古田ラジオの日記「Welcome To Madchester」

フリーライター・婚活ライター・婚活アナリスト、古田ラジオのブログです。

ぼくの脱正義論

初めに断っておくが、このエントリをぼくは自分の記憶を辿っていった書いていたのだが、辿っていくうちにかなり長くなってしまった。しかも書かれた事は全くもって大した内容ではないような気もする。


ぼくが昔小林よしのり信者だったのは前に書いた通りなんだけど、私自身は政治とかあんまりこ難しい話は嫌いだ。うちの親も中日*1の勝敗に一喜一憂していたぼくに、よく言ったものだ、「政治と野球と宗教の話はするな」と。
なんで嫌いなのかというと、それは大学時代の経験が大きい。


うちの大学もごたぶんにもれず、いわゆる文化系サークルを統括している立場に左翼活動家みたいな人がいて、彼らは、日々アメリカ帝国主義を排撃するチラシを配っていた。
明らかに20台後半の風貌で、当時全身ライトオン*2でコーディネイトしていたぼくよりも遥かに素晴らしいファッションセンスをしていた彼ら。
当時のぼくがどんなに世間知らずであったとしても、一目見ただけで極力関わり合いになりたくないとわかるようなタイプの人間達だった。
ぼくは彼らが毎日配っていたチラシを授業中一生懸命リミックスした。思えばそれが今に至るライトゴロブロガーへの第一歩だったと思うが、一時間半後、あらゆるところに落書きされまくったそれはアメリカ帝国主義ではなく、アメリカ横断ウルトラクイズをいつまで経っても放送せず、あまつさえ暇さえあればジブリアニメを放送しつづける日テレを排撃するチラシとなっていた。
もちろん当たり前の話で、彼らは学祭なんかも取り仕切っていた。もうお決まりのパターンだ。
うちの学祭のキャッチコピーのダサさは物凄かった。「ワクワクキラキラはぼくらが作る」どころの話ではない。
一体どこの文化大革命かといった趣だった。その学祭の収益はその左翼活動家たちの上部組織に上納されているというもっぱらの噂だった。 そしてそれは既得権化されていた。
皆、彼らをバカにしながらも表立っての意見は言えない、というよりむしろ彼らは元から「いなかった」事にされていて、「普通の」人々の視界に彼らが入る事はなかった。ましてや現状をどうにかしようなどとは誰も思っていない。
下手に関われば、彼らを彩る伝説の数々、彼らが関わった事件で死者さえ出ていたことをみんな知っていたから。
ぼくは、そういった活動家たちのダサさに苦笑しながらも、大学全般がどことなく、くすんだ感じになっている原因の一端は恐らく彼らなのだろうと思った。
一方、うちの大学には右翼的な人々も多数いた。体育会の応援団は典型的「体制側」だったし、いわゆる小林よしのり信者=「コヴァ」もいた。まぁその「コヴァ」はぼくの姿そのものなんだけど、これがまたイタかった。「高尚な事やってる」で新しい教科書ですか。メガネ菅野美穂萌え!
それはともかくとして、この手の人達が総じてイタかったのは周りの共通認識だった。右とか左とか関係なく。醸し出されるオーラからしてヤバいっていうと差別的にすぎるけど、やはり「今更政治を語る」事の時代遅れ感はあった。それは当時信者だった私ですらわかった。教職の授業の時にMr.日教組みたいな担当教員に食って掛かっていった「コヴァ」は眩しかったなぁ。あまりにも眩しくて、笑えて、まともに彼らを見る事ができなかった。
後にはてなで最低最悪のライトゴロブログを運営する時、しばしば揉め事における「正しい」意見として左翼リベラル的な意見を開陳される事にぼくは正直ビックリした。そして、そこになんの突っ込みも入らず、むしろ皆から称賛されることがわりと意味不明だった。


