戦中・戦後にわたる樺太での悲惨な生活から、生きるために働いた炭鉱での会社員生活。結婚、離婚、転職、子育て、妻の看病と、家族のために働き続けた小林まさるさん。ようやく訪れた定年後、ひょんなことから息子の嫁である、料理研究家のアシスタントとなり、91歳となるまさに今、みずからも料理研究家としてテレビや雑誌で大活躍中だ。常に前向きに生きる、まさるさんの信念とは――。

家族円満に暮らすための、まさるの3カ条

現在まさるさんは、息子と、嫁で料理研究家のまさみさん、愛犬ヴァトンの3人と1匹暮らしだ。

91歳のシニア料理研究家で、料理アシスタント歴21年の小林まさるさん。アシスタントとして支えるのは、息子の嫁でテレビや雑誌に引っ張りだこの料理研究家、小林まさみさん(左)。
写真=長野陽一
91歳のシニア料理研究家で、料理アシスタント歴21年の小林まさるさん。アシスタントとして支えるのは、息子の嫁でテレビや雑誌に引っ張りだこの料理研究家、小林まさみさん(左)。

57歳で妻を看取った後は、千葉県の賃貸住宅で暮らすことにした。来たる定年後は北海道に戻って大好きな釣りでもしながら悠々自適な年金暮らしを思い描いていたが、息子が「一緒に住もう」と言ってきた。

再度巡ってきた一人暮らしのチャンスは、息子とまさみさんの結婚の時だったが、

「2人して同居を勧めるんだよ。ありがたいことだから、『うん』って言っちゃった。俺の人生は、諦めの人生(笑)」

息子夫婦との同居を決めたまさるさんが自分に課したことは、“親風を吹かせない”“言っていいことと悪いことを決めておく”“自分なりにできる範囲で息子夫婦に食いぶち(生活費)を入れる”という3カ条だ。

連載「Over80 50年働いてきました」はこちら
連載「Over80 50年働いてきました」はこちら

親だから、家族だからと甘えず、お互いを一人の人間として尊重する。親の介護を経験したからこそ、息子夫婦にその苦労をさせたくなかった。

「一線を引くべきだと思った。最後はどうしても看てもらうことになるんだから、それまでは自分の足で立っていたい」

他にも小さな決め事がある。

旅行は3回誘われたら2回は行って、1回は断る。親子でも義理の言葉はあるから、子供たちの心境を先読みするのだ。

たまに、まさるさんから食事に誘ってご馳走する。親子喧嘩はとことんやったら破綻するから、ほどほどにする。

「あとは一生懸命やっているまさみちゃんを応援することかな」

小林家の愛犬、ラブラドールレトリーバーのヴァトン。「日本盲導犬協会」から預かって小林家で余生を暮らす、繁殖引退犬だ。
写真=長野陽一
小林家の愛犬、ラブラドールレトリーバーのヴァトン。「日本盲導犬協会」から預かって小林家で余生を暮らす、繁殖引退犬だ。