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2013.11.13
これはストーリーをつくるのが苦手な人のために書いた文章です
生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書) 読書猿Classic: between / beyond readers はオールインワンの総論だったので、各論をもう少し詳しく説明しろ、という話がありました。
今回は、小説だけでなくマンガでも映画でも共通するストーリーをつくることに焦点をあわせて、なるべくわかりやすく説明してみます。
ストーリーは最低3つのパートからできている
当たり前のことからはじめましょう。
世界最初の創作論(『詩学』)を書いたアリストテレスは、ストーリーは〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の3つでできているといいました。
というのも、ストーリーは、
・始まったら必ず終わらなくてはならない→〈はじめ〉から〈おわり〉へ
・しかしいくらか続かなくてはならない→ある程度の長さがある=〈なか〉が必要
からです。
ストーリーには変化(落差)が必要
ストーリーには変化が必要です。
たとえば、いくら「正義は勝つ」というストーリーをつくりたいからといって、最初から最後まで「正義の味方が圧倒的な力で悪党をやっつける」というのが延々と続くと、ストーリーになりません(むしろ悪党に同情したくなります)。
さらにまずいことがあります。最初から悪党をやっつけ続けると、悪党が悪党らしい場面がまったく出てこなくなります。姿形を悪党っぽくしたり、ナレーションで「こいつは悪党です。悪党だからボコボコにされても当然です」と説明することはできても、それでは説得力がありません。
どうすればいいのでしょう?
素直に考えれば「正義の味方が悪党をやっつける」のは〈おわり〉だけにして、他のパートではむしろ「正義よりも悪党が優勢」「悪党が悪の限りを尽くす」ようにすればよいのです。
つまり「正義は勝つ」というテーマをもつストーリーの大半は、その正反対である「悪がのさばる」場面で埋められることになります。
流れがないと、ストーリーは単なる状況の寄せ集めになります。
逆にストーリーが進む方向が決まれば、あとで見るように、障害や制約を挟んで流れをせき止めることで、緊張感が生まれ、ストーリーは具体化していきます。
3つのパートの役割
ストーリーは3つのパートからできている、といいました。
では、それぞれのパートはどんな役割を持つのでしょうか。
〈はじめ〉は状況設定を受け持ちます。
ストーリーがゼロからはじまります。読み手/受け手は、このストーリーについて何も知りません。
なので どんな奴が登場して、そいつは何をしたいと思っているのか、あるいは何が起こるのを恐れているのか、などストーリーの前提になることが〈はじめ〉のパートでは示されます。
〈なか〉はストーリーの持続を受け持ちます。
〈はじめ〉では、主人公が何をしているかがわかりました。しかし、主人公の望みがいきなり実現しては、ストーリーがすぐに終わってしまいます。
ストーリーが続くためには、主人公が望みを実現するためにいろいろする、しかし障害や妨害があって、なかなか先へ進まないことが必要です。
大切なことなのでもう一度言います。
ストーリーとは主人公が繰り返しひどい目にあうことで大半が構成されるのです(作者と主人公が自己愛で結ばれていると、このことを忘れがちです)。
つまりストーリーの持続は、欲望実現のための行動と障害との葛藤で構成されます。
〈おわり〉はストーリーの結びです。〈なか〉でつづいた葛藤が解決・解消されるところです。
無事に解決・解消されることで、ストーリーがきっちり終わります。うまくいくと「よいストーリーだった」感じが読み手・受け手に残ります。
3つのパートの切替え
では、3つのパートは何で仕切られているのでしょう。
〈はじめ〉と〈なか〉の間の仕切りは、状況設定から葛藤へと移るところです。
ここにふつう〈後戻りできない出来事〉が来ます。
「正義は勝つ」ストーリーなら、主人公が(悪党に苦しめられている人を思わず助けたりして)悪党サイドから敵と認識され、これ以後戦わざるを得なくなる出来事がこれに当たります。
〈なか〉と〈おわり〉の間の仕切りは、葛藤から解決へと移るところです。
ここにふつう〈クライマックス〉が来ます。
