立しました。これを皮切りとして、人事分析研修の戦略においてさらなる計画を準備しています。

入力データを計測して結果を判断する

Gap Inc. のワークフォース アナリティクス チームが実施する人事データアナリティクス研修では、分析指標について次の 2 点が重要であると言っています。

1. インプット: 規定の組織において、規定期間内に計測したデータポイント(新入社員の人数、離職した従業員の人数など)

2. 結果: 通常、少なくとも 2 つの入力値を使って計算した比率(新入社員の人数÷全従業員の人数、離職した従業員の割合など)

このチームは一貫性のあるデータセットと分析手法を使って、レポート作成、ベンチマーク設定、追跡を簡単にできるようにしました。そのために、どのようにインプットが収集され計測されるかを合意し、結果の計算方法を定義しました。

人材募集に関する指標を集める

Gap Inc. では、人材募集に関する指標を利用して、候補者が組織に魅力を感じる点や選考過程で離脱する可能性のある段階を理解し、全体的な採用選考業務の有効性を証明しています。Gap Inc. の採用担当者はこれらの指標を利用して、応募者が少ない、あるいは長期間空席となっている職務を特定しています。

インプット

  • 職務ごとの応募者の
  • 最初の電話面接の
  • オフィスでの面接の
  • 内定を出した
  • 内定承諾者の

結果

  • オンラインでの応募から電話面接に進んだ候補者の割合=電話面接の数÷応募者の
  • 電話面接からオフィスでの面接に進んだ候補者の割合=オフィスでの面接の数÷電話面接の
  • 内定承諾率=内定承諾者の数÷内定を出した

採用に関する指標を集める

Gap Inc. では、採用に関する指標を年度比較して採用傾向やサイクルの推移を割り出し、それらを競合他社、企業の業績、市場状況などと比較しています。これにより、特定の職務の採用目標について、離職者数の推移やビジネス拡張計画まで考慮に入れて注意深く観察することができます。

インプット

  • 外部からの採用者数
  • 未経験者の採用者数
  • インターンからの採用者数
  • 同業他社からの採用者数
  • 再雇用者数
  • 従業員からの紹介による採用者数

結果

  • 未経験者の採用者の割合=未経験者の採用者数÷採用者の総数
  • インターン プログラムからの採用者の割合=インターンからの採用者数÷インターン参加者の総数

離職に関する指標を集める

離職または退職に関する指標は、従業員が組織を離れる理由を理解するのに役立ちます。離職に関する指標の算出に必要なデータを集めるには、離職者と面接を行うのがよい方法です。Gap Inc. では離職者と面接を行って、離職の理由、離職時の本人のキャリア、離職後の進路などを把握しています。これにより、組織内で離職率が高いエリアを特定して、この傾向を助長する特定のコホート(集団)従業員の統計学的属性、離職理由が存在するかどうかを突き止めることができます。人材定着戦略を考える一助として、これらの洞察を参考にできます。

インプット

  • 自発的離職者の
  • 退職者の
  • 転職を理由に離職する従業員の
  • 学業を理由に離職する従業員の
  • 非自発的離職者の

結果

  • 従業員の離職率=総離職者数÷総従業員数
  • 定着率=(総従業員数-総離職者数)÷(総従業員数)

統計学的属性に関する指標を集める

統計学的属性に関する指標は、従業員のダイバーシティへの対応を測定する手段として効果的です。また、アフィニティ グループ、指導プログラム、ナレッジ マネジメント プロセスに関連する業務の指針にもなります。Gap Inc. では、これらの属性に関する指標を、人材定着や採用の戦略に重点的に取り組む際に利用しています。

インプット

  • 民族別の従業員数
  • 性別別の従業員数
  • 年齢別の従業員数
  • 在職期間別の従業員数
  • 組織レベル別の従業員数

結果

  • 民族別の従業員の割合=民族別の従業員数÷総従業員数
  • ミレニアル世代の従業員の割合=ミレニアル世代の従業員数÷総従業員数
  • 平均在職期間=全従業員の在職期間の合計÷総従業員数
  • 管理職の従業員の割合=管理職の従業員の総数÷総従業員数

異動に関する指標を集める

異動に関する指標では、組織内やグループ間の異動、または昇格による異動に注目します。従業員が同じ職務に長くいる場合(昇進が滞っているなど)、なんらかの「障害」があるかもしれません。Gap Inc. では、チームメンバーのキャリアアップに特に貢献している部門やリーダーがいるかを調べて特定し、また、異動が少なく昇格の機会が限られているために停滞している部門の発見にも注意を払っています。

インプット

  • 昇格者の
  • 昇格日
  • 降格者の
  • 昇格または降格以外の異動の
  • 部門間の異動の

結果

  • 昇格までの期間=昇格日-前役職の開始日
  • 平均昇格率=昇格した従業員数÷総従業員数
  • 特定部門への異動の割合=特定部門への異動の数÷全部門間の異動の

学習と能力開発に関する指標を集める

学習と能力開発に関する指標は、社内トレーニング コースの時間、分量、種類、有効性を測定するためのものです。Gap Inc. では、特定の従業員集団を対象に、社内の能力開発トレーニングやリーダーシップ研修などの特定のコースを受講したことが、短期間での昇進、昇進の促進につながっているかどうかを評価しています。

インプット

  • 従業員 1 人あたりのトレーニングの時間
  • コースあたりのトレーニングの時間
  • あるコースに参加した従業員の
  • コースの
  • コースあたり、定員あたりに換算された定期トレーニングの提供数

結果

  • コース参加率=あるコースに参加した従業員の数÷定員あたりに換算されたコースの提供数の合計
  • 従業員 1 人あたりのトレーニングの平均時間=従業員 1 人あたりのトレーニングの全従業員の合計数÷総従業員数
  • 提供されたトレーニングの合計時間=コースあたりのトレーニングの時間×コースあたり、定員あたりに換算された定期トレーニングの提供数

レポート作成から予測分析にシフトする

Gap Inc. のワークフォース アナリティクス チームは現在も、人事組織全体を対象とした分析機能やデータ主導型の手法の開発に取り組んでいます。一部のグループについては、離職者数の予測や優秀な人材の事前評価といった予測分析を多く取り入れたいと考えています。

データからストーリーを紡いで伝える作業は、ワークフォース アナリティクス チームが取り組むべきもうひとつの課題です。組織の人材について包括的な見解を提供するために、ときには定量的にも定性的にもタイプの異なるさまざまな情報をつなぎ合わせる必要があります。

トレーニング関連で今後注目の話題は、データの可視化技術です。オーディエンスの興味や関心をそらさず、行動を促す目的でグラフやインフォグラフィックなどで傾向を明確に可視化することは、もはや必然の流れです。