危うい「地上の太陽」 核融合発電 岐阜・土岐市で実験 東京(中日)新聞特報2013.02.07

中日新聞(東京新聞)特報が、核融合科学研究所の重水素実験について取り上げました。

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危うい「地上の太陽」

放射性物質を放出/拒否投入でも実用化見えず

燃料無尽蔵 CO2出ない

よぎる原発  住民不安


焦点のひとつトリチウムの回収は?推進側の発言、記録より 

トリチウムの回収率はバナナのたたき売り 

 
 2004年  99.9%  原研 トリチウム工学研究所 林 巧氏

 2012年  95%   核融合科学研究所主催住民説明会
 
 2013年  90%   核融合科学研究所所長



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2013年2月7日 中日新聞特報

危うい「地上の太陽」

「夢のエネルギー」「地上の太陽」。原発ではない。核融合発電のことだ。実用化に向けた実験が岐阜県土岐市の核融合科学研究所で計画されている。放射場質が放出されることから、地元住民に反対の声がある。巨額の層用もかかる。そもそも、核融合発電は実現できるのか。(荒井六貴、上田千秋)

核融合発電 岐阜・土岐で実験

放射性物質を放出/拒否投入も実用化見えず

燃料無尽蔵 CO2出ない


「実験で発生する中性子は、完璧に抑えることができる。放射性物質のトリチウムもごく微量を放出するだけで、住民に迷惑を掛けることばない。研究所の小森彰夫所長(61)は胸を張った。

 耳慣れない核融合発電とば、何なのか。水素の仲間の重水素と三重水素(トリチウム)の原子核を、ばらばらなプラズマ状態にし、原子核同士を衝突させること(核融合)で、熱エネルギーを発生させる。後は、火力発電や原発と同じように水蒸気で発電夕ービンを動かす。

 実は、太陽の光や熱は核融合によって発生している。このため、核融合発電は「地上の太陽」とも呼ばれる。

 重水素と、トリチウムのもとのリチウムは、海水から取り出す。研究所の竹入康彦教授(55)は「燃料は無尽蔵で、二酸化炭素(CO2)も排出しない。三十年以内の発電を目指す」と鼻息は荒い。

 プラズマ状態をつくるためには、密閉空間で高温へ高密度にすることが必要だ。これが非常に難しく、各国が競って実験を進めている。

 十階建てマンションほどの建屋の中に、大型ヘリカル装置(LHD)と呼ばれる巨大なドーナツ状の実験装着が置かれている。直径十四㍍、高さ十㍍ほど。世界最大規模の実験装置で、年間の電気代は四億円もかかる。
 
 ドーナツの上に立つと、UFOに乗っているかのようだ。LHD内に立つと、ステンレス製の真空容器と、超電導磁石が、らせん状に組み込まれている。真空容器の中では、防じん服を着た作業員が、保守・管理作業をしていた。

 計画している重水素実験では、一億二千万度以上の高温と、高密度の環境を真空容器内で作り出す。実用化に向けた重要な実験だという。

 実験の核融合で、放射性物質のトリチウムと中性子が発生する。実験は九年間。トリチウムは年間積算で最大五五五億ベクレルが発生する。

 小森所長は「トリチウムは放射性が弱く、排出したうちの90%以上を回収する技術が確立している。外部に放出されるのは極めて微量だ」と強調する。中性子線は、建家の厚さ二㍍のコンクリート壁で
遮る。壁がなくても、付近住民に健康影響が出るレベルではないという。中性子によって、LHDは放射能に汚染されるが、四十年で安全なレベルになるとする。「容器の中に、外から空気が入ったり、燃料を入れ過ぎたりすると、核融合は止まってしまう。燃料の注入を止めれは、何も起こらなくなる。原発と
違って制御でき、安全性は高い」