「正義は勝つ」ストーリーなら、ぎりぎりまで追い詰められていた主人公が最後の切り札で不利な形勢を一気に逆転するところがこれに当たります。
まとめるとストーリーに最低必要な要素は以下のようになります。
あなたが考えてきた(暖めてきた)ストーリーについて、この表を埋めてみましょう。
ストーリーを考える順序
これでストーリーに最低限 必要な要素が揃いました。
ストーリーが最初から最後まで丸ごと「降ってくる」場合もありますが、ここでははじめての人がストーリーを作る場合に何から手をつけていけばいいかを考えます。
これまでは、大枠では誰もが知っている「正義が勝つ」というお決まりなストーリーを例にしましたが、いろんなストーリーに使えることを示すために(アリストテレスはギリシャ悲劇を念頭においていました)、別のものを考えましょう。
ステップ1:テーマを決める
ポール・マザースキーが監督・脚本した『結婚しない女』(1978年)という映画は、ぶっちゃけていえば「女性の精神的自立」をテーマにしたものです。
(テーマ)女性の精神的自立
ここでいうテーマとは、作品に込めた思想的主張みたいなものではなく「要するに何の物語か?」という問いに対する答えのことです。
ステップ2:結末を決める
テーマが決まれば結末は決まります。
「正義が勝つ」をテーマにしたストーリーの結末は、「正義サイドの主人公が勝利し、悪党どもを退ける」でした。
「女性の精神的自立」をテーマにした『結婚しない女』では、結末は「主人公の女性が精神的に自立する」となります。
(結末)主人公の女性が精神的に自立する
ステップ3:発端を決める
ストーリーの発端は、結末とは落差のあるものにすべきです。
マザースキーは、結末と対照的な「幸せそうな結婚生活」を発端に選びました。
(発端)主人公の女性は幸せそうな結婚生活をおくっている
ステップ4:切替え1(後戻りできない出来事)を考える
「幸せそうな結婚生活」が続くだけではストーリーは進まず、当然結末にも至りません。
マザースキーは、「幸せそうな結婚生活」をぶち切り、否応なく主人公を葛藤に追い込む出来事を用意しました。
夫は実は別の女と付き合っていて、ある時主人公に離婚してくれと泣いて頼むのです。離婚するしないに関わらず、今までのような「幸せそうな結婚生活」を続けていくわけにいかなくなります。
(後戻りできない出来事)夫は浮気しており、主人公に離婚してくれと泣いて頼む
ステップ5:切替え2(クライマックス)を考える
『結婚しない女』の主人公は結局、夫に愛想をつかし、別れることを決めます。しかし主人公は夫と別れた後、新しい生活になかなか馴染めず、主治医に相談したり、精神科医に相談したり、何人かの男とつきたったりとうだうだします。葛藤のフェイズです。
結論を早く言え、と言ってはいけません。
夫と別れた、はい、自立した、ではストーリーがいきなり終わってしまいます。結論にすぐに飛びつくと、ストーリーが続きません。
この「うだうだ」こそがストーリーの胴体であり、これなしには幼児が描くような「頭足人」なストーリーになってしまいます。
しかし、うだうだしたままだと、結末に至りません。もう一度、ストーリーの流れを切替え、葛藤から解決へと移る出来事が必要です。そしてこれがストーリーが最も盛り上がるクライマックスとなります。
『結婚しない女』では、主人公が付き合った男のうち、いちばんましそうなのが主人公といい仲になります。彼は主人公を本気で愛して、結婚を申し込みます。ちょっと待って、結婚しない女なのに結婚しちゃうの?というところでストーリーの流れは切り替わり、(おわり)解決へと入って行きます。
(クライマックス)主人公を本気で愛する男が結婚を申し込む
ステップ6:もういちど結末を整える
結末は最初に決めたとおり、
(結末)主人公の女性が精神的に自立する
です。
主人公は、求婚してきた男を憎からず思っていますが、一人で生きることを選びます。男も(なにしろましそうな人ですから)彼女の選択を尊重し、彼女にあるものを残して別れを告げます。エンディングです。
これでストーリーに最低必要な要素が決まりました。
もちろん実際のストーリーはもっと詳細なものですが、最初にストーリーを形にするときに、あるいは細部を考えているうちに煮詰まってきた場合に立ち戻って全体を見直すときなど、もっともシンプルなこのフォーマットは便利です。
以下では、さらに詳しくストーリーをつくっていくやり方を考えます。
〈なか〉(葛藤)は何でできているか?
