沖縄には現在、厳密な意味での鉄道はない。それに近い交通機関であるモノレールの路線が一本ある。那覇市内を南北に貫く、沖縄都市モノレール、通称ゆいレールで、2003年8月に開業した。延長12.8キロに15の駅があるので、平均駅間距離は0.9キロという、まさに市内都市型の交通機関だ。
青春18切符などを駆使して日本全国の鉄道を乗って回るようなタイプの人々でも、このモノレールに乗るためにわざわざ沖縄まで飛ぶ人は少ないだろう。ゆえに、これだけ情報が溢れる今日でも、このモノレールの乗車体験記録的なものは意外と少ない。私にとっても久しぶりの訪沖で、前回来た時にはまだこれは影も形もなかった。 というわけで、特に下調べもせず、那覇空港に降り立った。空港ターミナルビルからモノレールの駅までは1分とかからない。ターミナルビルとモノレール駅の位置関係は、大阪伊丹空港と似ているが、それ比べて二回りはスケールが小さく、乗り換えは楽で利用しやすい。 駅に着いて最初に驚いたのが、駅の小ささ。沖縄の表玄関である空港駅なのに、自動券売機は3台しかなく、自動改札も同じく3台。こんな規模で、大型機が続々発着する航空旅客をさばけるのであろうか。その小さな改札口の横に、日本最西端の駅の記念碑が壁に埋め込まれており、観光客がその前で記念写真を撮っている。 1人分の幅しかない細いエスカレータを使って島式のホームへ上がると、意外感は増した。モノレールは何とたったの2輛編成。それも小ぶりな車輛で、1輛の大きさは、東京モノレールのそれよりも小さいと思われる。そして時刻表を見ると、日中は10分に1本の運転、これも思ったより少ない。スケールは小さいものの、新しいので、本土の都市の交通機関との共通点が多く、自動券売機や自動改札、ホームドアなどの駅設備なども、沖縄ならではのローカル性は感じられない。 沖縄は離島とはいえ、那覇を中心とした地域は昔から都市化が進んでおり、人口も多く、道路の渋滞も激しい、それなりの都市である。だからこそ建設されたモノレールでもあり、それなりの利用者はいるはずである。将来を見越してホームが長いかというと、1輛増結の3輛ぐらいが限度という駅構造であった。あとは本数増で補うのだろうか。あるいは、そこまでの需要増大は見込めないのだろうか。 那覇空港10時30分発の首里行に乗る。飛行機の客がどっと押し寄せていないので、適度に席が埋まる程度で、立ち客はいない。先頭と最後尾は、運転席の展望を楽しめる特等席で、後はロングシート車である。ワンマン運転で、車掌はいない。 発車すると、右手に空港とモノレールの車輛基地を、そしてその先は自衛隊基地を見ながら進む。基地の向こうに海を見ながらぐるりと左へ曲がると、最初の駅、赤嶺に着く。この一駅は2キロ近くあり、他区間に比べると格段に長いが、それでも歩けてしまう距離だ。 赤嶺は、日本最南端の駅として知られ、右手の駅前広場にその碑がある。空港からこんなに近いのに、ここまで来るとすっかり住宅地で、特に駅の左手は、新旧のマンションが林立している。本土とは雰囲気の違う建物も多く、東南アジアの都市に来たような印象を受ける。都心に出かけるらしい、このあたりの住人らしき客が数名乗ってくる。 赤嶺の次の小禄は、駅直結で左手にショッピングセンターがあり、ジャスコやユニクロなどが見える。その周囲はやはり住宅地で、中層ぐらいのマンションが多い。次が奥武山公園で、文字通り、左手は広い公園で、遠く海もちらりと見えているが、右手はやはり密集した市街地で、那覇の人口密度の高さがわかる風景が続く。奥武山公園から、久茂地川に沿って少しばかり良い眺めが続く。壷川、旭橋と、行くに連れて都心に近づく感じになり、ホテルやオフィスビルも増え、その都市的景観の中を進む。各駅ともある程度の乗降客がある。 次が県庁前。JRの時刻表には「県庁所在地駅」というのがあるが、沖縄にはそういったものは無さそうである。しかしモノレールの駅の中からしいてこれを指定するなら、この駅になりそうだ。文字通り、県庁に近いだけでなく、観光客向けの銀座のような国際通りも、この駅からすぐである。駅の規模はどこも同じで小さいが、駅自体がモダンなビルに囲まれており、いかにも近代都市らしい。乗降客も他より多いようである。 ここから飲食街などを見ながら次の美栄橋、そして国際通りの終端に接する牧志と停まってゆく。駅間距離はどこも短く、ちょっと走ってはすぐ停まる。写真左は美栄橋駅からの眺め。運転手は働き者で、駅に停まるたびに窓から外を乗り出して安全確認をし、ホームの案内放送をする。 牧志のあたりは、モノレールは西から東へ走っている。国際通りをはじめとした中心街は、流石にモノレールを敷設できなかったが、それらへのアクセスを少しでも良くするための苦心のルート設定の結果であろうか。そのため、牧志を出ると、ぐるりと半円を描くようにして急カーヴで90度以上に向きを変え、進路を北へと取る。次の安里まで、駅間距離は、かなり短いが、両駅間の直線距離はさらに短く、間にビルが無ければ、すぐ近くに次の駅が見える筈である。実際、後でこの2駅間を線路に沿わずに歩いてみたが、5分とかからなかった。 安里あたりで、また商業地域から住宅地へと移り変わった感じがするが、次のおもろまちという面白い名前の駅は、またモダンなビルが並ぶ。ここは乗降客が多い。このあたりは那覇新都心として開発が進んでいる地区で、おもろまちの駅周辺にはブランドショップなど、若者をひきつけるようなモダンなアウトレットが多い。 おもろまちを過ぎると、また住宅地となる。全線高架で高い所を走るモノレールからの眺めは抜群で、左手は丘陵地の中腹までびっしりと住宅で埋め尽くされている様子が良くわかる。右手はここより低い土地で、そちらもずっと住宅で埋まっている。次の古島は、地元住民の利用が殆どと思われる、比較的地味な駅だ。ここを出るとまた右へ角度を変えて、文字通り、右手に病院がある市立病院前に着く。このあたり、モノレールはひときわ高い高架で進み、両側の眺めが素晴らしい。写真左下は市立病院前駅から左側の丘陵地を望んだもの。 市立病院前の次は、沖縄らしい地名の儀保だ。儀保は、直線距離では首里城に一番近く、ここから歩く観光客もいるらしい。そしてさらに進むと、終点の首里。終着駅まで乗った乗客も多く、全線に渡り、良い乗車率であった。 首里は、世界遺産の首里城への入口であるが、駅付近に観光地らしい雰囲気は稀薄で、オフィスビルや住宅、コンビニに学習塾などが混然と存在している。モノレールの線路は駅の先で途切れているが、延伸の計画もあるという。 全線乗車の印象としては、他都市のモノレールも同様だが、とにかく景色が素晴らしい。那覇という都市の様子が手に取るようにわかる。残念ながら海は僅かしか見えないが、この沿線は沖縄でも一番の密集地帯であり、自然美とは縁が薄い。そういう場所だからこそモノレールが建設されたとも言える。特に印象的なのは首里に近い北東部で、丘陵地にびっしりと住宅がへばりついた眺めは圧巻であった。首里城へ行く観光客はともかく、那覇に用事があって飛行機で来る人の多くは、南西側の半分しか乗らないと思うが、一度は全線乗車をお勧めしたい。
by railwaytrip
| 2007-11-17 10:30
| 九州・沖縄地方
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