fc2ブログ
     学校で教える内容を増やすとか減らすとかいう話を聞くと、思い出すことがある。

     学校の授業で聞いたことで、今も覚えていることといえば、どれも余計なことばかりだ。
     人間が不真面目にできているせいかもしれないが、意思伝達から冗長さや不要なものを除いていくと、いつしか何も伝わらなくなってしまうんじゃないかと思ってしまう。
     
     以下で紹介するのも、むかし雑談のように聞いて、今も忘れがたく頭の片すみにあるバカ話である。
     


     頭髪的双子の定理

      髪の毛の数がまったく同じ人間が、少なくとももう一人存在する。 




     この主張を調査によって検証するためには、髪の毛の数を数えるという手間のかかる作業を、膨大な人数分繰り返すことが必要である。
     ほとんどの人にとっては不可能であり、また可能な者がいたとしても、この主張の成否を知ることにはあまりにメリットがないので、調査が実施される見込みはほとんどない。
     
     ではこの件は、人類にとって永遠に謎のままなのかといえば、そうではない。
     我々は思考の力によって結論を得ることができる。
     
     まず、この主張の反対を考えよう。
     すなわち「髪の毛の数がまったく同じ人間が一人も存在しない」という主張である。
     この対立主張が成り立たないことを示せば、最初の主張が正しいことを証明できる。
      
     「髪の毛の数がまったく同じ人間が一人も存在しない」と仮定すると、すべての人間が毛の数の少ない順に一列に並べることができることになる。

    line.png



     この列のうち、ひとつ後ろの人間は、ひとつ前の人間よりも、少なくとも1本髪の毛が必ず多いはずである。
     なぜなら「髪の毛の数がまったく同じ人間が一人も存在しない」のだから。
     
     すると、髪の毛が0本の人を先頭にしたとしても、60億人の人間が並んだ列の最後尾には、髪の毛の数が少なくとも60億本の人間が並んでいなければならない。


     しかし人間の頭皮に60億本の髪の毛が生えることはありえない。
     
     というのも、頭髪は頭皮1平方cm当たりおよそ250~400本だから、60億本の髪の毛が生えるためには(頭皮を半球形で近似すれば)、半球の半径をrとすると、

     400(本/cm2)×(1/2)×4πr2=6000000000本

    となるから半球の半径rは

     
     
     つまり60億本の髪の毛が生えるためには、最低でも半径1545cm、直径30mを越える頭を持たなくてはならない。

     こうして「髪の毛の数がまったく同じ人間が一人も存在しない」ことは否定される。
     
     したがって髪の毛の数がまったく同じ人間が、少なくとももう一人存在することが証明された。


    (追記)
     ここで用いられた論法は、数学者のディリクレが1834年にSchubfachprinzip(「引き出し原理」)として述べたもので、鳩の巣原理、下駄箱論法、部屋割り論法などと呼ばれるものである。
     鳩の巣原理という呼び方は、「鳩の数が巣箱の数より多ければ,少なくとも一つの巣箱には 2 羽以上の鳩が入る」というところから来ている。
     数学オリンピックではマストアイテムとも言われ、大学入試問題にもこの論法を使えばきれいに解けるものが頻出する。

     簡単な例題で、この論法の威力を見てみよう。


    (例題)1から10までの整数の中から相異なる6個の整数を選ぶと、それらの中には和が11になる2数が必ず含まれている。このことを示せ。



     力任せにやっても解答にたどり着く。すなわち、1から10までの整数から相異なる6個の整数を選ぶ方法の数は106=210通りだから、これらの210種類をくまなく調べればそれらの中にはすべて和が11となる2数が含まれていることは示せる。

     鳩の巣原理を使うと、もっと少ない手間で済む。すなわち、
     2数の和が11となるペアは{1,10},{2,9},{3,8},{4,7},{5,6}の5個である(これが巣箱である)。
     相異なる6個の整数を選んだとすれば、どんな場合にも、鳩の巣原理により、5種類の巣箱のいずれかに、2個の数字が含まれるものがあるはずである。どの巣箱がそうなろうとも、巣箱の2数は必ず和が11となる2数だから、和が11になる2数が必ず含まれていることになる。 Q.E.D。


    (参考書籍)

    コンピュータサイエンスのための 離散数学入門コンピュータサイエンスのための 離散数学入門
    (1995/03)
    C.L. Liu

    商品詳細を見る


    数学を決める論証力―大学への数学数学を決める論証力―大学への数学
    (2001/09/25)
    福田 邦彦、石井 俊全 他

    商品詳細を見る





     
     


    関連記事
    Secret

    TrackBackURL
    →https://readingmonkey.blog.fc2.com/tb.php/654-95a81c3a