ストーリーの3つのパートのうち、最も長いのが〈なか〉(葛藤)のパートです。
まずはこの〈なか〉(葛藤)を、より具体的につくっていくことを考えましょう。
葛藤は辞書にあるように、対立する二つのものからできています。
ストーリーの中の葛藤は、おおざっぱに言えば、結末へと進む出来事(前進事象)と、その反対のもの(進むのを邪魔したり、事態を後戻りさせようとしたりする出来事や制約:停滞後退事象)という、対立する2種類の出来事ができています。
再びわかりやすい「正義は勝つ」ストーリーでいえば、例えばこんなかんじです。
恋愛モノなら、A.前進事象には2人の仲が深まる出来事(一緒に危ない目にあう、共通の秘密を持つ、嵐で足止め、焚き火を飛び越えるなど)、B.停滞後退事には2人の仲が離れる(心が冷める、距離が離れる、ライバルの出現など)といった感じです。
〈なか〉(葛藤)のパートを具体的に考えるためには、
(1)まずはA.前進事象とB.停滞後退事象を使えるかどうかは最初はこだわらず、できるだけ多く考え出してみる(ブレインストーミング)。
(2)A.前進事象とB.停滞後退事象のそれぞれについて、些細なものからより重大なものへ順に並べてかえる(ソーティング)。
→つまり一番最後に最大のA.前進事象とB.停滞後退事象が来るように配列してみます。
(3)その後、ストーリーの整合性を考えながら、些細なものからより重大なものへ順にA.前進事象とB.停滞後退事象を互い違いに並べる(オルタネイティング)。
→つまりABABABA……と積み重ねるうちに、段々と前進と停滞/後退の幅が大きく、アップダウンが激しくなっていくようにするのです。
こうして、行きつ戻りつの「うだうだ」を続けて、クライマックスに向けて次第に緊張感が増すようにできるかを考えるといいでしょう。
我々はストーリーをあまり早く終わらせたくないので、ストーリーを引き止めるB.停滞後退事象は重要です。これは主人公の前進を押し返すマイナスの出来事でもありましたが、出来事の他に主人公等に課せられる制約である場合もあります。
たとえばベタな例ですが時限爆弾などは、時間が来れば爆発するので主人公を引き止めている訳ではありませんが、その行動に制約を課して物語に緊張をもたらすものです。
ストーリーを具体化することは、どのような停滞後退の出来事と制約を持ち込むかにかかっている、とさえ言えます。
ストーリーをどう進めたらよいか迷ったら、どうせき止めることができるか(どんな障害・制約を持ってこれるか)を考えるとよいです。
〈はじめ〉(状況設定)は何でできているか?
はじめ(状況設定)の役割は、ストーリーについてまだ何も知らない読み手/受け手に、ストーリーの前提を伝えることです。
世界観や登場人物がどういったものかを伝える訳ですが、設定表を読み上げるわけにもいかないので(ナレーションで説明する手はありますが)、できれば登場人物の行動から分かるようにしたいところです。
とくに主人公が何をしたいと思っているかは重要です。
先に〈なか〉(葛藤)を説明したときに、停滞後退の出来事や制約が大切だといいましたが、ある事柄は障害になったり制約になったりするのは、登場人物の行動に欲望という方向性が示されてこそです。
たとえば大きな川は単なる水の流れですが、「向こう岸に渡りたい」という欲望を登場人物が抱いているなら、立派な制約になります。
しかし欲望というものは出来事でも行動でもありません。ぶっちゃけ欲望は、それ自体ではカメラに写らないし描くこともできません。
ナレーションかセリフで語ってもらう以外には、行動で示すしかありません。
行動という目に見えるもので、欲望という目に見えないものを表現するにも〈制約〉を使います。
たとえば今の「川を渡りたい」という欲望を示したい場合、主人公が渡し舟を頼み、さらに断られても食い下がり、渡す条件として難題をふっかけられても引き受けるのならば、どうでしょう?