 名古屋大プラズマ研究所を母体に、文部省所管の核融合科学研究所が名古屋大に設立されたのは一九八九年。九七年に土岐市の現在地に移転した。研究所は昨年十一月、重水素実験を開始するため、岐阜県と地元の土岐、多治見、瑞浪の三市と三月までに同意協定を結ぶ方針を明らかにた。三市は、パブリックコメントを募ったり、住民説明会を開くなどしている。実験は早ければ、一五年度にも始まる予定だ。


よぎる原発 住民「反対」

 地元住民には、この実験に対し、不安視する声が広がっている。多治見市の住民団体「多治見を放射能から守ろう!市民の会」や、子どもを持つ母親のグループが反対の署名活動を開始。すでに二千人近くを集めたという。
 「市民の会」代表の農業井上敏夫さん(63)は「トリチウムを除去できると言っているが、本当に可能なのだろうか。安全が宣伝されていた原発でも、想定外の事故は起きた」と訴える。

 隣町瑞浪市には高レベル放射性廃棄物を地下に処分するための研究施設がある。井上さんは「核関連施設の集中立地につながるのでは」と懸念を口にした。
 安全性に本当に問題はないのか。

 理化学研究所の元研究員の槌田敦氏(物理学)は「トリチウムの危険性は極めて高い。許容量の十倍で細胞の半数が死滅する場合もある。
ひとたび事故が起きれば周辺住民への影響は避けられない」と危惧する。
 
 一方、九州大学の田辺哲朗特認教授(核融合工学)は、「トリチウムはよほどの量を体内に取り込まない限り、危険性は少なく、核融合は核の灰が出ないので、原子炉よりはるかに安全。化石燃料を使えるのはせいぜい数百年で、核融合などの核エネルギー開発は不可欠」と話す。

 それでも、「大量のトリチウムを扱った経験は世界にもなく、安全対策が確立されているとはいえない。安全性の研究は進めていかない」と注文をつける。

 もう一つの大きな問題は、核融合研究に膨大な国費が投じられていることだ。

文部科学省核融合科学研究所によると、二〇一二年度だけで四三億八千万円。八十九年以降では、施設の建設費と運営費として、計一千五百二一億円が支出された。

 核融合プロジェクトへの国の負担はこれだけにとどまらない。フランスで建設が進む「国際熱核融合実験炉(ITER=イ一夕ー)にも参加し、〇六年度以降で総額四百四十億円を負担している。一二年度補正予案と一三年度予算案でも、計二百七十四億円を計上している。

 イーターは日本のほか欧州連合、ロシア、米国、韓国、中国、インドが共同でプロジェクトを進めている。ただ、核融合の実用化までの道のりは遠い。当初は一八年とされていた実験開始は二〇年頃にずれ込む見通しで、実用化は順調にいったとしても、さらに三〇年ほどかかると見られている。


文科省の担当者は「世界のエネルギー問題を解決できる可能性がある有意義なプロジェクト。国民に理解を求めていきたい」と腰強調するが、実験開始までだけで、日本が負担する総額は推計約二百億円。仮に実用化するとしても、最終的に相当の金額にふくれあがることは確実だ。

核融合の本格的な研究が米国で始まったのは五〇年代初頭。それから約六十年。巨費を投じながらナ向に実用化の見通しが立たない高速増殖原型炉「もんじゅ」のようだ。

 槌田氏は「これまでの経過から実現は不可能で、投入した費用に見合う電力をつくれないのは明らかなのに、さらに無駄な金を投じようとしている」と批判する。

 「各国ともいつまでイー夕一に費用を出し観けるのか分からない。危うい核融合研究にいつまでしがみつくつもりなのか」



右 プラズマを発生させる大型ヘリカル装置
中 制御室のモニターに映し出された真空容器を点検、整備する作業員
左 厚さ2㍍のコンクリートで覆われた大型ヘリカル装置のある建物
  =いずれも岐阜県土岐市の核融合科学研究所で

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