「僕にインタビューなんて珍しいですね」
「天才にはない、努力者の特権があるんです」ハライチ澤部に聞く“才能がない人の戦い方”
新R25編集部
どんな組織にも、カリスマ的な存在っていますよね。
仕事で“自分は天才じゃないんだな…”と日々痛感させられている筆者も、「カリスマ的な才能の持ち主になりたかった」と思ってしまうときがあります。
このやりきれない劣等感を乗り越えるには、どうしたらいいんでしょうか…。
そんな悩みを解決するために、日々天才と向き合っているこの方にお話を聞きました。
【澤部 佑(さわべ・ゆう)】1986年、埼玉県生まれ。2005年、相方・岩井勇気とお笑いコンビ「ハライチ」を結成。ツッコミ担当。2009年『M-1グランプリ』(テレビ朝日)での決勝進出をきっかけに注目を浴び、バラエティ番組『ピカルの定理』(フジテレビ系)のレギュラーに抜擢。お笑いタレントとしてだけでなく、俳優としても幅広く活動している
ハライチ・澤部佑さん。
ネタを書いている相方・岩井さんのマルチな才能がどんどん開花していく一方で、澤部さんが抱えているリアルな感情とは…?
〈聞き手=福田啄也/文=ほしゆき〉
劣等感と共存しながら、「自分だけのポジション」をつくれるかが鍵
福田
ここ最近はエッセイ本を出版したり、音楽活動もはじめたりしている岩井さんの“尖った才能”がかなり注目されていますよね。
これまではむしろ「ハライチといえば澤部」と言われていたなか、その関係が逆転してきた印象です。
岩井さんの活躍に焦ったり、嫉妬したりすることはないんですか?
澤部さん
岩井みたいな「何かを生み出す才能」への劣等感はありますよ。
昔から、劣等感がたびたび波のように押し寄せてきます。
岩井は誰にも気を遣わず尖った発言をするし、スタッフさんたちが「岩井さんやっぱすごいな…!」って感嘆しているのを見ると、「うわぁ…いいよなぁ。才能だよなぁ」と思います。
「“岩井コンプレックス”はもちろんありますよ…」
福田
その気持ち、めちゃくちゃよくわかります…!
才能ある同僚が賞賛されているのを見ると、「自分はああなれない…」と思ってしまうんですけど…その劣等感とは、どうやって折り合いをつけているんですか?
澤部さん
「折り合いをつけている」というよりは、劣等感と「共存している」に近いかもしれないですね。
うらやましい気持ちはなくならないけど、それに支配はされることは、ようやくなくなった感じ。
福田
どうやってその境地に達したんですか?
澤部さん
「自分がいないと成り立たない」と思えるポジションをつくれるかどうかが大事なんだと思います。
どんなチームにも、「地味だけどこの人がいなかったら崩壊する」ってポジションがあるじゃないですか。
褒められることも滅多にないけど、「俺がいなきゃ成り立たないもんな」って自分で思えるポジションがあるから、落ち着いていられるのかなぁ。
福田
ふむ…。ただ、それはまわりから実力を認められてないと難しいかもしれませんね…
澤部さん
“自分だけの錯覚”でも、劣等感は消えますよ。
インタビューを受けているとき、岩井はピリッとした態度で相手を萎縮させることがあるんですが、僕が「ほら、あの面白い話あったじゃん?」って振って和ませたりするんです。
そういうときに、「岩井さん、僕がこの場の空気をよくしてますよ~! コンビの印象をよく保ってますよ~!」って思ってます。
岩井は「そんなの知らねえよ」って言うと思いますけど(笑)。
辛辣だけど想像できてしまう
澤部さん
どんなすごい人にも…、たとえばビル・ゲイツにもきっと右腕がいて「その人がいるから天才が成り立つ」のかもしれない。
そう考えると、劣等感は消えないけど、僕らみたいな生き方も救われる気がしますよね。
「澤部は実態のない無」と言われているけど…? 才能がない人の戦い方
福田
以前のインタビューで、岩井さんから「澤部はどこかで見たものを吸収してアウトプットするのがうまいだけで、実体のない無」とか言われていましたよね。
やっぱり突出した能力がないと、そういう見られ方をするんだ…と僕自身もグサっときたんですけど…
澤部さん
あ~~、「澤部」でエゴサーチすると上位に出てくる、あの記事ね…!