つまりよりわかりやすい障害や制約を置いて、しかしそれらに邪魔されてもあきらず欲望実現に向かうという行動によって、欲望の方向と大きさを示すことができます。
つまり説明にできるだけ頼らず状況設定を示すためにも、障害や制約が使えます。
ストーリーづくりは制約をデザインすること
こうしてみると、全体についても一部分についても、ストーリーをつくることは、うまく制約や障害を配置することにかかっています。
制約や障害は、登場人物の外から課せられるものもあれば、人物が内に抱えるもの(弱点や無能力)もあります。
状況や登場人物の設定をする場合、どんな制約が利用可能かを考えておくとよいでしょう。具体的にリストアップしておくとストーリーを具体化する際に助かります。
もしも制約が少なすぎるなら、ストーリーはうまく進まず行き詰ってしまうでしょう。
メアリー・スーではありませんが、外的にあらゆる好条件にめぐまれ、内的にあらゆる面で有能で自分ひとりであらゆることをやってのけ何でも解決してしまう登場人物は、ストーリーの進行に役立たず、作品が未完のまま放置される原因にすらなります。
ストーリーは相反するものによって支えられます。
「正義は勝つ」というストーリーの大半がその正反対である「悪がのさばる」場面で埋められるように、ストーリーを前に進めるためには、制約や障害という邪魔をしたり事態を後戻りさせようという否定的な要素が不可欠なのです。
ストーリーが進む方向が決まれば、障害や制約を挟んで流れをせき止めることで、緊張感が生まれ、ストーリーは具体化していきます。
には、ストーリー作りにつかえる制約(カセ)の一覧があります。
(その他の参考文献)
ハリウッド系三幕構成の基本書にして初邦訳本の原著。
訳書は1991年『『シナリオ入門』 別冊宝島144』の前半として出たが、絶版後にプレミア化していたものが2012年に以下の本として出版され入手しやすくなった。
〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の3幕構造を、物語論(ナラトロジー)の成果なども採り入れた13のフェイズを提案している。
A.主人公が最初やらなかったことをやろうと思うための出来事(この記事でいう前進事象)とB.主人公がやっぱりやらないと思うための出来事(この記事でいう停滞後退事象)を重ねてドラマを作る方法の提案など、難しくなる選択肢をとことん落として初めてでも簡単にシナリオが書ける方法を提供する。8日間でシナリオが書けるチャートつき。
今回は、小説だけでなくマンガでも映画でも共通するストーリーをつくることに焦点をあわせて、なるべくわかりやすく説明してみます。
ストーリーは最低3つのパートからできている
当たり前のことからはじめましょう。
世界最初の創作論(『詩学』)を書いたアリストテレスは、ストーリーは〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の3つでできているといいました。
詩学 (岩波文庫) アリストテレース,ホラーティウス,松本 仁助,岡 道男 岩波書店 売り上げランキング : 66311 Amazonで詳しく見る |
というのも、ストーリーは、
・始まったら必ず終わらなくてはならない→〈はじめ〉から〈おわり〉へ
・しかしいくらか続かなくてはならない→ある程度の長さがある=〈なか〉が必要
からです。
ストーリーには変化(落差)が必要
ストーリーには変化が必要です。
たとえば、いくら「正義は勝つ」というストーリーをつくりたいからといって、最初から最後まで「正義の味方が圧倒的な力で悪党をやっつける」というのが延々と続くと、ストーリーになりません(むしろ悪党に同情したくなります)。
さらにまずいことがあります。最初から悪党をやっつけ続けると、悪党が悪党らしい場面がまったく出てこなくなります。姿形を悪党っぽくしたり、ナレーションで「こいつは悪党です。悪党だからボコボコにされても当然です」と説明することはできても、それでは説得力がありません。
どうすればいいのでしょう?
素直に考えれば「正義の味方が悪党をやっつける」のは〈おわり〉だけにして、他のパートではむしろ「正義よりも悪党が優勢」「悪党が悪の限りを尽くす」ようにすればよいのです。
つまり「正義は勝つ」というテーマをもつストーリーの大半は、その正反対である「悪がのさばる」場面で埋められることになります。
流れがないと、ストーリーは単なる状況の寄せ集めになります。
逆にストーリーが進む方向が決まれば、あとで見るように、障害や制約を挟んで流れをせき止めることで、緊張感が生まれ、ストーリーは具体化していきます。
3つのパートの役割
ストーリーは3つのパートからできている、といいました。
では、それぞれのパートはどんな役割を持つのでしょうか。
〈はじめ〉は状況設定を受け持ちます。
ストーリーがゼロからはじまります。読み手/受け手は、このストーリーについて何も知りません。
なので どんな奴が登場して、そいつは何をしたいと思っているのか、あるいは何が起こるのを恐れているのか、などストーリーの前提になることが〈はじめ〉のパートでは示されます。
〈なか〉はストーリーの持続を受け持ちます。
〈はじめ〉では、主人公が何をしているかがわかりました。しかし、主人公の望みがいきなり実現しては、ストーリーがすぐに終わってしまいます。
ストーリーが続くためには、主人公が望みを実現するためにいろいろする、しかし障害や妨害があって、なかなか先へ進まないことが必要です。
大切なことなのでもう一度言います。
ストーリーとは主人公が繰り返しひどい目にあうことで大半が構成されるのです(作者と主人公が自己愛で結ばれていると、このことを忘れがちです)。
