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     地方紙のコラムだかに、作家を名乗る者が

    「図書館は存在自体が著作権違反だ。私の本を図書館に置くな、図書館で読まれたらその分売れなくなる。商売あがったり、だ」

    なる趣旨の文章を書いていた(らしい)。父親に聞いた話だから、少々怪しいが大まかにはそういう趣旨だったらしい。

     なんともセコイ話である。

     おそらくは本音トークなのだろうが、意味するところのなさけなさに気づかないバカ本音である。

     著作権の最近の議論に、優れた作品にpublicが接しやすいことがむしろ重要なのであって、著作権はそういう作品を生み出そうとする作者に対してインセンティブを与えるためのものだというのがある(らしい)。

     著作権と本を読める権利の双方があるとしたら、著作権の方はむしろ「手段」であって、「本を読める権利」の方が「目的」で優先する。
     たとえば作家の遺族が、「相続した著作権」を盾にとって、みんなが読みたいその著作の出版を一切認めない、というのは本末転倒という訳である。
     してみれば、己の著作権を盾に、人々が図書館を通じてその著作に触れる権利を侵害するのは、本末転倒以外の何ものでもない。

     しかし、著作権に関する怪しげな説を持ち出さなくても、このせこさは次のように指摘できる。父曰く、
    「作家なんかしていて、これまで一度も図書館を利用したことがないのか、こいつ」。

     誰も、何も読まずして自ら書き始めることはできない。
     書き手はまず読み手であったはずで、自分で本を購買せず図書館で自分の読書生活のいくらかを過ごしたことのない作家は考えにくい。
     なのに自分の本だけは買えというのはやらずぶったくりである(いうまでもなく、図書館だって金を出して書籍を購入しているのである)。

     もっとも「図書館は存在自体が著作権違反だ」なる品性の卑しい考えをする人間は、最低限の教養を身につけるその程度の読書をもせずに作家になってしまった可能性だってあるが。

     もっと言えば、この作家が使っている文字や単語や日本語文法だって、この作家の発明品でもなければ、この作家が自分の読者にいちいち教えに回ったものでもない。
     この作家は日本語や言語文化に使用料を払っていない(フリーライダー!!)。
     様々な人が教え伝えあった成果に、読み書きをくりかえし人が読みたくなる作品を作りあった成果に、たとえば図書館でお気に入りの作品に出会い読書することの楽しさを知るといった積み重ねの上に、つまりこれら積み重なった言語文化に、この作家はただ乗りしているのである。

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    (参考リンク)

    NHK クローズアップ現代「ベストセラーをめぐる攻防~作家vs図書館~」
    (番組HPから)ベストセラーの大量購入で数億円の売上が阻害されているとする出版社側(「模倣犯」の貸し出し数は、全国で20万件)、対して図書館側は公共性を理由に反論している。自治体の財政難で予算削減が続く中、利用者増を図るためのリクエスト制度で、「知の殿堂」から「ベストセラー重視」へと変質した図書館。

    NHK「クローズアップ現代」に対する図書館の見解(町田市市立図書館)
    →「ベストセラーだけを大量購入している図書館」のように報道された図書館の反論

    メディア検証機構 番組検証結果 クローズアップ現代(NHK)「ベストセラーをめぐる攻防~作家VS図書館」

    日本PENクラブ 著作者の権利への理解を求める声明
    図書館でのベストセラー大量購入を批判し、論争の発端になった声明文

    日本PENクラブ 言論表現委員会シンポジウム「激論! 作家vs図書館 - どうあるべきか -」
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