澤部さん
僕も読んでショックを受けましたし、足先から自分がサラサラ消えてく感覚がありました。
福田
サラサラと。
最近は、岩井さんから「ネタを書かない澤部は、漫才師ではなく“ネタ受け取り師”」と言われてさらに傷ついているそうです
澤部さん
「実態がない」って表現は正しいかもしれないですね(笑)。
岩井は我が道を信じて貫いてきたタイプですけど、僕はなんでも先輩たちのマネをしたり、アドバイスを受け入れたり、言われた通りに実践してきたタイプなので。
ただ、僕みたいな人間は「実態」なんてないほうがいいと思うんですよ。
ツッコミがまさにそうです。
福田
澤部さんのツッコミといえば、ハライチの漫才に欠かせない個性的なアレですよね。
澤部さん
養成所に入ったとき、講師の方から「先輩の芸をよく観察してノートに書け」って教えられたんです。
僕は三村さん(さまぁ~ず)のツッコミが好きだったので、三村さんが出ている番組を全部見て、ノートにひたすらツッコミを記録していたんですよね。
福田
そんな努力をしてたんですか…!
澤部さん
実はテレビに出るようになってから、三村さんの話し方や「おい!」のテンションをかなり寄せていて。
そしたらあるとき…三村さん本人に「俺のツッコミ、全部澤部みたいになってるわ」って言われたんです。
「いや、僕がずっと寄せてたんですけどね!?」
澤部さん
『ピカルの定理』をやっていたときにも、千鳥・ノブさんから「ツッコミが澤部みたいになっちゃう」と言われたり、養成所の同期が自分のツッコミに寄せてるって話を聞いたりして…
三村さんの型を自分のキャラに合わせてチューニングしていくうちに、「澤部オリジナル」ができあがっていたのかなぁと。
福田
うわ…それ若手にとってすごく大事な話だ…
新入社員とか「自分自身の色が光って評価されるはずだ」って根拠のない自信を持っている人が多い気がする…
澤部さん
ありますよね! めちゃくちゃわかる。
でも尖った個性がない人がオリジナリティを評価されるためには、愚直にインプットをして学ぶ時間が絶対に必要だと思います。
「言われたことを素直に受け入れて努力する」って地味だけど、武器を見つけるうえでは、やっぱり大切で。
これが“才能のない人の戦い方”なんじゃないかなと。
澤部さんがこんなにいいこと言ってるの初めて聞いたかもしれない(失礼)
「1→100」ができても、結局「0→1」の才能って圧倒的じゃないですか?
福田
ただ、自分の武器を見つけたとしても、結局どこかで「0から1を生み出す天才には敵わない」って壁が出てくるんじゃないですか?
澤部さん
そうっすね~。
だけど生み出された1の可能性をどれだけ広げられるかは、僕らの役割だと思っていて。どっちも絶対に大切なんですよ。
「0→1」は才能者の特権かもしれないけど、「1→100」は努力者の特権。
そう考えると、そこに壁はないんじゃないかな。
澤部さん
バラエティ番組はまさにそうで、作家さんが0から形にしてくださった企画に自分を呼んでいただいて、実際どこまで面白くできるのかを任されてる。
1を100に広げるのはいつも努力だし、「その努力をできる人」はどの業界でも、どの仕事でも求められているはず。
むしろ、そっちの仕事のほうが多い気がします。
福田
確かに、そうですね。
澤部さん
才能の有無で比べちゃう気持ちもすごくわかるし、僕も今でも劣等感にさいなまれる瞬間はあるんですけど…
「求められていることにひたすら徹しつづける姿勢」を貫いていれば、天才との壁はなくなると思います。
岩井さん、届いてますか…
褒められたいから、「拠り所」をぶった切る
福田
やっぱり、ストイックに努力してきたからこそ今があるんですね。
澤部さんは家庭を大事にしてる印象がありますが、やっぱりご家庭では甘えられるとか、そういう支えがあったのが大きかったんでしょうか?