つまりストーリーの持続は、欲望実現のための行動と障害との葛藤で構成されます。
〈おわり〉はストーリーの結びです。〈なか〉でつづいた葛藤が解決・解消されるところです。
無事に解決・解消されることで、ストーリーがきっちり終わります。うまくいくと「よいストーリーだった」感じが読み手・受け手に残ります。
3つのパートの切替え
では、3つのパートは何で仕切られているのでしょう。
〈はじめ〉と〈なか〉の間の仕切りは、状況設定から葛藤へと移るところです。
ここにふつう〈後戻りできない出来事〉が来ます。
「正義は勝つ」ストーリーなら、主人公が(悪党に苦しめられている人を思わず助けたりして)悪党サイドから敵と認識され、これ以後戦わざるを得なくなる出来事がこれに当たります。
〈なか〉と〈おわり〉の間の仕切りは、葛藤から解決へと移るところです。
ここにふつう〈クライマックス〉が来ます。
「正義は勝つ」ストーリーなら、ぎりぎりまで追い詰められていた主人公が最後の切り札で不利な形勢を一気に逆転するところがこれに当たります。
まとめるとストーリーに最低必要な要素は以下のようになります。
はじめ(状況設定) | |
切替え1(後戻りできない出来事) | |
なか(葛藤) | |
切替え2(クライマックス) | |
おわり(解決) |
あなたが考えてきた(暖めてきた)ストーリーについて、この表を埋めてみましょう。
ストーリーを考える順序
これでストーリーに最低限 必要な要素が揃いました。
ストーリーが最初から最後まで丸ごと「降ってくる」場合もありますが、ここでははじめての人がストーリーを作る場合に何から手をつけていけばいいかを考えます。
これまでは、大枠では誰もが知っている「正義が勝つ」というお決まりなストーリーを例にしましたが、いろんなストーリーに使えることを示すために(アリストテレスはギリシャ悲劇を念頭においていました)、別のものを考えましょう。
ステップ1:テーマを決める
ポール・マザースキーが監督・脚本した『結婚しない女』(1978年)という映画は、ぶっちゃけていえば「女性の精神的自立」をテーマにしたものです。
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(テーマ)女性の精神的自立
ここでいうテーマとは、作品に込めた思想的主張みたいなものではなく「要するに何の物語か?」という問いに対する答えのことです。
ステップ2:結末を決める
テーマが決まれば結末は決まります。
「正義が勝つ」をテーマにしたストーリーの結末は、「正義サイドの主人公が勝利し、悪党どもを退ける」でした。
「女性の精神的自立」をテーマにした『結婚しない女』では、結末は「主人公の女性が精神的に自立する」となります。
(結末)主人公の女性が精神的に自立する
ステップ3:発端を決める
ストーリーの発端は、結末とは落差のあるものにすべきです。
マザースキーは、結末と対照的な「幸せそうな結婚生活」を発端に選びました。
(発端)主人公の女性は幸せそうな結婚生活をおくっている
ステップ4:切替え1(後戻りできない出来事)を考える
「幸せそうな結婚生活」が続くだけではストーリーは進まず、当然結末にも至りません。
マザースキーは、「幸せそうな結婚生活」をぶち切り、否応なく主人公を葛藤に追い込む出来事を用意しました。
夫は実は別の女と付き合っていて、ある時主人公に離婚してくれと泣いて頼むのです。離婚するしないに関わらず、今までのような「幸せそうな結婚生活」を続けていくわけにいかなくなります。
(後戻りできない出来事)夫は浮気しており、主人公に離婚してくれと泣いて頼む
ステップ5:切替え2(クライマックス)を考える
『結婚しない女』の主人公は結局、夫に愛想をつかし、別れることを決めます。しかし主人公は夫と別れた後、新しい生活になかなか馴染めず、主治医に相談したり、精神科医に相談したり、何人かの男とつきたったりとうだうだします。葛藤のフェイズです。
結論を早く言え、と言ってはいけません。
夫と別れた、はい、自立した、ではストーリーがいきなり終わってしまいます。結論にすぐに飛びつくと、ストーリーが続きません。
この「うだうだ」こそがストーリーの胴体であり、これなしには幼児が描くような「頭足人」なストーリーになってしまいます。
しかし、うだうだしたままだと、結末に至りません。もう一度、ストーリーの流れを切替え、葛藤から解決へと移る出来事が必要です。そしてこれがストーリーが最も盛り上がるクライマックスとなります。
『結婚しない女』では、主人公が付き合った男のうち、いちばんましそうなのが主人公といい仲になります。彼は主人公を本気で愛して、結婚を申し込みます。ちょっと待って、結婚しない女なのに結婚しちゃうの?というところでストーリーの流れは切り替わり、(おわり)解決へと入って行きます。
(クライマックス)主人公を本気で愛する男が結婚を申し込む
ステップ6:もういちど結末を整える
結末は最初に決めたとおり、
(結末)主人公の女性が精神的に自立する
です。
主人公は、求婚してきた男を憎からず思っていますが、一人で生きることを選びます。男も(なにしろましそうな人ですから)彼女の選択を尊重し、彼女にあるものを残して別れを告げます。エンディングです。
これでストーリーに最低必要な要素が決まりました。
もちろん実際のストーリーはもっと詳細なものですが、最初にストーリーを形にするときに、あるいは細部を考えているうちに煮詰まってきた場合に立ち戻って全体を見直すときなど、もっともシンプルなこのフォーマットは便利です。
以下では、さらに詳しくストーリーをつくっていくやり方を考えます。
〈なか〉(葛藤)は何でできているか?