んなことしてる暇あったらそれこそ見なきゃいけない映画や読まなきゃいけない本や聴かなきゃいけないCDがぼくにはたくさんあった。
ニューオーダーもケミカル兄弟も、ブランキー、ミッシェル、ナンバガ、ウォーラステインも山形もその時に知ったわけで。 当時のナンバーガールは神だったし、Cymbalsだけはガチだと未だに思っている。New Orderは言わずもがな、New Orderのおかげであり、マッドチェスターのおかげでぼくは文化系ニートの道をひた走ってこんなにも気持ち悪い人間になってしまう事になってしまうのだが。
その頃見たドラマに「彼女たちの時代」というドラマがある。ぼくは大好きすぎて何度となく繰り返し見たのだが、「ケイゾク」が何年かかけてようやくエヴァンゲリオンに追いついたセカイ系ドラマなら、「彼女達の時代」は今思えば「ゼロ年代(笑)」の気分を先取りしていたような気がする*3。
ドラマの主人公達にとって、戦うべき敵や目指すべき目標なんていうものは社会からも個人からも「喪失」している。自分自身で何をしたいのかがわからず、しかも今まで信じてきた「会社」のような既存の秩序からは裏切られる(登場人物の一人が人間開発室送りになったりしている)。そんななかで生きざるを得ない私たちはただ叫び続けるしかない。そして主人公達はビルの上から叫ぶ、「わたしはここにいる」と。ただ、誰にも聞こえないのだけど。
ドラマの中でゼロ年代的な地平からの救いと呼べたのが、会社以外のオルタナティブな個人同士の繋がりを作ろう、というものだった。例え仕事で大して出世しなくても、田舎に帰ってしまっても、別にいいじゃないか。主人公三人は最終回でそれぞれ全く別々の場所に引っ越してしまう。だがそれでも繋がりは続いていく、というのが暗示される。いいじゃないか、組織や上下ではない個人同士の繋がりができれば。必要であればそれを「友達」とよんでもいい。そういう存在がいれば。そういう人たちとわいわい騒げれば。もちろん、それで仕事も少しでもできるようになって既存の秩序の中で自分の居場所が確保できればそれはたぶんすごくよいことなんだろう。
99年の放送当時はそのオルタナティブなコミュニティはカルチャースクールにせざるをえなかったんだけど、今この繋がりを作れるのはもちろんネットだろう。ネットを見ていればこの「気分」はよくわかる。おこがましい話だが、ぼくが基本的に「ネットを信じて」いるのはぼく自身にこの気分が濃厚に感じて、多分けっこう救われているからだ。


少なくともぼくはこの「気分」を信じいるし、自分でもそうありたいと思っていた。


世の頭のいい人がいわく、「ゼロ年代は決断主義の時代」なんだそうだ。
現実世界に適応できない/勝ち残れない奴は去れということらしい。
それを旗印にある人は優越感ゲームに浸り、ある人は飯の種にして、ある人は運動の大義のもと「ワクワクキラキラ」を作ろうとする。まぁそのワクワクキラキラとやらはアリスジャパンの企画モノよりもゲスなものだったのだが。
「セカイに適応せよ」もしくは「(運動・テロなどで)セカイと戦え」という煽り文句は飯の種としては有効だ。その煽り文句が過激であれば過激であるほど食う飯には困らないという事はよしりんが証明してくれた。
ロストジェネレーションに代表される議論なんかをみてもわかるとおり、今は右とか左とかに関わらず「運動の季節」であることは間違いないだろう。他の多くの時代と同じように今・ここにも「解決すべき問題」というのは存在しているだろう、そしてぼく自身はあまり考えたくはないのだけどそれは運動によって解決されるのかもしれない。解決されるかもしれない、というか、いつかリアルでの影響力というのを考えざるを得ない。運動を取り込むか、運動に取り込まれるか、どれぐらいの距離をとるかどこかのタイミングで突きつけられる。ほっとけば運動の方からおいしい餌はないかと擦り寄ってくる、そんなもんだ。
外山恒一らに代表される「新しい運動」は「脱正義論」的な問題意識を経て、極力それこそぼくの母校にいた人たちに代表されるような「イタさ」を脱臭することに苦心してきた。つまり、「社会問題を訴えちゃってるけどこの運動は(形式としては)ネタなんだ、おしゃれなんだ、サブカルなんだ」というアングル。このアングルが巧妙なのは「運動」というものがすべからく持っている、暗い暗闇、「脱正義論」においては結局そこに「学生」達が絡め取られてしまったのだが、その暗い暗闇の部分*4も隠す事ができるということだ。
それはある程度は成功していると思う。
ただ、ぼくはしみじみ思うのだけど、当の煽っている人達以外の大概の人は、もうずいぶん昔から現実と向き合わされて何とか折り合いをつけている。ぼくだって、恐らく他の人だって、とっくの昔に現実と向き合わされていて、そこで伊集院のラジオを聴いたり、life聴いたり、ナンバガ聴いたり、GTAやりながら何とか折り合いをつけていっていると思う。そこで「いもしない弱者、いもしない仮想敵」をでっち上げてそこへ石を投げつける事によって自分が「セカイに適応」しようとするのはずいぶん情けないしイタいなと思う。
問題は、どうやって煽り文句を峻別するか、そしてそれでもなお、ぼくたちが「行動」をしなければならない時どうするか、という事だ。どうするかなんてぼくにはわからないのだけど、その答えは多分ぼくたちの日常の中にしかない。それはどう「イタく」なくすか、暗闇との交わりをなくすか、ということでもあるし、どうやって「老人達」に喰い物にされないようにするかということだ。それはつまり、どう言葉を紡いでいくかということだ。


何があろうと
止まらない
選挙期間中は
正論を吐く
諸君の一票に期待している


俺たちは逆方向に突き進む そしてどこかで出会うんだ


(Radiohead『Electioneering』)

Ok Computer

Ok Computer

*1:まともなピッチャーが今中と山本昌しかいなかった頃。当時から圧倒的に山本昌派

*2:カリスマショップの名前

*3:99年夏クールに放送

*4:いろいろあるでしょ・・・