澤部さん
いや、甘えが許されそうな拠り所はぶった切ってました。
澤部さん
もちろん、子どもの顔を見ると癒やされるし、頑張ろうと思うんですけど、仕事で埋まらないプライドを家庭で担保しようとは思わないです。そこだけは。
むしろ、仕事と関係のないところで中途半端に満たされにいかないように、気をつけているかもしれません。
福田
それだと仕事で評価されないとすごく苦しくないですか…?
澤部さん
もちろん。
本当は仕事でも家庭でも…めちゃくちゃ褒められたいんですよ!
「めちゃくちゃ褒められたい」34歳
澤部さん
ただ、自分の実力で評価されてちゃんと褒められるのが、一番気持ちいいじゃないですか。
その“褒め”が欲しいんです。
だから自分の持ち場で実力をつけて、認められるまでやるしかない。
福田
やっぱりめちゃくちゃストイック…!!
澤部さん
結局、仕事の承認欲求は、仕事の世界でしか満たされないんですよね。
だからこそ、本当に評価されたいなら逃げてはいけないかなと。
どうしても自信をなくしたり、弱気になったりしたときには…いつも褒めてくれる千鳥の大悟さんと飲みにいきます(笑)。
福田
澤部さんはこれまで、葛藤しながら、ものすごく考えて戦ってきたんですね…
「天才にはどうやっても敵わない」っていうネガティブをたくさんぶつけてしまったんですが、すごく勇気をもらえました。
澤部さん
いやいやそんな、こちらこそありがとうございます。
…にしても僕にインタビューを依頼してくださるなんて珍しいですね(笑)。
みんな基本は、“生み出す人のスキル”を盗みたいじゃないですか。
福田
うーん、そうですね。
でも0から何かを生み出せる人ってひと握りで、澤部さんの戦い方のほうが、実際に背中を押せる人は多いんじゃないかな…と思うんです。
澤部さん
いやぁなんか、うれしいですね。
今度は岩井も呼んで、「ハライチは、俺がいないと成立しないからな!」とか言ってやりたいです(笑)。
「僕だって…めちゃくちゃ褒められたいんですよ!」と声を張った澤部さんに、「大人だから」と抑え込んでいた自分の気持ちを代弁してもらった気がしました。
そうだよなぁ…大人だって、みんな褒められたい。
特別な才能がなくても、なかなか陽の目を見ない役割でも。
褒められたい欲求を糧に努力を重ねた結果が、「総合力で澤部に勝てる芸人はいない」と言われる信頼と実績につながっている。才能者を「壁」としているのは、いつも自分自身なんですよね。
劣等感を抱いてしまう瞬間があっても、“僕たちなりの戦い方”で、目の前の仕事と向き合っていきましょう。
〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/取材・編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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過去にハライチ岩井さんにインタビューした記事はこちら!
ハライチのネタ・トークライブ『けもの道』が開催決定!
9月21日に、ハライチのライブが開催されます!
ハライチがトークをメインに、漫才も披露。ゲスト出演の予定もあるので、ぜひ最新情報をチェックしてみてください。
ライブ配信の視聴チケットは9月23日(火)まで発売中です!
日程:2020年9月21日(月・祝)開場15時、開演16時
会場:東京・LINE CUBE SHIBUYA (ライブ配信)
※指定席のチケットは既に完売しております
ライブ配信視聴チケット料金:3000円
アーカイブ期間:9月22日(火)23時59分まで
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