ストーリーの3つのパートのうち、最も長いのが〈なか〉(葛藤)のパートです。
まずはこの〈なか〉(葛藤)を、より具体的につくっていくことを考えましょう。
葛藤は辞書にあるように、対立する二つのものからできています。
ストーリーの中の葛藤は、おおざっぱに言えば、結末へと進む出来事(前進事象)と、その反対のもの(進むのを邪魔したり、事態を後戻りさせようとしたりする出来事や制約:停滞後退事象)という、対立する2種類の出来事ができています。
再びわかりやすい「正義は勝つ」ストーリーでいえば、例えばこんなかんじです。
A.前進事象 | B.停滞後退事象 |
主人公がパワーアップする 主人公に仲間が増える 主人公が重要なアイテムを手に入れる 主人公が中ボスに勝つ | 主人公の仲間が倒れる、また離反する 主人公が一時的に負けたり死にかける 敵の方がパワーアップする 敵の方に仲間が増える 敵の方が重要なアイテムを手に入れる |
恋愛モノなら、A.前進事象には2人の仲が深まる出来事(一緒に危ない目にあう、共通の秘密を持つ、嵐で足止め、焚き火を飛び越えるなど)、B.停滞後退事には2人の仲が離れる(心が冷める、距離が離れる、ライバルの出現など)といった感じです。
〈なか〉(葛藤)のパートを具体的に考えるためには、
(1)まずはA.前進事象とB.停滞後退事象を使えるかどうかは最初はこだわらず、できるだけ多く考え出してみる(ブレインストーミング)。
(2)A.前進事象とB.停滞後退事象のそれぞれについて、些細なものからより重大なものへ順に並べてかえる(ソーティング)。
→つまり一番最後に最大のA.前進事象とB.停滞後退事象が来るように配列してみます。
(3)その後、ストーリーの整合性を考えながら、些細なものからより重大なものへ順にA.前進事象とB.停滞後退事象を互い違いに並べる(オルタネイティング)。
→つまりABABABA……と積み重ねるうちに、段々と前進と停滞/後退の幅が大きく、アップダウンが激しくなっていくようにするのです。
こうして、行きつ戻りつの「うだうだ」を続けて、クライマックスに向けて次第に緊張感が増すようにできるかを考えるといいでしょう。
我々はストーリーをあまり早く終わらせたくないので、ストーリーを引き止めるB.停滞後退事象は重要です。これは主人公の前進を押し返すマイナスの出来事でもありましたが、出来事の他に主人公等に課せられる制約である場合もあります。
たとえばベタな例ですが時限爆弾などは、時間が来れば爆発するので主人公を引き止めている訳ではありませんが、その行動に制約を課して物語に緊張をもたらすものです。
ストーリーを具体化することは、どのような停滞後退の出来事と制約を持ち込むかにかかっている、とさえ言えます。
ストーリーをどう進めたらよいか迷ったら、どうせき止めることができるか(どんな障害・制約を持ってこれるか)を考えるとよいです。
〈はじめ〉(状況設定)は何でできているか?
はじめ(状況設定)の役割は、ストーリーについてまだ何も知らない読み手/受け手に、ストーリーの前提を伝えることです。
世界観や登場人物がどういったものかを伝える訳ですが、設定表を読み上げるわけにもいかないので(ナレーションで説明する手はありますが)、できれば登場人物の行動から分かるようにしたいところです。
とくに主人公が何をしたいと思っているかは重要です。
先に〈なか〉(葛藤)を説明したときに、停滞後退の出来事や制約が大切だといいましたが、ある事柄は障害になったり制約になったりするのは、登場人物の行動に欲望という方向性が示されてこそです。
たとえば大きな川は単なる水の流れですが、「向こう岸に渡りたい」という欲望を登場人物が抱いているなら、立派な制約になります。
しかし欲望というものは出来事でも行動でもありません。ぶっちゃけ欲望は、それ自体ではカメラに写らないし描くこともできません。
ナレーションかセリフで語ってもらう以外には、行動で示すしかありません。
行動という目に見えるもので、欲望という目に見えないものを表現するにも〈制約〉を使います。
たとえば今の「川を渡りたい」という欲望を示したい場合、主人公が渡し舟を頼み、さらに断られても食い下がり、渡す条件として難題をふっかけられても引き受けるのならば、どうでしょう?
つまりよりわかりやすい障害や制約を置いて、しかしそれらに邪魔されてもあきらず欲望実現に向かうという行動によって、欲望の方向と大きさを示すことができます。
つまり説明にできるだけ頼らず状況設定を示すためにも、障害や制約が使えます。
ストーリーづくりは制約をデザインすること
こうしてみると、全体についても一部分についても、ストーリーをつくることは、うまく制約や障害を配置することにかかっています。
制約や障害は、登場人物の外から課せられるものもあれば、人物が内に抱えるもの(弱点や無能力)もあります。
状況や登場人物の設定をする場合、どんな制約が利用可能かを考えておくとよいでしょう。具体的にリストアップしておくとストーリーを具体化する際に助かります。
もしも制約が少なすぎるなら、ストーリーはうまく進まず行き詰ってしまうでしょう。
メアリー・スーではありませんが、外的にあらゆる好条件にめぐまれ、内的にあらゆる面で有能で自分ひとりであらゆることをやってのけ何でも解決してしまう登場人物は、ストーリーの進行に役立たず、作品が未完のまま放置される原因にすらなります。
ストーリーは相反するものによって支えられます。
「正義は勝つ」というストーリーの大半がその正反対である「悪がのさばる」場面で埋められるように、ストーリーを前に進めるためには、制約や障害という邪魔をしたり事態を後戻りさせようという否定的な要素が不可欠なのです。
ストーリーが進む方向が決まれば、障害や制約を挟んで流れをせき止めることで、緊張感が生まれ、ストーリーは具体化していきます。
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には、ストーリー作りにつかえる制約(カセ)の一覧があります。
1.時間的なもの | 制限時間、約束の時間、記念日など |
2.秘密性をもつもの | |
(1)その人自信の秘密(人物) | 出生、過去、身分、結社に入っていること、職業、病気、家族関係、くせ、不名誉なもの、知らないこと、年齢 |
(2)人間関係の秘密(人物) | 家族関係、恋愛関係(姦通)、社会的地位、肉親関係、かくし妻、かくし子 |
(3)物の秘密 | お金がない or お金持ちである、借金、へそくり、こわしてしまった(過去)、とってしまった、かくす、落し穴(仕掛け)、宝物、密書、その他 |
(4)場所の秘密 | いる場所(追われるもの、誘拐)、かくし場所 |
(5)状況の秘密 | 家族の事情の秘密、社会の事情の秘密、戦況等の秘密、外界との不連絡 |
(6)行動の秘密 | 作戦の場合、犯人の場合、浮気等の場合、探偵(警察官)等の場合、スパイ、忍者の場合、隠密行動(恋人たち) |
(7)計画上の秘密 | 業務上計画の秘密、仇討ち、復讐等の秘密、喜ばせるための計画の秘密、作戦の秘密(前記「作戦の場合」)、陰謀の秘密、鷺の秘密 |
(8)善意の秘密(多くのホーム・ドラマ) | 突然の喜びのための秘密、相手を傷付けないための秘密、病気等を告げない秘密、他から悪い噂話等をきかせたくないための秘密、善意をもって財産等の秘密 |
(9)他愛ない秘密 | 当人だけが秘密だと思っている秘密、恥になると思っている秘密、知らない秘密、ごまかすための秘密、言いそびれたための秘密 |
(10)肉体の秘密 | その人自身、病気、くせ |
3.場所のカセ | |
(1)特定の場所でなければいけないもの | 勧進帳の安宅の関、ニューヨークのキングコング、ターザンの密林、戦争物の戦地、観光的要素のあるもの(道中記、ローマの休日等) |
(2)固有の場所でないもの | 密室、袋小路、敵軍に包囲されたところ、デコボコ道、交通マヒの街 or 道路、浮揚力を失った潜水艦、脚の出ない飛行機、占領された場所(ハイジャック、海賊)、落磐事故現場、離れた土地と土地、橋、プラットホーム、その他 |
4.人間関係のカセ | 親と子(単数、複数)、兄弟(姉妹・姉弟・兄妹)、伯父と甥(姪)、無医村の医者と村人、医者と患者、教師と生徒、上役と下役、人間と動物、親友、同業者同士、近所同士、村落同士(グループ)、国民同士 (or 指導者と国民)、宗教 (徒党)、弁護士と容疑者、商売人と買い手、世論 (うわさ)、仇同士 (ライバル)、大人と子供、タレントとファン (or マネージャー)、刑事と犯人 |
5.内心のカセ | してはいけないと思うとき、しなくてはならないと思うとき |
6.誤解のカセ | 信頼が失なわれた時、コミュニケーションの悪い時、無知な時 |
7.社会的つながりのあるもの | 仕事、社会的ヒューマニズム (公害等)、社会的圧力、法律、因習 (村八分など)、一般的民衆の考え方 (閉鎖的)、宗教 |
8.約束等によるもの | 約束、デート、遺言、一旦承知してしまったもの、掟 (仲間の規律)、規則、契約、習慣、作業、職業につく |
9.物に関するもの | 貴重品、危険物、人物にとって意味のあるもの、その他災難を招くもの |
10.状況的なもの | 天候 (暴風雨、雨、雪、地震、火事、洪水、ひでり、長雨、暑さ、寒 さ、無視の発生等)、戦争下 (インフレ、デフレ)、社会不安、会社の状況、団体 (宗教)、家族的状況、その人自身の状況 |
11.目に見えないもの | 占い、予言、宗教的な圧力、雰囲気、脅迫、コンピュータの指示、世論、噂、世間体 |
12.肉体的なもの | 肉体的なハンディキャップ、拷問、病気、顔の美醜からのコンプレックス、精神病、無知、性格的なもの、男であること、女であること、飢え、眠れない |
13.その他 | 学問上のカセ、派閥のカセ、つまらないカセ、面白さのためのカセ、心理的なもののカセ (コンプレックス) --- 内心、職業上のカセ、お化け、ものものしさ、威圧 |
(その他の参考文献)
The Screenwriter's Workbook (Revised Edition): Exercises and Step-by-step Instructions for Creating a Successful Screenplay Syd Field Delta Amazonで詳しく見る |
ハリウッド系三幕構成の基本書にして初邦訳本の原著。
訳書は1991年『『シナリオ入門』 別冊宝島144』の前半として出たが、絶版後にプレミア化していたものが2012年に以下の本として出版され入手しやすくなった。
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〈はじめ〉〈なか〉〈おわり〉の3幕構造を、物語論(ナラトロジー)の成果なども採り入れた13のフェイズを提案している。
第1幕 | 1日常 | 主人公の日常と抱えている問題を描く |
2事件 | 出会い、事件によって主人公は日常から引き離される | |
3決意 | 主人公は特異な状況や世界へ飛び込む決意をする | |
第2幕 | 4苦境 | 主人公が苦境に陥る |
5助け | 苦境に陥る主人公を助ける者があらわれる | |
6成長・工夫 | 苦境を経験した主人公は修行や工夫を行い成長のステップを踏み出す | |
7転換 | 成長の成果が得られるなど中間部での喜び | |
8試練 | 新たな力を得た主人公が試練に挑む | |
9破滅 | 主人公は自分の力の及ばない破滅に陥る、一旦どん底を経験する | |
10契機 | 主人公は破滅/どん底の中で変化の契機を得る | |
第3幕 | 11対決 | 変化を遂げた主人公は真の敵と対決する |
12排除 | 主人公はすべての力を駆使して敵を排除する | |
13満足 | 主人公は勝利をおさめ当初の問題も解決。ハッピーエンド。 |
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A.主人公が最初やらなかったことをやろうと思うための出来事(この記事でいう前進事象)とB.主人公がやっぱりやらないと思うための出来事(この記事でいう停滞後退事象)を重ねてドラマを作る方法の提案など、難しくなる選択肢をとことん落として初めてでも簡単にシナリオが書ける方法を提供する。8日間でシナリオが書けるチャートつき。
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